第2話 監視幼女

 土曜日、スマホの通知にメッセージが一件。

『○○通りの裏路地にカンセン喫茶という名の個人経営喫茶店がある。そこで集まろう、赤城も呼んである。もう一人女が居るが、そいつは鍵穴だ。――加賀』

 時間が書いて無いんですけど? てかなんで俺の連絡先を知ってんねん。


 集合時間を聞いたところ十時開店らしく、そこでとのこと。


 俺の家からそこまではバスで行く距離で、四つほどバス停を通り過ぎて着いた。

 ここら辺は高校から見て家と反対側なのであまり来ない。


 歩きながらバスに乗りながら情報を整理したメモを読む。

 

 鍵?

 俺=人格、黒戸千尋。身体、神崎神威。記憶、二人分が混ざり合う。

 加賀=眼鏡のイケメン。眼鏡好き。味方?

 赤城=リーゼントの番長。同学年。


 鍵穴?

 不明。


 俺を知る奴。

 那珂=自称幼馴染。金髪ツーサイドアップ。爆乳のチビ。

 高雄=自称親友兼相棒。染めた金髪。サル顔。ド変態。

 榛名=保健室の先生。長いゆるふわ金髪。爆乳爆尻。


 不明。

 比叡=担任。黒髪の露出狂。榛名より少し小さいがスタイル良し。上記の可能性もあるが担任故に知っていた可能性もあり。

 むつ=俺の本体(女体)に入ってる人格。漢字は陸奥? 世界の運命を握る楔?

 


 こんなところか。


 そうしてバス停から歩くこと数分で例の店に着いた。

 通りは賑わっていたが、路地裏に入ると薄暗く治安が悪そうになる。ゴミや汚らしいおっさん、やばそうな不良、使用済みの避妊具。そんなトラップを潜り抜け、路地裏に相応しくないお洒落な喫茶店だ。


 ドアを開けるとカランカランと鈍い音が鳴る。


「――こっちだ」

 一番奥のカウンター席に近いところにある四人用席、そこに座っていた加賀が手を挙げてアピールする。

 加賀の横には小学生っぽい美少女、前の席には後ろ姿だが番長が居た。


「座っても?」

「ああ、構わないぜ……長くなるからなんか頼めよ。どうせ加賀のおごりだ」

「じゃあ、コーヒーを……ブラックで」

「はっはっはっ、言わんでもブラックで出てくるだろ。ミルクとかは別途だろうが」

 何がツボだったのか分からないが番長に笑われた。


 横に座りチラッと番長を見る。学ランに中に赤の首元がヨレヨレのシャツを着ている。胸元から見える胸筋がすごい。

「なんで学ランなんです? 学校では普通にブレザー着てますよね。もしかして私服ですか?」

「まさかってなんだよ? 悪いかオラっ」

「喧嘩はやめるです、まったく馬鹿はこれだから困るんですよね」

「なんだテメェ? イキってんじゃねーぞガキぃ」

「同じ歳でしょうに……やっぱり馬鹿なんですね、ぷぷっ」

 少女が番長に喧嘩売っとる。てか同学年かよ。


 少女を見る。

 整った顔だが常時ジト目だ。人を小ばかにしたような表情を浮かべ、話し方もどこか煽るような感じ。(染めてんのか?)薄紫の髪をストレートに伸ばし、白い青のリボンの付いた帽子を被り白いワンピースを着ている。肩が紐でうっすら膨らむ胸を煽情的に彩る。彼女がトイレに行くために立ち上がった瞬間分かったが尻がデカい。

 身長は那珂さんより少し高そうだな。


 彼女がトイレから帰って来ると共にマスターがコーヒーを持ってきた。

 バイトの子とかいないのか、まあ匂いは最高だな。


「――よし、いろいろ揃ったな。申し訳ないが、これからは私が基本的に仕切らせてもらう。なにか不満はあるかね?」

「ねーよ、ちゃっちゃと始めてくれや」

「私も異論ないです」

「……あ、俺も大丈夫です」

 面子的に畏まってしまうな……。まさか高雄が居て欲しいと思う日が来るとは思わなかった。


 加賀はクリーニングから返ってきたばかりのようにパキッとしたシャツとジャケットを着ている。七三にお洒落に分けた茶髪の髪型も相まって、バリバリのエリートサラリーマンに見える。

 だが飲んでいるのはホットミルク。可愛いか。


「まずは自己紹介から始めようじゃないか。私は加賀、1582年から来た遡行者だ。……まあ未来に行くことをと言っていいかは疑問だが」

 はぁ!?

