第1話『軽さの代償』②

霧島『薫、これヤバいって。絶対ヤバい』

柳『……』

霧島の声が、さっきまでより少し遠く聞こえる。

同じ距離で話してるのに、壁越しみたいに。

霧島『薫?』

柳『……霧島さ』

霧島『なに?』

柳『お前、俺のこと……ほんとに心配してんの?』

柳の顔が一瞬曇ったように見えた

霧島『は?当たり前じゃん!』

柳『……』

当たり前。

その言葉が、妙に軽い。

嘘じゃないのに、嘘みたいに聞こえる。

霧島『ちょ、何それ。急にどうしたの?』

柳『……いや、なんでもねぇ』

違う。

なんでもよくない。

“こいつが俺を心配してる”

その確信が、砂みたいに指の間から落ちていく。

霧島『柳、アプリ消せないんだよね?ならさ、放課後ミステリー研究部来て。調べる。絶対に』

柳『……勝手にすれば』

霧島『は?』

柳『俺、関係ねぇし』

霧島『……薫?』

霧島の目を見た。……ちゃんと俺を見てるはずなのに、どこか“俺の奥”を見てる気がした。

霧島の顔が、一瞬だけ傷ついた。

でもその傷ついた顔すら――

演技に見えた。

霧島『……薫?』

柳『……』

返事をしないまま、柳は鞄を持ち上げた。

椅子が床を擦る音がやけに大きく響く。

霧島『待ってって。今の、冗談だよね?』

柳『冗談に聞こえるか?』

霧島『……聞こえない』

霧島は、言いながら自分の言葉に戸惑った顔をした。

その顔だけは――少しだけ、本物に見えた。

柳『……じゃあいい』

柳は教室を出た。

廊下に出ると、空気が少し冷たかった。

背中に霧島の視線を感じる。

でも振り返らなかった。

振り返ったら、霧島がどんな顔をしてても、もう信じられない気がした。

放課後。

柳は昇降口で靴を履き替えて、そのまま帰ろうとした。

その時、ポケットの中でスマホが震えた。

……通知?

出すのが嫌だった。

でも、見ないともっと嫌な気がした。

画面には、見慣れた文字。

『あなたの心を軽くします♡』

柳『……うるせぇ』

小さく呟いて、ロックを切ろうとした。

なのに。

指が、勝手に動いた。

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