第34話 頬と血を採取し、脊柱を拾う。
「ミーナ、回復薬だ」
キリアムには周囲の目など見えていなかった。
集まった野次馬の誰もが、その光景に唾を飲む。
「あれって、確か魔法使いってやつじゃなかったか」
「え、知らないわよ。でもあの子たちは確か旧市街で薬屋を営んでるおばあさんの家の……」
「確かハイドゥインって名の道具屋じゃなかったか」別の者が話に入る。そしてまた別の者が――。
「確か魔力がないとかって話がなかったか……。そうだ。あの坊主は騎士学生だ。そんで魔力がねえ。同じ学校の生徒が話してるのを聞いたぞ」
ウォールハーデンは広い。
旧市街を含め、旧市街に隣接してある区域内では、キリアムやハイドゥインの道具屋を知っているものは少なくなかった。
魔力がないという話は誰にとっても珍しい。
小耳にはさみ頭の片隅においておく程度には、彼らの興味をそそった。
「……お兄、ちゃま」徐々に顔色を取り戻すミーナ。
「フィートくんと一緒にあっちで待機してて、ニックと一緒に。あとは僕がやるから」
「その姿は、なんなのですか、魔法ですか」
「……言っただろ。イゴールの調合術だって」
キリアムは笑った。
と、背後に疑いの視線で困惑するレアーナの姿があった。
「キリアムなの……」
キリアムは立ち上がり声の方へ振り返った。
「……君か」
「……」
「うん、僕だけど」
琥珀色の瞳はレアーナを見た。
「キリアム……あなたは」
「落ちこぼれなんかじゃない」
「え……」
「僕はもう、おちこぼれじゃない」
キリアムは鼻から深く息を吸い落ち着いた。
「ディートのような裏切り者はレアーナには相応しくない。でも……ごめんね。ディートを殺してしまって。でもきっと、レアーナには、ディートよりもいい人が現れるから。現れるはずだから」
「……キリアム。どうして、泣いてるの?」
「見つかるよ……」
キリアムはうつむき涙をぬぐった。
ずっと葛藤していたのだ。
レアーナが好意を寄せているなら介入すべきでない。
一方でディートの正体も知った。
だからといってやはり自分が関わるべきではない。
レアーナにはその涙の意味は分からない。
キリアムは背を向けた。
「ねえ、キリアム。私は別に……」言葉が途切れ目が泳いだ。
レアーナには想像がついたのだ。
つまり、キリアムは「あの時」近くにいて見ていたのだと。
「待って! 違うの……あれは」
だがキリアムが振り返えることはなかった。
倒壊した市場の屋根が揺れ動いた。
振り向くと瓦礫を振りほどくオルギエルドの姿があった。
「そういえばまだ殺してなかったんだった。ミーナ、これも持っといて」
「……はい」
ミーナは三本の脊柱を受け取った。フィートと合流する。
「おのれ……。貴様は誰だ」
重い腰を上げ立ち上がったオルギエルド。
キリアムを睨み、脊柱の先端を向け激しく警戒している。
「それって杖だよね。じゃああれも杖か……。お前の中にある脊柱とどう違うの?」
「誰かと聞いている!」
睨むオルギエルドの様子をキリアムは
その目は森でクリーチャーを見かけた際と同しものだ。
相手は人間だが、キリアムには獲物にしか見えていなかった。
「ダミアン……レン……ディートハルト……」手前から順番に視線で死体をなぞるオルギエルド。視線はキリアムへ戻る。「我ら髄の魔法使いが……このようなところで。お前のような者に」
「お前らさえいなければこんな騒ぎは起こらず、僕は明日からもミーナやフィートくんと一緒にここで暮らせたんだろう。そう思うと、悔やんでも悔やみきれない」
「その姿はなんだ。貴様は確か……そうだ騎士生だ。いま思い出したぞ。ディートハルトの言っていた幼馴染の騎士生。魔力のない……」
「ちょっとずつだけど、多分、前よりは居心地がよくなってたんだと思うんだ。うん。多分そうだ。馬鹿にする生徒も減ってきたし、クラスのみんなだって普通に話しかけてくれるようになった。そのうち徐々に徐々に、居場所は今よりずっと気持ちのいいものになっていったはずだ」
「答えろ。お前は何者だ。その力は……」
「それをお前らが奪い取った」キリアムの眼光がオルギエルドを正確に捉えた。狙いは首だ。
「何のはなっ……し、だ……」
――オルギエルドは自分の首が切断されたことに気づかなかった。気づく前に声は止み、絶命したのだ。
その一瞬は誰にも見えなかった。
銀騎士と同列か、それ以上であるヴィンセントですら当然のように分からない。
キリアムは同様に、オルギエルドの頬と血を採取し、首を捨てると脊柱を拾った。
ハイドゥインの地下室~騎士学院の落ちこぼれ、調合師にて最強! 酒とゾンビ/蒸留ロメロ @saketozombie210
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ハイドゥインの地下室~騎士学院の落ちこぼれ、調合師にて最強!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます