エピローグ 星の下で
エ
裁判は迅速に進んだ。白石は全ての罪を認め、情状酌量の余地はあったものの、懲役十八年の判決を受けた。
法廷で、白石は最後に言った。
「私は桐谷館長を殺しました。それは許されない罪です。でも、一つだけ言わせてください。研究者として、科学者として生きてきた私が、最後にこんな形で技術を使うことになるとは思いませんでした」
「技術は、人を幸せにするために使うべきです。でも、私は憎しみのために使った。これが、私の最大の罪です」
判決から一週間後、神崎は再びプラネタリウムを訪れた。
葉山美咲が案内してくれた。施設は既に通常営業を再開していた。
「白石さんのこと、まだ信じられません」葉山は言った。
「あんなに優しい人だったのに」
「人は誰でも、心に闇を抱えています」神崎は言った。
「大切なのは、その闇に飲み込まれないこと」
二人は夜のプラネタリウムで、星空を見上げた。
「この事件で、私は多くを学びました」神崎は呟いた。
「完璧な犯罪など存在しない。どんなに巧妙でも、必ず綻びがある」
「白石さんの綻びは何でしたか?」
「感情です」
神崎は答えた。「彼は計画を完璧にしようとするあまり、不自然な行動を取った。そして、娘への思いからプログラムにコメントを残した」
「人間的な綻び、ですか」
「そうです。そして、それが彼を追い詰めた」
神崎は少し悲しげな表情を浮かべた。
「もし、白石さんが正しい方法で戦い続けていたら、いつか真実は明らかになったかもしれません。でも、彼は待てなかった」
「復讐を選んでしまった」
「はい。そして、全てを失った」
しばらく沈黙が続いた。星々が静かに瞬いている。
「でも」葉山が言った。
「白石さんの娘さんには、真実が伝わるんですよね?プログラムのコメントから」
「それは分かりません」神崎は首を振った。
「でも、いつか彼女が父親の行動を理解する日が来ることを願います。たとえ許せなくても、理解はできるかもしれない」
葉山は頷いた。
その時、清掃員の北川京子が現れた。
「神崎さん、少しよろしいですか?」
「はい、何でしょう」
北川は躊躇いがちに言った。
「実は、あの日、私は気づいていたんです」
「何にですか?」
「白石さんが席を立つ前、少し変な動きをしていました。暗闇の中でしたが、私の席からは少し見えたんです」
「なぜ、それを早く言わなかったのですか?」
「確信が持てなかったんです。でも、今なら分かります。彼は何かを確認していた。恐らく、時計を」
神崎は頷いた。
「そうです。彼は装置が作動する時刻を確認していた。そして、その前にドームを出た」
「もし、私がもっと早く言っていたら」
「いえ」神崎は遮った。
「あなたのせいではありません。犯人は白石さんです。そして、真実は必ず明らかになります」
北川は安堵の表情を浮かべた。
神崎は施設を後にする前、もう一度天井を見上げた。
満天の星。
「星は嘘をつかない」神崎は呟いた。
「ただ、そこにあるだけ。人間の愚かさも、悲しみも、全て見つめながら」
彼は静かに施設を去った。
数ヶ月後。
刑務所で、白石は娘からの手紙を受け取った。
『お父さんへ
長い間、何も連絡しなくてごめんなさい。でも、今回のことで、色々なことが分かりました。
プログラムのコメント、読みました。警察が教えてくれたんです。
お父さんが私のことを思ってくれていたこと、嬉しかったです。でも、こんな形じゃなくて、もっと違う方法があったんじゃないかって思います。
桐谷館長が悪いことをしたのは分かります。でも、お父さんもまた、悪いことをしてしまいました。
私は、まだお父さんを許せません。でも、理解しようとは思います。いつか、許せる日が来るかもしれない。
それまで、お父さんも自分と向き合ってください。
娘より』
白石は涙を流しながら、手紙を何度も読み返した。
星空の下で犯した罪。その代償は大きかった。しかし、娘との繋がりは、まだ完全には断たれていなかった。
それだけが、白石にとっての唯一の希望だった。
(完)
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