「俺ぁ、赤城だ。1983年から来た……そこうしゃ? だ」

 ……。

「私は陽炎です。2078年から来ました。崇めなさい過去人ども」

 陽炎ちゃんのケツ揉みてーな……。

「――そういや昨日那珂さんの胸揉んじまったけど柔らかかったなぁ」

「現実逃避は止めたまえ、黒戸君」


 コーヒーを飲む。うむ、冷静になれ俺。

 確かにあの棒読みは言っていた。この世界、この時代に集まっていると。つまりあの楔ことむつちゃんが居るこの時代に、こいつらは遡行? してきた訳か。


「知ってる気がするけど、一応挨拶しとくよ。黒戸です、まあこの時代の人間かな? なんか記憶が混じりあってるらしくて正しい記憶か分からんけど」

「噂に聞きましたが、あの陸奥さんに身体を提供した鍵ですか。確か租チンなんでした? うわーかわいそかわいそですです」

 殴っていいかこいつ?

「気にすんな、男はチン〇じゃねえ。度胸と喧嘩の強さだ」

 ば、番長ぉ。……なんか慰めになって無くね?


「……で、彼女……ああ陽炎さん? が鍵穴なんでした」

「そうだ、我々三人が鍵と呼ばれる者。彼女はその監視者、通称鍵穴だ」

「俺もよくわかってねーんだけどよ、よーわ下ネタか?」

 まさか同じ発想だとは。

「っきっしょいです。やっぱりバカの発想てワンパターンですね」

 ドン引きしている目が可愛い。


「鍵と鍵穴が一致すると情報を送ることができる。つまり記憶をどこかの時代に居る誰かに移し、人格を乗っ取れると言う訳だよ」

「ん? つまりは物理的に遡行しているわけではなく、記憶を送っているだけってことですか。それって意味あります?」

 本体はそこに残ってる訳だし、同じ記憶を持った奴が時代を越えて二人いるだけじゃね?

 俺がそう疑問を呈すると、陽炎が代わりに答えてくれる。

「未来において魂というものは無いとされてるです。あるのは意識と記憶、逆に同じ記憶と意識を持っていたら同一人物だし、片方が死んでも完全には死んでない扱いです。感覚的に否定したい気持ちはわかりますが」

「いや、でもよぉ……俺の記憶が仮に未来に送られたとすんだろ? でも意識的に俺はここに残ってるじゃん? じゃあ未来に行ってることにならんくね?」

 番長も俺と同意見らしい。

「でも今君はここに居て、君は過去から来た自覚があるだろ? なら遡行していると言えるじゃないか」

 俺と番長は並んで苦い顔をする。


 納得いっていない俺たち二人と、納得いかない気持ち自体は理解できる二人。

 結局のところ、オリジナルとコピーは違う派と同じだよ派で分かれているだけってことか。難しいな。


「そもそもそれを否定しちゃったらあなたの存在そのものが否定になるですよ? あなたは租チンに記憶と意識を移植した存在なんだから」

「我々も人のこと言えませんがね」

 しっかし、一番未来の奴と一番過去の奴が同意見なのはおもろいな。


「一旦空気を変えませんか? 時間はまだまだありますし」

 空気が澱んできたので加賀が仕切り直す。


「じゃあ言い出しっぺの私から――私は眼鏡を愛しています」

 いきなりカミングアウトしだした。

「確か……戦国時代あたりだろ? おめーその時眼鏡って日本にあったんかよ」

 番長、不良の分際で鋭いな。

「私の知識だと十三世紀あたりでは海外で出来たんじゃなかったかなです。ペリー来航以降に日本で広がったんで彼は知らないはずですです」

 全然そこらへん分からん。てか未来人の陽炎は分かるし、過去から来たって言っても所詮昭和ぐらいの番長もわかるけど、戦国から来た加賀さんは正直話し方を含めておかしくないか?

