第12話 ファイブリース家
偶然出くわしたから助けた。それだけのことだ。
でも学年主任の先生曰く、機転を利かせ生徒を助けたことは評価に値するらしい。
でも今回は特例で大事にはできないとも言っていた。
本来なら表彰状を送るそうだ。
ワルドナー先生は別として、手の平返しの先生や生徒の反応はどこか納得できない部分もありつつ、今の僕には心地よくはないけど悪くもなかった。
『お前はただ胸をはって構えてりゃいんだよ』
「クンククンク!」
職員室から出ると、イゴールとニックはそう言った。
「うん……」
教室へ戻ろうと校長室の前を通りかかった時、そこにトーマスくんの姿があった。
隣に見かけない大人がいる。
トーマスくんと同じ金色の髪だ。でも髪は肩にかかるほど長い。
「キリアム……」
トーマスくんは僕に気づくと驚き、そして目を背けた。
「ん?……トーマス、もしや彼がそうか」
「……はい」
「そうか」
その人は僕の方へと歩いてきた。
「はじめまして、私はトーマスの父親のヘクターだ」
「はじめまして……僕は」
「キリアム・ハイドゥインくんだね」
「……はい」
軽くはにかむ表情なのにどこか怖い。
僕は自然と警戒していた。
「森では息子を助けていただき助かった。大変感謝している。不甲斐ない息子は自分でケツも拭けぬ愚かな子供だ」
自分の子供に向かって言うセリフとは思えない。
ヘクターさんはおもむろに窓際へ歩くと、そこから外を眺めた。
外にはグラウンドがある。
「ファイブリースにとって重要なこと、それはただ頂点であり続けることだ。そうだろ、トーマス」
「はい、父上……」
「下はあれど上はない。常に見下せる立場に身をおかなければいけない、だが見下す必要はない。腰を据え、眺めていればいいのだ。そのために周囲が認めるほどに頂点でなければならない。でなければ貴族としての体裁を失う……トーマス、忘れたわけではあるまいな」
「はい、父上……」
「キリアムくんと言ったね」
「はい」
ヘクターさんは僕へ視線を移した。
「貴族から体裁が消えると、そこには何が残るか分かるかい?」
「……わかりません」
「失脚だよ」
「……」
「ファイブリース家はウォールハーデンにおける貴族たちの頂点でなければならないのだ。それがファイブリースとしての在り方であり義務なのだ。一度失脚すればもう二度とファイブリースは戻らない。言っている意味は分かるか?」
「……はい。なんとなくですけど」
「それでいい。では恥を承知で愚かな息子に代わって頼みがあるのだが、今後一切、この一件を口にしないとこの場で誓ってほしいのだ」
トーマスくんは俯いていたまま、こっちを見ようとはしない。
「森での出来事ですか、でもあれくらい……」
「あれくらいだと? 今言わなかったか……頂点でなければいけないと。どんな小さなミスも許されないのだ。息子の汚名でさえも貴族にとっては恥だ。ファイブリースの失脚を目論む連中は数知れない。“あれくらい”、であっても、事実であっては困るのだ。あとは君が黙っていればこの一件は……」
「――聞き捨てなりませんね」
そこで馴染みのある声が聞こえた。
振り向くとそこにはレアーナの姿があった。
「ファイブリースの党首が生徒を恐喝ですか」
「これはこれはゴールドバーグ殿、いやはや、恐喝とは人聞きがは悪い……」
レアーナはヘクターさんを睨んでいた。
「頼んでいるだけですよ。あまりペラペラ喋らないでほしいと。ただそれだけのことです。バカ息子はプライドだけは一人前で、自分では頼めもしないと言うのでね。ですが、もう用事は済みました。」
こんな言い方をされているのに、トーマスくんはまだ俯いたままだ。
『典型的な貴族だな。これを親を持つとは不憫な奴だ』
イゴールはトーマスくんい同情していた。
ニックも機嫌を悪そうにしている。
「ところで、何故クリーチャーが学校の敷地内にいる。おかしな話だ……私が処理しておこう――」
ヘクターさんはどこからともなく銀剣を取り出し、ニックへ振り下ろした。
すると自然に体が動き、気づくとマグロ切り包丁を抜く。
廊下に金属音が響くと、僕はヘクターさんの剣先を止めていた。
「……貴様。私のお剣を……なんだ、それは」
『いい反射神経だ。昨日の強化薬がまだ体に残ってて良かったなあ。それにしてもこいつ、まじでニックを殺す気だったぞ』
ニックはびっくりして尻餅をつくと、慌てて立ち上がり僕の後ろに隠れた。
「うっ……」
ヘクターさんは顔を真っ赤にして力んでいた。
『無駄だ。いくらリトルバースを使おうとハイドゥインの力には勝てねえ』
ヘクターさんはどうやら剣先に力を籠め、僕のマグロ切り包丁を押し出そうとしているようだ。
でもイゴールの言う通り、僕はなんの圧力も感じていなかった。
まるで軽い。
ヘクターさんは剣を離すと鼻息をもらし、納めた。
「帰るぞ――」
睨みながら背を向け、その場を去った。
トーマスくんは一瞬僕の目を見たけど、何も言わずにその後ろをついて去って行った。
「キリアム……」
「……」
『彼女が待ってんぞ』
イゴールはそう言ってニヤニヤしていた。
イゴールはあの時、僕の血から情報を得たらしい。
だから僕におばあちゃんがいることも妹がいることも知っていた。
だから僕が学校で上手くいっていないことも知っていたし、トーマスくんのことも知っていた。
つまりレアーナのことも知っている。
「キリアム。私は……」
『ほれほれ、行っちまえよ。ほれほれ』
「うるさい……」
「え……」
「いや、違うんだ……その」
「……」
イゴールめ……。
「僕と関わるとレアーナに被害が及ぶから……だから、僕とはいない方がいい」
「キリアム……」
「それだけ……」
「私は、そんなこと気にしないわ」
「…………それに、僕は不正なんてしたくなかった」
「……どういうこと?」
「レアーナが頼んだんでしょ? それとも……」
「待って、一体なんの話?」
「入学のことだよ。僕は本当は落とされるはずだった。 でも、レアーナが根回しして……」
「――してないわ!」
「え……」
「私は何もしてないわ。お父さんにも頼んでない」
「そんなはず……だって僕には魔力がないんだよ? そんなはずないよ」
レアーナは困惑したような表情だった。
「……少なくとも私は何もしてない。お父さんも何もしていないはずよ。キリアムはお父さんのことを知ってるでしょ? キリアムが曲がったことは嫌いだって、お父さんも知ってるわ」
『なんだ? どういうことだ? この嬢ちゃんが頼み込んでたんじゃなかったのか?』
「キリアムの入学は学校側が決めたことよ」
ウォールハーデンにおいて騎士の本質はリトルバースであり魔力だ。
何で学校は僕を……。
「ごめん……僕の、勘違いだったみたいだ。ごめん、知らなかったんだ……」
レアーナは気にしてないと微笑んでいた。
でも、どうなんだろうか。
また前みたいに上手くやっていけるものなんだろうか。
どっちにしても周囲は僕とレアーナがつるむことを望んでいないだろう。
親衛隊の人にまた何か言われそうだ。
「――ナニユエナンダロウ……」
「そんなはずは!?」
背後で突然、聞き覚えのある声が聞こえた。
そして振り返る。
『……なるほどな。どうやらニックの匂いを追ってきたらしい』
「なんでこんなところに……」
学校の廊下に、エドワードの姿があった。
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