第4話 生きていく希望が見えない

病院を退院し、家に戻った。


見慣れたはずの家なのに、まるで別の場所のように感じる。

二階の自分の部屋へ向かうだけで、身体の右半分――肩から手にかけて、耐えがたい重みと痛みがのしかかる。まるで鉛を載せられているみたいだ。

痛み止めは、本当に効いているのだろうか。


医者は「日にち薬だ。焦らずいこう」と言っていた。

一週間後には、リハビリを兼ねて通院も始まるらしい。


母は、今の俺にどう接すればいいのか分からない様子だった。

それでも、荷物を持ってくれたり、タクシーの乗り降りを助けてくれたり、階段でふらついた俺の身体を、何度も支えてくれた。


――それが、無性に悲しかった。


俺はもう、年老いていく両親を支える側ではなくなるのか。

そんな卑屈な考えしか浮かばず、向けられる優しさを素直に受け取れない自分が、情けなかった。


◆○◆○

三週間後。


俺は、相変わらず遅い時間に目を覚ます。

ドアを開けると、床に置かれたお盆が目に入る。少し慣れてきた左手でそれを持ち上げ、机の上に置いた。


あれからずっと引きこもりだ。学校には一度も行けていない。

事故のこともあってか、学校から無理に来いとは言われなかった。


(どうせ行ったって、俺はもう“障害者”なんだ)


皆の動きについていけないのは、分かりきっている。

歩くことさえ、思うようにできないのだから。


目の前の食事を、健常の左手でスプーンを口へ運ぶ。

それだけの動作が、ひどく難しい。味なんて、まるで分からなかった。


(……うっ、うう)


情けない。

俺は、あれから何度泣いたのだろう。それでも、涙は勝手にあふれてくる。















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