第2話: 漆黒の森と女神の再会2

エルは一人で森に取り残され、徐々に不安が恐怖に変わっていった。

周囲の木々が影を落とし、地面から這い上がるような冷たい風が体を撫でた。

突然、木々の間から黒い影がいくつも現れた。シャドウウルフの群れだった。

黒い毛並みに赤く輝く目、鋭い牙をむき出しにした狼たちは、獲物を狙うようにエルを囲んだ。

リーダーのウルフは体が大きく、傷跡だらけの体躯で、他のウルフたちを従えていた。

「グルル… 人間の赤子か。珍しい獲物だな。匂いが新鮮で、美味しそうだぜ」

リーダーは低く唸り、他のウルフたちが呼応して唸り声を上げた。

「ガルル… 森の掟だ。弱い者は食われる」

「そうだ、早く食おうぜ。分け前は俺が一番だ」ウルフたちは互いに会話を交わし、牙を剥きながら近づいてきた。

エルは心の中でパニックになった。

「やばいよ! 狼がいっぱい… 動けないし、話せない。女神さんがくれた加護があるはずだけど、どうしたらいいの? 泣く? それで力が出るかも… 試してみよう!」


エルは大きく息を吸い込み、精一杯の力で泣き出した。

「わーん! わーん! 怖いよー! 助けてー!」その声はただの赤ちゃんの泣き声ではなく、強力な音波として森に響き渡った。

空気が震え、木々が揺れ、ウルフたちを直撃した。

リーダーのウルフは驚き、「なんだこの声は… 体が震える… 逃げろ!」と叫んだが、遅かった。音波がウルフたちの体を吹き飛ばし、木々に激突させて絶命させた。

一瞬で群れは全滅し、森が静かになった。

死体が散らばり、血の臭いが漂った。エルは心の中で驚愕した。

「え… 俺の泣き声でみんな死んじゃった? これが『無限の潜在力』の加護? すげぇ… 強いかも。でも、怖かったよ。女神さん、早く来て…」体は震え、涙が止まらなかった。


その時、霧を掻き分けてアテナが息を切らして到着した。

彼女は散らばったウルフの死体を見て、目を丸くした。

「エル! 無事だったの? ああ、よかった… でも、このウルフの死体は何? シャドウウルフの群れが全滅してるわ。どうしたの? あなたが… まさか、倒したの?」

アテナはエルを抱き上げ、優しく体を拭いた。エルは心の中で「そうだよ! 泣いたらみんな飛んでった!」と思ったが、口から出るのは「ばぶー… うぇん…」だけ。

アテナはエルの顔を覗き込み、優しくあやした。「ふふ、泣いてたのね。怖かったわよね。ママ… いや、私が守るから、もう大丈夫よ。ウルフたちがどうやって死んだのかわからないけど、運が良かったわね。もしかして、加護の力が少し発揮されたのかしら? でも、あなたはまだ赤ちゃんだから、そんなはずないわよね… ふふ、気のせいかも」


アテナはエルを抱きしめ、温かく包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る