第五章 ふとした瞬間の真実


その日の午後、神崎は再び白石と対峙した。


「白石さん、装置からあなたの指紋が検出されました」


白石は動揺を隠せなかった。


「それは、点検の時に触ったのかもしれません」


「いえ、あの装置は定期点検の後に設置されたものです。あなたが深夜に施設に入った時に」


「証拠はあるんですか?」


「監視カメラの映像があります」


白石は沈黙した。


神崎は続けた。


「あなたは三週間前の深夜、施設に侵入して装置を設置した。そして、上映当日、午後七時十五分に装置が作動するようタイマーをセットした。その時刻に自分はドームにいないというアリバイを作るために」


白石は唇を噛んだ。


「でも、まだ何かが引っかかる」神崎は呟いた。


「なぜ、わざわざドームを出たのか?タイマー式なら、その場にいても問題ないはずだ」


白石は答えなかった。


神崎は考え込んだ。そして、その時だった。

窓の外で、清掃員の北川京子が窓ガラスを拭いていた。几帳面に、丁寧に。上から下へ、左から右へ。


神崎はその動きを見ながら、ふと気づいた。


「そうか...」


「何がですか?」警部が尋ねた。

「白石さんは、自分が疑われることを計算していたんです」


神崎は白石を見つめた。


「あなたは最初から、装置が発見されることを想定していた。だから、その時刻にアリバイを作った。『装置が作動した時刻に、自分はドームにいなかった』と証明するために」


白石の顔が歪んだ。

「しかし、あなたは一つミスを犯した」神崎は続けた。


「アリバイを作りすぎたんです」


「どういう意味ですか?」


「普通、お腹が痛くなってトイレに行くのは偶然です。予測できません。でも、あなたは計画的にドームを出た。そのタイミングが、装置の作動時刻と完璧に重なっている。これは偶然ではない」

白石は何も言えなかった。


「さらに言えば」神崎は畳み掛けた。

「あなたは上映開始の時刻を正確に知っていた。午後六時三十分。そこから四十五分後が午後七時十五分。その時刻に合わせて、午後七時ちょうどに席を立った。十五分間トイレにいて、七時二十分に戻る。完璧すぎる計算です」


「それは偶然です」

白石は必死に抗弁した。


「いえ、偶然ではありません」神崎は静かに言った。

「そして、決定的な証拠があります」


神崎はポケットから小さなICチップを取り出した。

「これは、装置から取り出したプログラムチップです。このプログラムを解析したところ、興味深いことが分かりました」


「何がですか?」


「プログラムの作成日時が記録されていました。三週間前の深夜二時十五分。あなたが施設に侵入した時刻と一致します」


白石は青ざめた。


「さらに」神崎は続けた。

「このプログラムには、特徴的なコーディングスタイルがあります。変数名の付け方、コメントの書き方。これらは、プログラマーの癖のようなものです」


神崎は別の資料を取り出した。

「これは、あなたが過去に書いたプラネタリウム制御プログラムのソースコードです。施設の記録から入手しました。比較してみてください」


二つのプログラムを並べて見せた。確かに、コーディングスタイルが酷似している。


「偶然の一致かもしれません」白石は弱々しく言った。

「では、これはどうでしょう」


神崎は最後の証拠を提示した。

「プログラムの中に、コメントが残っていました。


『For my daughter』」

白石の目が見開かれた。


「あなたの娘さんですね。三年前、奥さんと一緒に出て行った」


白石は崩れ落ちた。

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