第4話 一人でやるには、広すぎる
カビキラーの刺激臭が漂う廃屋の玄関で、健斗は一人、途方に暮れていた。 源さんのアドバイスで気合は入ったものの、目の前には崩落した階段、腐った床板、そして天井からぶら下がる巨大な蜘蛛の巣。
「……無理だ。これ、営業一人の手に負えるキャパを超えてる」
いくら鑑定スキルがあっても、健斗はあくまで「売るプロ」であり「作るプロ」ではない。不動産経営には、信頼できる**「管理・施工のパートナー」**が不可欠だ。
健斗は再びスマホを握りしめた。 孤独な異世界生活で、真っ先に顔が浮かんだ男がいる。
「あいつなら……。あいつなら、この状況を面白がるはずだ」
コールボタンを押す。相手は大学時代の同期で、現在は実家の工務店で働く一ノ瀬 匠(イチノセ タクミ)。手先が器用すぎて、趣味で「1/1スケールの城」を模型で作るような、筋金入りの建築オタクだ。
『……健斗? お前、失踪したって会社で騒ぎになってるぞ』 「タクミ、詳しい説明は後だ。今すぐ転職する気はないか? 現場は……ちょっとだけ特殊だが、お前の好きな『究極のリノベーション』ができるぞ」 『は? 何言って……』 「今から送る画像を見てくれ」
健斗はスマホのカメラを起動し、ビデオ通話に切り替えた。 画面に映し出されるのは、重力に逆らって浮遊する瓦礫、そして暗闇で光る魔生物の巣。
『……おい。そのCG、どこのゲームだ? 陰影のつき方がリアルすぎるだろ』 「CGじゃない、現実だ。ここは異世界だ、タクミ。建築基準法も、地権者のうるさい注文も、近隣住民のクレームもねえ。あるのは、お前の腕一本でどうにでもなる無限の空間だ」
タクミの目が、画面越しに変わったのが分かった。彼は建築オタクとして、現代日本のガチガチに固まった設計ルールに退屈していたのだ。
『……素材は? 使える木材や石材はどんな感じだ?』 「見たこともない硬度の石や、勝手に発熱する木がある。しかも、魔法で接着や切断ができるらしい。お前の技術と、こっちの魔法が合わされば……『動く家』だって建てられるかもしれない」
タクミが電話の向こうで、工具箱を閉める音をさせた。 『……行き方は?』 「リュック一つ背負って、例の公園の非常階段に来い。俺が今から『招待状(権限)』をスキルで送る」
数時間後、廃屋の前に光の渦が巻き起こり、一人の男が転がり出してきた。 ボストンバッグを抱え、首には愛用のメジャーを下げたタクミだ。
「……マジかよ。本当に空にトカゲが飛んでやがる」 「よう、タクミ。よく来たな」
健斗は、親友と力強く握手を交わした。 タクミはすぐに目の前の廃屋を見上げ、プロの目で構造をなぞり始めた。
「健斗、この柱……魔力を吸って硬化してやがる。削るにはダイヤモンドカッターがいるが、逆に言えば、これを利用すれば1000年は倒れない構造体が作れるぞ」 「だろ? 俺が『客付け(営業)』と『資金調達』をやる。お前は『施工』と『設計』をやってくれ」
最強の営業マンと、変態的技術を持つ工務店二代目。 異世界不動産バブルを勝ち抜く**「最強のバディ」**が、ここに結成された。
「よし、まずはこの『呪い(魔力漏れ)』を配管(パイプ)に繋いで、全室床暖房・24時間給湯システムに転用するぞ」 「最高だな。じゃあ、まずはそのへんの動く鎧(リビングアーマー)を捕まえて、荷物持ちに改造するところから始めるか!」
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