第8話 スキルツリーと、背徳の脂肪移動
深夜、自室。
親も寝静まった暗闇の中、僕は一人、青白く光る「スキルボード」を凝視していた。
「……よし、レベル3。ポイントが溜まってる」
【スキルポイント:3pt 所持】
【スキルツリー開放:美容系/治癒系/特殊系】
ボードには、まるで最新のRPGのような複雑な枝分かれが表示されている。
正直、「特殊系」と言う文言に男のロマンを感じ、真っ先に伸ばしたい気持ちもあった。でも、今の僕は叔母さんの店で働く「プロ(仮)」だ。
「……今後の人数稼ぎの効率を考えたら、これ一択だよな」
僕は震える指で、【美容系枝:Tier1】をタップした。
『豊胸/ヒップアップ効果(脂肪再配置)をアンロックしますか?』
「……脂肪再配置。なんて恐ろしい言葉だ」
説明によれば、デトックスで排出した余分な脂肪を消滅させるのではなく、対象の希望する部位へ移動・固定できるという。つまり、お腹周りの贅肉を胸やヒップへ「引越し」させる、現代の錬金術だ。
「……ポチッとな」
【アンロック完了:脂肪再配置(ナチュラルに+1カップ程度)】
その瞬間、脳内に新しい「手技」のイメージが流れ込んできた。
どう触れれば脂肪が動くのか。どう固定すれば美しいラインになるのか。あまりにも生々しい感触のシミュレーションに、僕は鼻血が出そうになるのを必死で耐えた。
「これ……仕事とはいえ、実戦で使うのは相当な精神力が必要だぞ……」
翌日、叔母の店「癒しの手」。
僕は早速、この新スキルの「実習」を迫られることになった。
「翔太、今日のお客さんは『全身引き締めコース』よ。特にお腹周りを気にしてるから、しっかりね」
恵美さんに背中を押され、VIPルームへ。
そこにいたのは、近所に住むという30代の奥様だった。少しふくよかだが、肌の綺麗な女性だ。
「あら、あなたが恵美さんの言ってた天才高校生? よろしくね。……最近、産後太りが戻らなくて困ってるのよ」
彼女は例のサテンの施術着に着替えていた。
サテン特有のテラテラとした光沢が、彼女の豊かな曲線を強調している。
(……やるしかない。これは修行だ。空を飛ぶための、高徳な修行なんだ!)
【スキル発動:マッサージ Lv3 + 脂肪再配置】
痩せさせるだけなら、デトックスの効果で簡単に痩せさせらると思うが、やっぱり新しく手に入れたスキルというのは試してみたくなる。
指先を彼女の脇腹から下腹部へと滑らせる。
これまでは「ほぐす」だけだった僕の手が、今は「形を作る」ために動く。
指先から伝わる、女性特有の柔らかい脂肪の質感。それを、逃さないように、でも優しく、胸の方向へと誘導していく。
「――っ!? んんっ……、あ、あ…… なんだか、不思議な感じ……」
奥様の声が、熱を帯びた。
脂肪を移動させる際、細胞が活性化されるためか、通常のマッサージよりも強い「快感」を伴うらしい。
「あ、あぁ……っ! 温かいのが……集まってくる……っ。翔太くん、そこ、もっと……グイッてして……っ!」
彼女の肌が汗ばみ、サテンの生地がジリジリと音を立てて張り付く。
僕は必死で平常心を保ちながら、集まった脂肪を理想的な形に整えていく。
指先を通じて、彼女の心臓の鼓動がドクドクと伝わってくる。
「……ふぅ。これで、どうでしょうか」
一時間の格闘を終え、僕は汗だくで手を離した。
奥様はフラフラと立ち上がり、鏡の前で自分の姿を確認するなり、悲鳴を上げた。
「……嘘! お腹が凹んでるのに、胸は脂肪が落ちるどころか、1カップくらい大きくなってない!?」
彼女は自分の胸の重みを確かめるように手のひらで支え、頬を真っ赤に染めて僕を振り返った。
「それに肌もツヤツヤだし。翔太くん……あ、あの、来週も予約していいかしら? 指名で!」
【現在の実績】
累積施術人数:6人
獲得経験値:180exp
ボーナスまで:あと94人
お客様は大満足で帰っていった。
でも、僕は自分の手を見つめ、複雑な気分だった。
このスキルを極めれば極めるほど、僕は女性たちの「秘密」を握る、恐ろしいマッサージ師になってしまう気がする。
「……でも、あと94人で『不可視の手』。やるしかない」
インキャな僕の欲望と正義感は、今日も激しく火花を散らしていた。
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