エバーレコードパーツ じいじ編
行雲 日千羽
第1話 シルバーファング
アブーの祖父
「 千手の戦狼シャルーク 」と恐れられた
小国ながら半島最強と言われた老王。
しかしその王の城の周辺は、
弱い立場の小勢力にしては、
全くと言っていいほど荒れていない。
深い森の緑が青々と繁り、
凛とした澄んだ空気を運び、
青い清らかな香りを振りまく。
これらは戦乱の地になっていない証拠。
良く肥えた土壌からは、
活発に動く生命の匂い。
それは畑の作物を良く実らせ、
笑顔と汗の匂いと共に収穫される。
それぞれが、
豊かな香りと喜びの連鎖を表現していた。
人々も朝日の輝きと共に起き、
笑顔で健康的な労働の汗を流し、
家族や仲間と笑いあい、
日々の糧と一日の終わりに感謝をしている。
夕暮れには焚き火の煙の香ばしい匂いが立ち上り、
疲れた体に心地よい熱が染みる。
とても北の砂漠大国ラハビアや
西の無敗の帝王バディー率いるバディード帝国の狭間で、
翻弄されている国ではない。
それは、千手と言われる所以の巧みな外交や権謀術数などを駆使している点もある。
ただ、最大の理由は伝説の8本足の統率力を司る神狼 [ スレイプボルグ ]に比喩される、
完璧に統率された、
まるで自身の手足の様に自在に動く、
8部隊に分けられた、
自軍シルバーファングの強さにある。
自身の息子も決して愚鈍では無い!
むしろ優秀な武将であり、
良い跡継ぎだと思いながらも、
この乱世を生き残る事が出来るのだろうか?
と、いつもこの不安は彼の頭から離れなかった。
そんな時、あまり気にも留めていない半島の東側で、
新興勢力のオスマトルが台頭してきた。
あの醜いヒキガエルのデギンの一族がいる東側地域。
思えば、あのヒキガエルの先代も、
かつての大帝国であり、
宗主国だったビスタチオには、
媚びへつらうくせに、
同胞とも言える我々には舐めた態度を取ってくる、
いけ好かない男であった。
だが、そのドラ息子のヒキガエルは、
先代の上を行く性格の悪さと、
貪欲な野心を持つ男。
我が盟友のナーガとウェストが健在な時はまだ良かった。
2人とは、いつも人生は思った通りには進まないが、
それでも前は見続けろ!と言って励まし合った仲。
奴らが亡くなり、
その息子たちも、
優秀な後継ぎだったにも関わらず、
あの醜いヒキガエルに良いように使われていると聞く。
「 時の流れとは残酷なものよな......」
そんな事を考えていると、
その優秀で不幸なナーガの息子のマッハアルドと、
ウェストの息子のエウロパが揃って、
オスマトルの使者としてやって来る。
我が盟友たちの若い頃によく似ていて、
少し胸がふるえた。
特にマッハアルドは、
いつも永遠の20歳と言っていた、
ナーガにうり二つ。
なんでも、海を挟んだ東隣の半島で、
フリージア諸国の貿易都市を開放して、
経済を活性化させる計画があるのだと言う。
正直、興味はある。
我が領土の北側には海岸はあるが、
漁港以外の交易港が無い。
盟友の子供たちにも、
少しは良い顔をしたい親心もあり、
人情と言うものを見せたい。
全面的に開放戦線に協力する代わりに、
我が領土に交易港の設立資金を所望。
しかし、2人は苦々しそうに、
既にオスマトルの首都への大規模な湾岸投資を実行していて、
資金に余裕が無い事を打ち明けてくる。
醜いヒキガエルの考えそうな事だった。
「 ワシは戦力だけオスマトルに提供して、
見返りは一切無く、フリージア諸国の反感だけ引き受けろと言うのか?盟友の息子達よ?」
2人は引きつった顔で謝罪。
若い才能ある人材に無駄な動きをさせて、
喜ぶヒキガエルに腑(はらわた)が煮えくり返ったが、
無様に帰って来た2人を尚も痛ぶる奴の顔を想像してしまい、
こちらの提案を飲んでくれれば、
協力を惜しまないと約束して帰らせる。
その後、2人からは謝罪とオスマトル単体での作戦決行の手紙がそれぞれから届いた。
オスマトルは閃光の字名(あざな)を持つ、
若き族長の元、
海を隔てたフリージアでも連戦連勝を重ねる。
マッハアルドやエウロパの名声も聞こえて来たが、
赤獅子ジャバロンと言う異名の男の名は、
こんな辺境の小国でもよく聞く名前だった。
晩年に授かり、年頃となった我が愛しの娘達も、
その男の噂話をしていて、少し不快に思う。
いや......
「 ぶっちゃけ捻り潰したろか?ガキンちょが!www」
と娘たちが噂をする度に思っていた。
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