第3話

 十九歳になった頃、ウフは進路選択を迫られていた。学園を卒業して一年、何をするわけでもなく山賊を狩っては賞金を貰うだけの生活をしていた。

 ウフの悩むところはこのままギルドへ行くか、貴族に本腰を入れるか。まぁすでに答えが出ている気もするが。

 ウフはムリールと険悪になっていた。ムリールとは彼の父でありエグラウス家の当主である。実はモルスの経済が最近悪くなって、他の貴族からもエグラウス家が批判されているのだ。そして実際、ウフもムリールの政策に苦言を呈したので、喧嘩になった。本人の思っているよりもモルスの治安は悪くなっており、その影響での山賊狩りでもある。

 いや、無いが。


 ウフは久しぶりに旅行した。ムリールには一言も残さず。止められるのが落ちだから。

 ポルトイは港町。向こうには外国がある。だからいろんな情報が入る。してやはりかとウフは頷いた。そのまま久々に友人を訪ねて酒場へ。情報屋のところへ。

 

 「あんたの父、派手にやるじゃねえか。この前は転生者を一遍に二十人粛清したってな」

 「僕が裏で狩ったのも含めたら五十は超えるよ」

 「酷い親子だ」

 「誤解するな。僕は正真正銘の善人さ。転生者差別なんてしない。転生者にも悪いやつがいる」

 「能力を悪用して人身売買してた連中か? そういや、最近減ったな」

 「臓器売買もだ」

 「で、今度はうちの町のヤクザァか?」

 「なんだそれ」

 「新しい転生者盗賊団。まぁ可愛いもんさ。そいつらもたまに転生者蹴散らしてる」

 「どこも転生者に悩まされているな」

 「当たり前だ。アイツらは武力だけじゃねえ、頭も良い。見ろよ、船の上にでっかい影ができているだろ。飛行船だってよ。観光客も増えたが、聖教は終わったな」


 と、つまらない話をいくらかした。

 その結果。ウフはヤクザァへ喧嘩を売りに行った。

 なぜかはわからない。酔っ払いの気分などわからない。


 結論から言えばウフはヤクザァを激怒させた。そのせいでポルトイで抗争が起こった。ヤクザァは三種類ぐらいいた。お互いに別の組がやったに違いないと町が荒れたのだ。こうなると騎士団が出てきそうなものだが、来ない。なぜかって?


 「ふぅ。汚職逮捕」城の広間で横たわる無数の鎧姿の上。


 ウフはそのとき騎士団を壊滅させていたからだ。そもそもヤクザァと吊るんでいたからこうしたと犯人は供述しており(ry

 ともかく厄介なことになった。ヤクザァだけでなく山賊も介入してきた。その山賊がかなりやり手の転生者だった。

 モノクルに可愛らしいシルクハット。渋い白の鼻髭。丘の上から町の夜景を眺めるは張本人。また指が攣りそうなハンドサインをすると風が銃弾に変わった。派手に散る血吹雪へ拍手している。


 「やはり生命は散ってこそ美しい。弱き者もその様は勿論」

 「なら散ってみる?」

 「ほう。お早いですな。王子」


 と手を振るのではなくハンドサイン。今度は地面から銃弾が噴き出てきた。ウフは咄嗟に体をアイアンゴーレムに変貌させて銃弾を弾いた。

 感心するモノクル。血走って笑う狂気の王子。

 

 「山賊狩りは良い。だって手加減しなくて済む。散ってこそ美しい? 散らすのが楽しいのもある。悪党限定だけど!」ゴーレムパンチ。

 「蛙の子は蛙ですな!」ふわりと飛んで躱す。

 「お前のことか?」

 「残念!」風魔法を両手へ集中させた。


 そして解き放ち、ハンドサイン。風は瞬く間にウフを包み込み、弾丸へ化けて八方からのマシンガン。流石のアイアンゴーレムの硬さもここまでの銃撃となると耐え切れない。

 ウフは瞬時に形態変化した。その姿は人間。しかし――風及び銃弾はウフから逆走した。まるで歪むように。


 「王子の能力は変化。なるほど他の転生者にもなれるのですな」

 「ご名答。こいつは重力を操る転生者」

 「私も重力は弾丸にできませんな」

 「でもこっちは始末できる!」


 ウフはモノクルを重くした。厳密にはモノクルのいるポイントを歪めた。モノクルはそこに拘束されてフフフと笑うしかない。が、周りの空気も圧縮されるので酸素がその首を絞めていく。呼吸困難。


 「遺言聞いてやるよ」

 「そうですか。なら教えてください。この重力の転生者をどうやって倒したのですか?」

 「位置変化の転生者だ」

 「なるほど。模範解答ですねっ!」


 ズサリ。血が滝のように噴出した――ウフの腹をモノクルの腕が貫いていた。モノクルが月光に輝く。


 「そうか。魔剣か」

 「ええそうです。このモノクルは置換の能力があります。弾丸と置換しました」

 「この手は?」

 「これは単に修行です。魔術と拳法を習得しただけです。それと今、能力が使えないはずです」

 「なるほど。たしかに」


 そのまま腕は引き抜かれ、ウフは横たわった。

 あたかも死んだように映ったが、違う。ウフは瞬時にスライムへ化けて体を再生する――ところをモノクルは狙っていた。


 「傾向と対策。スライムにはコレ」


 モノクルは液体の入った瓶をスライムへぶち撒けた。エタノール。スライムの水分を奪い、スライムは縮んでいく。だんだんと崩壊していく。

 ウフだったものは見るも容易くバラバラになってしまった。


 「つまり死! 死! 死! 完全勝利!!」


 モノクルは月へ吠えた。そのときだった。モノクルが落っこちて割れた。

 フラフラッと意識が朦朧としてくる。だけでない、体がだんだんと溶けていく。


 「な、なんだこれは? 私の体がおかしい」

 「おかしいのは頭のほうさ。おっさん」王子が物陰から姿を現した。

 「なにっ?」


 しかも三人も。モノクルは目を疑った。そもそもよく見えない。

 モノクルの体に引っ付いていたのがもう一人、そいつがひょろひょろっとモノクルから離れて王子へ戻った。他三人はスライムに戻ってから王子へ戻った。

 

 「実は別解がある。分身でした」

 「分身ができるとは聞いていない」

 「だって初めてやったからね。その溶けているのもよくわからない」

 「なんだと……じゃあ私、死ぬのか」

 「どちらにせよだよ。悪党さん」

 「ぐぬあああ!」


 モノクルはそのままスライムになった。それがちょうど地面に零れていたエタノールに触れて干乾びた。

 こうして王子は戯れを楽しんだわけですが、少し観察して気づいたようだ。感覚が理解と重なった。そしてニヤリ。新たな手法を思いついたらしい。


 「もしかして」


 雑草へさっきの感覚を連ねてみた。すると雑草はスライムになった。しかもこのスライム、意思を持って動く本物のスライム。しかし数秒と経たず死んでしまった。

 

 「そうか。そうか。変化じゃない。僕の本当の力は転生だ。自分だけじゃない。他人も転生させられる。そうか! そうか!――はっはっはっは!!!」


 惨状と夜景に高笑いが轟いた。燃え盛り殺戮が続く町を背にすれば悪魔の降臨じみているが、実際は……。


 その四日後。ムリールは行方不明になった。その代わり閉め切られていた玉座の間にはイノシシと猫のキメラがいた。ひょろひょろと部屋を走る姿は純粋無垢な野獣だった。

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転生させる能力の僕は神に等しい すいすい / 霜惣吹翠 @ritu7869

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