第4話 髙橋みゆきへのマッサージ

放課後の教室。オレンジ色の西日が、誰もいない机と椅子を長く引き伸ばしている。

静寂の中に、僕の心臓の鼓動だけがやけに大きく響いていた。


「……本当に、いいの? 高木くん」


目の前で、高橋みゆきさんが少し顔を赤らめて僕を見つめている。

彼女はブレザーを脱ぎ、白いワイシャツ姿になっていた。放課後の密室。マドンナと二人きり。この状況だけで、僕の脳内にあるインキャ・デッドラインはとっくに突破している。


「あ、うん。……その、本格的にやらないと、根本的な凝りは取れないから」


僕は震える指先で、彼女の肩に触れた。

昼間、手首のツボを少し押しただけで、彼女は僕の「腕」を信じ切ってしまったらしい。


「じゃあ……お願い」


彼女が椅子に座り、背中を向ける。

薄いワイシャツ越しに、彼女の体温が伝わってくる。その下にある下着のストラップの感触まで伝わってきそうで、僕は必死に煩悩を振り払った。


(落ち着け、これは空を飛ぶための修行だ。飛行スキルのための……!)


【スキル発動:マッサージ Lv1】


指先を彼女の肩甲骨のキワに滑り込ませた瞬間、僕の視界には「最適なルート」が黄金の光として浮かび上がった。

迷いなく、最も深い凝りの中心をグッと押し込む。


「っ……!? あ、あああぁぁ……っ!」


彼女の口から、昼間よりもずっと甘く、湿り気を帯びた声が漏れた。

彼女の体がビクンと大きく震え、指先を通じて「とろける」ような感覚が伝わってくる。


「……高木くん、これ……すごい……。熱いのが、中に……っ」


「動かないで。リンパを流すよ」


僕はスキルに身を任せ、彼女のうなじから肩、そして背中へと指を滑らせた。

基本スキルの効果である「最高のリラクゼーション」が全開で発動している。それは、温泉に浸かっているような心地よさを、脳に直接、強烈な快楽として叩き込む感覚だ。

彼女の呼吸が荒くなる。

ワイシャツが汗でうっすらと肌に張り付き、彼女の背中の曲線が露わになる。

マッサージの刺激に耐えるように、彼女は自分の太ももをギュッと掴んでいた。


「あ、んっ……。そこ、だめ……っ、気持ち良すぎて、変になっちゃう……!」


「ごめん。でも、ここを流さないと、骨格が治らないんだ」


僕は「デトックス」の効果を意識した。

彼女の肩を圧迫していた重すぎる脂肪の負荷。それを、スキルによって「正しい位置」へと優しく誘導していく。


「ふぁ……あ……っ」


彼女の体が、僕の腕の中に崩れ落ちるように預けられた。

マドンナの柔らかい感触と、石鹸のような甘い香りが一気に押し寄せる。

僕はパニックになりそうだったが、指先だけは「職人」のように正確に動き続けた。


「……ぷはっ。……はぁ、はぁ……」


数分後。

マッサージを終えると、彼女はまるで熱病から覚めたような、潤んだ瞳で僕を見上げた。

頬は上気し、唇は少しだけ開いている。


「……信じられない。肩が……軽いっていうか、もう自分の体じゃないみたい。それに、なんだか……」


彼女が自分の胸元をそっと押さえ、驚いたように目を見開いた。


「……胸の形が良くなった気がする……?」


小さく呟いた声は、僕の耳にしっかり届いていたが、その問いに答えられるはずもなかった。

「空を飛びたいマッサージスキル使いです」なんて言えるわけがない。


「……また、辛くなったら言って。クラスメート、だから」


僕はそれだけ言うのが精一杯で、逃げるように教室を飛び出した。

夕方の風が、熱くなった顔に心地よかった。


【現在の実績】

累積施術人数:4人(髙橋みゆき)

獲得経験値:150exp(対象の満足度が極めて高いためボーナス加算)

【レベルアップ!】

基本スキル:マッサージ Lv2

新効果:マッサージ時間短縮、快楽効果+10%


「……レベルアップして、快楽効果が上がっちゃったよ」

僕は自分の指先を見て、少しだけ戦慄した。

このまま人数を稼いでいけば、僕は一体どんな「指先の魔術師」になってしまうんだろう。

透明化や飛行のスキルを手に入れる前に、僕の理性が保てるかどうかが怪しくなってきた。

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