第20話 誤飲

「なるほど、血を絶っていたことでホルモンバランスに異常をきたしていたのか、それが正常になった。だが今の一滴でそんなことが……」


 フィートくんは背丈も少し伸びていた。

 もう大人の女性に見える。


「フィートくん、これをつかって」

「……ありがとう」


 急な成長で制服が部分的に破れいた。

 僕は自分の来ていたローブをフィートくんいかけた。


「細かい話は抜きにして、サマラをスメラギ―を処理するぞ。銀騎士が国外に出張っている今、この国にはこのあのレベルの騎士しかいない。偶々でも俺を剣を受け止めた坊主の方がまだマシだ。ところで坊主、話はあとにすると言ったが、その目、まさか坊主も吸血じゃないだろうなあ」

「ち、違います!」

「……そうか? 浮き上がった血管に、変色した肌。瞳はまるで猫のような、蛇にも見える」


 今知ったけど、僕の手が蒼白になっていた。

 顔色もこんな感じなんだろうか。


「どうも具合が悪いという感じでもないなあ。まあ違うならいい」


 ヴィンセントさんは銀剣を握りしめ、周囲へ目を向けた。


「ウファナ・プティカ、サマラは任せた」


 するとそう言って広場へ走っていった。


「……キリアム」


 フィートくんはどこかよそよそしく僕の名前を呼んだ。

 その表情からは、いつもの強気な様子は窺えない。

 それにしても、始めてあった時から美少年だとは思ってたけど、今は絶世と言ってもいいほどの美女だ。

 人間離れしている。


「隠しててごめん……」

「いいよ。僕だって調合のことは隠してたんだ。おあいこさ」


 そう言うと、フィートくんは恥ずかしそうに笑った。

 これからは君付けで呼べなくなる。


『キリアム、フィートの胸の谷間ばっかり見てんじゃねえぞ』

「……」


 余計なことを言うイゴール。


「見てないよ……」


 小声で嫌味を言った。


「え、何か言った?」

「ううん、なんにも。それよりレアーナ……」


 僕はレアーナの元へ駆けた。

 でもレアーナは意識はあり、体は動かしにくそうだけど声は出せた。


「キリアム……あれ? この人は……」

「フィートくんだよ」

「フィート、くん?……そう、なの。ふふ、こっちの方が似合ってるわ」

「あ、ありがとう……」


 レアーナは目が虚ろだった。

 僕は直ぐに回復薬を取り出し、レアーナの口元に注いだ。


「しばらくしたら効いてくるよ。今はここにいて」

「キリアム、ダメ……キリアムが言っても……」

「僕なら平気だよ」


 どうやらレアーナは衝撃から混乱しているようだった。

 レアーナの中の僕は弱い。

 そう思わせることばかり呟く。


「レアーナ、ここにいて……」

「キリアム、そろそろサマラを片づけよう。なんか数が増えてきたよ」

「うん」


 僕はマグロ切り包丁を握りしめた。




 ▽




「キリアム!」


 フィートくんの合図で僕はサマラから作った捕縛剤をサマラへ投げた。

 瓶が接触し割れた直後、瞬時に根が湧き出しサマラを拘束する。


「はあああああ!」


 そこをフィートくんが銀剣で両断した。


「ありがとう、助かったよ」


 騎士の人は感謝の言葉を告げたあと、フィートくんの容姿に見惚れ、頬を赤くしていた。


「キリアム、次だ!」

「分かった、でもあと二つしかないよ」

「もう少し作れないの?」

「素材はあるけど瓶が足りないんだ」


 そんな話をしていた時だった。

 僕とフィートくん間に巨大な根が叩きつけた。

 互いに距離を取り回避するも、その大きな存在は他のサマラへの注意へ一瞬で奪い、僕たちは動きが止まった。


「スメラギーか……」


 広場を囲んでいた建物がすべて崩壊すると、隠れていたスメラギー姿を現した。

 見ると足元でヴィンセントさんが戦っている。

 動きは流石だけど、全然歯が立っていない。


