第6話 母とプロギラ星人と俺
どこか半信半疑のまま、俺はこいつを家へ連れて帰った。
パートが終わって帰宅する母に、紹介しようと思ったからだ。
それまで、まだ二時間ほどある。
時間潰しも兼ねて、話をしていようと思っていた。
(しかし……見た目は人型なのに、真っ白で、目も耳も口もない)
『そんなにジロジロ見るな。ちゃんと感情もある』
(……反応、早っ)
「悪かったよ。異星人――エイリアンなんて、初めて見たからさ」
『だろうな。この星は、他の星人にほとんど荒らされていない。
我々のような友好的なプロギラ星人で、幸運だったな』
文末で、猫が喉を鳴らすような「ゴロゴロ」という音が混じる。
「俺の名前は出雲 昇。
あんたの名前は? それと年齢とか、性別とか……。
俺は十六歳、男。よろしく」
『我々の星では、ジイクと呼ばれている。
年齢は百五十歳。もっとも、この星の数え方でだが。
性別は――この星のような男とか女とかではない。一つしかないんだ』
「ジイク、ね。
百五十歳って……寿命はどれくらいなんだ?
性別が一つって?」
『プロギラ星人に“死”という概念はない。
繁殖のための性別はない。
我々は、この肉体を分割することで増える』
「……ちぎって、増える?」
『そうだ』
「……すげえな」
正直、まったく理解できなかった。
だが、未知の存在にいちいち驚いても仕方ない。
俺は、それ以上深く考えないことにした。
それからの時間は、意外にも穏やかに過ぎていった。
俺は家族のことを話し、
ジイクは、どうやってこの星に辿り着いたのかを語った。
気づけば、会話は途切れることなく続いていた。
――まさか、自殺しようとしていた日に、
宇宙人と世間話をすることになるなんてな。
そんな皮肉を、俺は心の中で小さく笑った。
○●●◆
玄関の鍵を回す、ガチャガチャという音。
続いて、ドアが開く音がした。
「ふぅ……疲れた」
母はそう呟きながら家に入り、靴を脱ぐ。
そして廊下に俺の姿を見つけると、驚いたように目を見開いた。
「お、おかえり。母さん」
まともに母の顔を見るのは、いつぶりだろう。
「昇……ただいま。
……気持ち、少しは落ち着いたの?」
その声には、気遣いと、はっきりした不安が滲んでいた。
「ああ。大丈夫だよ」
『何を言っている。さっきまで死のうとしていたくせに』
「――え?」
母の顔色が、さっと変わる。
「あっ、バカ! 余計なこと言うなよ!」
思わず叫んでから、はっとする。
「……え? 母さんにも、今の声が聞こえたのか?」
「昇……今の声。
“死のうとしてた”って……どういうこと?」
逃げ場は、なかった。
「……ジイク。
今までのこと、母さんに説明してくれないか」
『ああ。構わない』
その声は、今度は母にだけ届いているらしい。
母は白い人型――ジイクの方を見つめていたが、話が進むにつれ、次第に視線を落とし、やがて目を逸らした。
どれくらい時間が経っただろう。
体感では、十五分ほど。
「……信じられない」
話を聞き終えた母が、ぽつりと呟いた。
だが、どうやら再生の映像――あの“証拠”も見せられたようだ。
母はしばらく黙り込み、それから俺の方を見た。
「……昇が、この変なエイリアンを信じて、任せるっていうなら……
私は、反対しない」
母の声は震えていた。
「あんたが、どれだけ苦しんでたか……
分かってたつもりだった。でも……
まさか、本当にそんなことまで考えてたなんて……」
涙が、頬を伝って落ちる。
『お母さん。昇君』
ジイクの声は、先ほどよりも少しだけ柔らかかった。
『この件には、お父さんの同意も必要です。
その前に、いくつか説明しておかなければならないことがあります』
母は、涙を拭いながら顔を上げる。
『まず――極めて稀ですが、身体が拒否反応を示した場合、
我々は一体化することができません』
『そして、契約は一回につき、一つのみです。
仮に今回、右腕を再生したとして――
その後の契約期間中に別の部位を失っても、2つ目は再生はできません』
空気が、重く沈んだ。
『今、すべてを説明しても、正確には覚えられないでしょう。
後日、文書にまとめてお届けします』
『それまでに、ご家族で、よく話し合ってください』
ジイクは一拍置いて、こう続けた。
『では本日は、これで失礼します』
白い身体が、ふっと光に溶けるように薄れていく。
居間には、俺と母だけが残された。
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