第2話 大将軍ヒキガエル
密偵や盟友の息子達の手紙や報告からも、
オスマトル国内は都市解放前線の大勝利で、
民衆による熱狂的な叫びが巻き上がり、
連日の祭りの様な高揚感と共に、
このまま軍備解除せずに、
そのまま新たな贄(にえ)を探す動きもあるらしい。
「 覇権拡大か......嫌な動きだのう......」
勝利に酔ったものが慢心し増長するのは、
世の常。
ただ自国をバランスによって支えてきた身としては、
歓迎できる物ではなかった。
そして、肝心の閃光のアイベルクとの同盟交渉は、
あのヒキガエルに邪魔されて、
白紙も同然の状況。
容易に想像出来ていたが、
その1週間後に奴は、
我々のいる半島制覇を宣言。
大軍を率いて進行をし始めてきた。
「 ぶっちゃけ捻り潰したろか?あのヒキガエルは! 」
和平交渉もことごとく跳ね返され、
次第に自領近くまでに侵攻してくるようになり、
半島での戦いは激しさを増していった。
そんな中、マッハアルドとエウロパは、
2万人の半島南部の進行部隊を率いているらしく、
争わず済みホッとしている。
我々のいる北部進行部隊は10倍の8万人をヒキガエルが率いてきた。
「 ぐふふふw シルバーファングの爺さんを打ち倒して、
この半島の覇者になるのは余だぞ!
ぐあっはっ〜〜はっは〜www 」
ヒキガエルのような醜悪な口臭と笑い声が、
湿った風に乗って戦場に響く。
八万のオスマトル軍が放つ鉄の匂いと、
大地を埋め尽くす軍靴の地鳴り。
それは絶望という名の巨大な津波となって、
自領へと迫っていた。
だが、シャルークは動じない。
彼が剣を抜いた瞬間―――
戦場の空気が一変。
「 ……吠えろ、シルバーファング!
一、ニ、三番隊はルミスの盾となれ!
四、五番隊は敵将を射抜け!
六、七番隊は左右から敵を分断!
八番隊は、火遁で撹乱せよ!」
その低い威圧的な
戦場のあらゆる怒号を突き抜けて、
兵士たちの鼓膜を電気の様に震わせる。
加えて大太鼓が鳴り響く。
シルバーファングが起動。
「はっ!右向け〜右!ザッ!ザッ!突撃だ〜!」
各部隊は命を吹き込まれた生き物の様に動き出す。
それは神速の鉄槌。
踏み鳴らす足音が地殻を軋ませる。
大気を震わせる巨大な重低音となって、
腹の底へと突き刺す。
天を貫く怒号は雷鳴となって、
8万人の前線部隊の全身の産毛を逆立たせる。
まるで世界が終焉を告げ、
断末魔を上げているかのような、
禍々しくも雄大な振動が戦場を支配。
そこにいた敵生存者は、
後にシャルークの背後に、
八本脚の神狼スレイプボルクの幻影が重なったようだと語る。
神出鬼没の戦狼にとって、
8万人の大部隊は自衛本能を失い、
家畜に成り下がった、
動きの遅い山羊の群れでしか無かった。
彼らのトレードマークの白銀の胸当ては返り血を一滴も寄せ付けず、
月光を跳ね返して神々しく輝く。
戦場には、
焼けた鉄の匂いと、
おびただしい数の骸(むくろ)、
むせ返える血の匂い、
そして、恐怖に凍りついた敵兵たちが流す冷や汗のツンとした臭気が立ち込める。
もはや大将軍デギンに当初の余裕など、
なくなり、
口内が苦く渇き、
何度も用を足す衝動に駆られていた。
そんな時、自陣から声。
「 ぎゃあああ!」
空気を裂く「 ヒュン」という硬質な音が断続的に響く。
「 そ、狙撃か!?助けろ、余を助けろ!
余を助けてくれ〜!」
ひぃぃ〜助けてください〜〜!」
目の前にいるのは人間ではない。
統率の神の加護を受け、
八万の絶望をたった一人で飲み干そうとする、
戦いそのものの化身だ。
デギンは気付けば、
側近を盾にしながら敗走をしていた。
「馬鹿な……余の八万が、たった一匹の狼に喰い荒らされていく……!」
シャルークが剣を振るい、
足踏みをし、大大鼓が鳴り響く度に、
8つの牙が襲いかかり敵を殲滅する。
彼の名は千手の戦狼シャルーク!
ただの武人ではない。
戦場という狂気を指揮し、
死の旋律を奏でる「千手の指揮者」であった。―――
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