第5話 プロギラ星人との出会い

 涙が頬を伝い、床に落ちていく。そのまま拭う気力もなく、俺はぼんやりと部屋を見回していた。

 何も考えられない――いや、考えたくなかったのかもしれない。


 それでも、違和感だけははっきりと目に入った。

 壁に貼ってあった、俺の好きなマジ○ク・ジョ○ソ○のポスター。棚の上に並んでいたバスケ関連の雑貨。部屋の隅に転がっていたはずのバスケットボール。

 それらが、きれいさっぱり消えていた。


 ――今さら、気づくなんてな。

 きっと、家族なりの気遣いなのだろう。見れば思い出してしまうから。期待してしまうから。


 「死のう」


 不意に、頭の中に浮かんだ言葉。

 一度芽生えたそれを、消し去ることはできなかった。そして俺は、それを“考え”ではなく、“決意”に変えてしまった。


 向かう先は、家の裏山。

 幼い頃から何度も走り回った、俺にとってのホームグラウンドだ。ただし、奥へ進めば切り立った渓谷があり、そこから先は立ち入り禁止。警告の柵や立て札が、幾つも立てられている。


◆○◆○


 立ち入り禁止の柵を越え、荒れた草木をかき分ける。やがて、切り立った渓谷を見下ろせる場所に立った。

 今の俺の身体には、かなりきつい。何度もよろけ、重心を保ちながら、ようやく辿り着いた。


 思った以上に時間がかかっていた。

 ――元スポーツマンも形無し、だな。


(あっ、遺書とか書いた方が良かったかな……。まあ、今の俺の状況なら、言わずもがなか)


 俺は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。そして、目を閉じた。


(よし……今だ)


 その瞬間だった。

 まぶたの裏からでも分かるほど、刺すような光が視界を満たした。


「な……なんだ、この光は⁉」


 思わず目を開く。しかし、あまりの眩しさに、何も見えない。


 そのとき――

 昇の脳裏に、正体不明の声が直接響いた。


『地球人よ。君の手は、元に戻せる』


(……なんだ、この声は⁉ 俺、とうとうおかしくなったのか?)


『ただし、我々との契約が必要だ。期限は無限ではないが……』


 声は続く。


『緊急事態ゆえ、要点だけ伝える。君が失った右腕を、蘇らせることができる。もちろん――バスケットボールも可能だ』


「ほ、本当か⁉」 思わず声が出た。


「おまえは何者なんだ? 人間……じゃないよな?」


 化け物でも、宇宙人でも構わない。

 右腕を元に戻せる。

 ――そして、バスケットができる。


「た、頼む。姿を見せてくれないか」


『了解した』


 次の瞬間、光の中から人影が浮かび上がった。

 人間型ではあるが、まるで蝋人形のように全身が白い、無機質な存在。


『我々は、プロギラ星から来た者だ。戦闘的な種族ではない』


「プロギラ星……?」


『我々は、我々のような弱い星人なりに生き延びる方法を模索してきた。その結果、自らの特性を生かし、“障害星人サポーター”という活動を始めた』


「……なんだよ、それ」


 プロギラ星人――そう名乗った存在は、妙に営業マンめいた口調で説明を続けた。


「つまり、いろんな星を回って、障害を負った存在を助けるってことか」


『概ね、その理解で正しい。ただし、我々が提供するのは道具ではない。細胞レベルでの完全再生だ』


「そんなこと……できるのか?」


『百聞は一見にしかず。思念映像で、実例を見せよう』


 眼も口もない白い存在。しかし、その“思念”は、確かに俺の脳に流れ込んできた。


「うわ……気持ち悪……」


 イカのような姿をした星人の、二本の脚が千切れている。

 だが、その断面から、根のようなものが伸び始め、早回しの映像のように、わずか数秒で元通りの脚が再生された。


『こちらはどうだ。地球人に近い』


「うっ……こっちも、グロいな……」


 魚のような顔をした人型の星人。

 両腕が失われているその身体から、骨が伸び、血管が走り、筋肉が盛り上がり――瞬く間に、完全な両腕と手が形作られた。


「……こんなことが、本当に……」


『我々は他種族と一体化し、その身体構造をコピーできるのだ』


「そ、そんな……」


 俺は夢を見ているのか。

 いや――。


『これは夢ではない』


 白い存在の声が、静かに断言した。

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