 スメラギーとは言わばサマラの亜種だ。

 それはサマラから派生したもので、サマラが木のクリーチャーなら、スメラギーは大木のクリーチャーだ。

 姿は巨大な裸体の女性で、下半身は巨大な根っこになっていて、頭には同化した大樹が生えている。

 全長としては建物4階分はあるだろうか。

 そんなものが広場で暴れまわっている。


「キリアム、あの狩人に合流する?」


 僕はちらっとイゴールの顔を窺い判断を求めたけど、『自分で決めろと』干渉する気がないみたいだった。

 多分僕に学ばせたいんだろうとは思う。


 フィートくんのおかげでサマラもそれなりには減った。

 まだ町のあちこちから匂いはするから、見えないだけでいるにはいるんだろう。

 でもそろそろ親玉に取り掛かった方がいいかもしれない。


「そうだね。フィートくん、スメラギーを倒そう」

「まずはあの根っこをどうするかだね」


 質量が増した分、動きは遅い。

 でも遅いわけでもない。

 動きを見せるたびに風圧もあるし、ちょっと触れるだけで弾き飛ばされる。


「キリアム、いくよ!」


 フィートくんが一人で飛び出していった。


「フィートくん!」

「大丈夫だよ! キリアムの血を飲んでから、なんだか調子がいんだ。体も軽いし」

「そ、そうなんだ」


 複雑な気分だ。

 でもフィートくんの表情は晴れ晴れとしていた。


 周囲のサマラを置き去りに走るフィートくんは、スメラギーの根に飛び移り、本体の女体へ向けて根を駆け上がっていく。


「凄い……」

『流石は吸血鬼、って感じか? そのらへんの騎士よりよほど優れてやがるぞ。動きだけなら強化薬を飲んだキリアム並みだ』


 イゴールも興味深そうに眺めていた。


「だね……」

『関心してる場合じゃねえな。キリアム、次はスメラギの根を採取するぞ。それ使ってこいつを捕縛する』

「え、この巨体を?」

『そうだ。次は大瓶で作れ。仕方ねえから血はサマラのものを使え、量は多めにな。そんでさっきと同じように酒を入れる。これで捕縛剤【大】の完成だ』

「分かった! じゃあ僕もいくよ!」

『おいキリアム! 待て、それは――』


 イゴールの声が聞こえた時、気づいた。

 でももう遅かった。

 僕は手に持っていた小瓶を口に添え、飲んでしまっていたのだ。

 それは先ほど作ったサマラの捕縛剤で、イゴールが飲み物ではないと言っていたものだ。

 でも僕はうっかり忘れていて……。


「うっ!」

『キリアム!』

「うわぁあああああああああ!」


 突然、左腕から大量の根が際限なく生えだした。


「うわぁああああ!」


 それは激痛を伴う一方で、反動に体もっていかれて判断力も鈍り、何が起きているのか分からない。


『キリアム、しっかりしろ!』

「キリアム!」


 イゴールとフィートくんの声が聞こえたけど、二人の姿は見えない。

 激痛の中、僕を根が侵蝕していく。

 一つの間違いで、僕は動くことすらできない状況に陥ってしまった。


「くっ……」


 気づくと視界は暗く、おそらく左腕から生えた根に閉じ込められているんだろうと思う。

 左腕に何か濡れたものの感触がった。

 そして何故か感覚がない。

 その時が正面に眩しい日差しが差し込み、そこにフィートくんの姿が見えた。


「キリアム!」

「フィート、くん……」


 フィートくんが僕を中から救い出してくれた。

 すると一瞬イゴールの顔が見える。

 何ともいえない表情をしている。


「キリアム、しっかりしろ!」

「……フィートくん。左腕が……あれ?」


 そうか……僕は、ミスった。


「キリアム。腕が……」


 何となく違和感があり、視線を向けると、僕の左腕がなくなっていた。

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