「そこはこの身体の記憶ですよ」

 そういえばそうか。

「分かりますか? 目が悪いとそこで詰みな世界が。私は過去でも視力で苦しめられてきましたので、眼鏡を知った瞬間に世界が変わりましたよ」

「未来に来てる時点で世界変わってんじゃねーか」

 番長、不良の分際で鋭いな。

「私は眼鏡が人類最大の発明と言って過言ではないと思っています。考えてみてください、人類の意識を担う五感の九割の情報を担うものですよ? それすなわち人間の意識は眼鏡によって支えられていると言えます」

 めっちゃ過言だと思う。てか、まじめな人だと思ったけど大分やばいなこいつ。

「コンタクトはどうなるんですです?」

「コンタクトは愚かな発明です。考えてみてください、視力をよくするための道具なのに眼球を傷つけるんですよ? 本末転倒の糞発明です」

 あ、本当にやばい思想の人だった。これって元々の戦国時代の過激な意識のせいなのか、この時代の体の基となった人物のせいなのか。どっちなんだろ?



「じゃあ俺もなんか話すか。俺ぁ、喧嘩に明け暮れた日々を送っていた。だからこの時代に来たらビビったぜ、不良らしき奴は居なかった。居るのはスカした捻くれモンの集まりだ」

「ははーん、つまらない時代になったと思う訳ですねこの鶏冠はです」

「ちげーよ、いい時代になったと褒めてんだよ。俺みたいな化石は世間では何の役にも立たねえ。居なくなった方がいいのさ」

「ば、番長……」

 不覚にも感動してしまう。

「租チン、こいつに感動するのは止めるです。どう言いつくろってもこいつが自分の意志で世間に迷惑を掛け捲っていた事実は覆らないです」

「……その通りだ。なんの言い訳もねーよ」

 冷たいなこの女。


「じゃあ私も一つ言うです」

 そう言うと陽炎は俺の腕をつかんでトイレに指をさす。

「噂の租チンがどの程度か気になるです。見せろです」

「……ですですうっせーな! 俺の租チン見てビビんなよ!?」

「自分で租チン言うのかよ……」

 番長は呆れた様に俺を見る。


 ――数分後。


「ぷ、ぷぷぷ……あ、あーっはっはっはっ!!! お、親指さいず、親指サイズだったです、ぷぷぷ、勃起してもサイズかわんねーですっ!! 皮被ってるし、っぷぷ、しかもちょっと触ったら出たです!! あはははははっ!!!」

「……誰か俺を殺してくれ」

 死にてえ。

「何がやばいって高校生にもなって童貞で、ぷぷ、ちょっと胸見せたら、ぷぷぷぷ、ぼっきーんて、ふふ、硬くなったデス、ふっふっふ!! くっせーし、出した量も終わってるし、ははははははっ!!」

?」

 眼鏡くいっ。そこ気にするかね。

「か、かわいそかわいそなので、ぷぷぷ、飲んであげたです、あはははは!!」

「殺してくれ……」



 加賀は三人から離れ、マスターの下に向かい、小声で三人に聞こえないように、そっと耳打ちする。

「ナノマシンが鍵穴に挿入されました。まさかこんなに早く第一号が誕生するとは驚きです。これも鍵と鍵穴は魅かれ合うと言うやつですかね」

「……監視者である陽炎がわざとやった線は?」

 マスターは加賀以上に渋い声で聞く。

「分かりません、探りを入れます」

「頼んだぞ、エージェントk。お前の任務は陽炎と黒戸の――」

「マスター、それ以上は」

「すまん」



「そういや陽炎、お前って処女じゃねーの? こいつを馬鹿にしてるってこたぁさぞ経験豊富なんだろうな」

「そ、そうだそうだ! 処女が童貞馬鹿にすんな!!」

 俺は今、怒っています。

「言うほどですね……五人ほどでしょうか」

「「……そ、そっすか」」

 二人して打ちのめされるのであった。

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黒戸千尋の前頭葉と海馬と三半規管 みつぎみき @mumusasa

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