第2話


 その日は、亮の誕生日で、亮の部屋には彼の友人たちが集まっていた。凛も、腕をふるってケーキや軽食を作ってやった。亮の友達は、長男のしょうも誘ってくれていて、凛は微笑ましく思いながら、仕事に戻った。

「よそから来たから、友達ができるかどうか心配だったけど、大丈夫だったみたいね」

 凛が奏汰に言う。

「子供なんてそんなもんなんじゃない?」

「そうかもね」


 その夜のことだった。

 亮の部屋から、大きな声がした。

「ええ〜〜っ?!」

 翔の声だ。

「嘘。そんなはずないって。ちゃんと数えろって」

「だからさ、これが、こいつのじゃん?そしたらさ、これ、余ってない?」

 説明する亮の声。

「えーーっ! そんなはずないない!」


 あまりにも二人の声が大きいので、

「なんだろう、見てくる」

 凛は奏汰にそう言って、亮の部屋に様子を見に行った。

 亮の部屋には翔もいて、二人でスマホの画面を見て、ああでもないこうでもないと騒いでいる。

「なにごと?」

 凛が二人に尋ねると、二人はそのスマホを持って、慌てたように、凛に見せに来た。

「お母さん、この写真、おかしくない?」

「ええ?」

 見ると、誕生日会で、皆で壁の前に集まって、記念撮影をしている写真。みんなそれぞれにポーズをとって、楽しそうだ。翔がいないのは、彼がこの写真を撮ったからだろう。

「楽しそうな写真だけど、なにがおかしいの?」

 凛が二人に尋ねると、

「手の数がね、一本多いんだ」

 亮が言った。


 ゾッとした。


「何かの見間違いじゃない?」

 正直、気味が悪くて、凛はそう言うと、さっさとスマホを亮に返して、部屋を出た。

 確認したわけではない。確認するのが怖かった。凛は、その手の話は得意ではない。


 そのうち、翔と亮は、リビングにやってきて、奏汰にその写真を見せた。

「お父さん、この写真、PC画面で見られる?」

「なんだ? ああ、さっきお母さんが『変な写真』って言ってたの、これか」

「うん。確かめたいことがあってさ」

「ちょっと待ってろよ」

 奏汰はスマホとPCを操作すると、その画面をPCのモニターに映し出した。

 それを見て、二人は

「これが、ゆうのでしょ? こっちがはやてので……」

 また、手の本数を数え始めたようだ。

「ほら、やっぱり一本多いって」

「「あ!」」

 二人は同時に声を上げた。

「お父さん、ここ! ここ拡大して!」

 奏汰が言われるままに拡大してわかった。

「この手、壁から出てる……」


 今度は、奏汰がゾッとする番だった。


「心霊写真かなあ?」

「壁から手が出てるとか怖すぎだろ」

「うわ〜、俺、あの部屋で寝ないといけないのに?」

「とりあえずさ、この写真、皆に送っとこうよ」

「そうだね」


 兄弟で話しているが、凛はそこにストップをかけた。

「本当に心霊写真だったらどうするの? 誰か詳しい人に見てもらってからにしない? みんなで撮ったの、それ一枚だけじゃないんでしょ? 共有するなら、そっちにしなさいよ」

「そうだけどさあ、気になるじゃん」

 亮は不満そうに言う。

「その写真持ってるだけで呪われたりするかもよ?」

「そ、それは困るよ」

「まあまあまあ、それが心霊写真かどうか決まったわけじゃないんだし。でも心配だから、お父さんとお母さんに任せてくれないか?」

 そう言って、奏汰は、その写真をプリントアウトした。

「今、ネットで調べたら、そういうの見てくれる神社があるらしい。これ、そこに送ってみるよ」

 奏汰が息子たちに言うと、二人は顔を見合わせ、

「わかった。それまでは誰にも送信しない」

 頷いて、そう言った。


 亮は、自分の部屋で一人で寝るのを怖がって、翔の部屋に布団を持って行って一緒に寝ることになった。

「気持ち悪いわねえ」

 台所で奏汰と凛、二人で、写真を見る。

「こんなにはっきりと写るものなのかねえ」

 奏汰も、どうやったらこんなふうな写真が撮れるのかわからない。

「まあ、写真やってるやつにも聞いてみるよ」

「悪いものじゃないといいんだけどね」

「そうだな」



 店の定休日は月曜日だ。

 凛は、髪が随分と長くなったので、この際バッサリ切ろうかと、近くの美容院を訪ねた。

「いらっしゃいませ」

 初めてなのに気さくな感じで話をしてくれる美容師で、凛は、細かく相談しながら髪型を決めた。


「ああ、あのカフェの店長さんなんだ」

 美容師は、カラーリングをしながら話しかけてくる。

「そうなんですよ〜、是非来てくださいね〜」

「コーヒーも食事も美味しいって噂よ〜」

「ホント? よかった〜」

「あの家、誰か入るかなあ? って、皆心配してたから」

「心配?」

「もう昔の話だけど、あんなことがあったしねえ」

「あんなこと?」

「あっ……」

 美容師は、しまった、という顔をした。


「何が、あったんですか?」

 鏡に映る美容師の目を見ながら、凛は問う。

「ふ、不動産屋さんに聞かなかったの?」

「何を?」

「あの家、訳あり物件だって……」

「ええっ?」

 凛は思い出す。確かに古民家と言えど、安すぎるとは思ったことを。

「それは……例えば、幽霊が出るとか?」

「あー、違う違う、そんなんじゃなくて、もっとリアルな感じ」

「リアル?」

「私なんかが言っちゃっていいのかなあ……」

 一旦、カラーを落ち着かせるから、と、美容師は席を外した。


「カフェの店長さんに出せるほどの物ではないんだけど、よかったらどうぞ」

 美容師は、コーヒーを持って帰ってきた。

「ありがとうございます。……あの……それで?」

 凛は、彼女に話の先を急かした。

「あれは確かねえ、7年前くらいだったかなあ。7月の終わりだったと記憶してるんだけど……」


 美容師は、当時のことを思い出しながら、凛に話して聞かせた。

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