プロローグ: スラム街と別れの夜2

出産の日が近づくにつれ、二人の会話は増えていった。

毎晩、火鉢の前で座り、未来について語り合った。「アルン、この子が生まれたら、どんな子になるかしら? あなたみたいに強くて優しい子? それとも私みたいに歌が上手な子?」リナは優しくお腹を撫でながら言った。アルンは笑い、「どっちでもいいさ。健康に生まれてくれさえすれば… でも、このスラム街じゃ、生きていくのが大変だな。いつか、街の中心部に移れるように頑張ろう」リナは頷き、「ええ、そうね。あなたが鍛冶屋に戻れる日が来るわ。きっと神様が見守ってくれているはずよ」だが、そんな希望的な会話の合間に、現実の厳しさが割り込んだ。

「今日の稼ぎはこれだけ… 明日の食料はどうしようか」アルンは額を押さえ、リナは心配そうに夫を見つめた。「無理しないで。あなたまで倒れたら、私たちは終わりよ」「わかってる。でも、この子のためだ。耐えよう」


ついに出産の日が来た。薄暗い小屋の中で、リナは激しい痛みに耐えていた。

アルンは近所の老婆を呼び、助けを求めた。老婆は経験豊富だったが、道具はなく、ただの布と湯だけで対応した。「がんばれ、リナ。息を深く吸って… はい、押し出して!」老婆の声が響き、リナは汗だくで叫んだ。

「ああっ… 痛い… アルン、手を握って!」アルンは妻の手を強く握り、「俺がいるよ。がんばれ、リナ!」数時間の苦闘の末、赤ちゃんの泣き声が小屋に響いた。

男の子だった。小さく、肌が薄く、か細い声だったが、生きていた。「おめでとう、元気な男の子だよ」老婆は赤ちゃんを布で拭き、リナの胸に置いた。リナは涙を流し、「エル… あなたはエルよ。ようこそ、私たちの元へ」


喜びは束の間だった。出産後、リナの体はさらに弱り、ミルクが出なかった。アルンは必死に街を回り、牛乳を探したが、高くて買えなかった。「これじゃ、エルが飢えてしまう…」アルンは小屋に戻り、妻に相談した。リナは赤ちゃんを抱きながら、声を震わせた。

「アルン、このままじゃ、この子は死ぬわ。私たちのせいで… そんなの、耐えられない」「何を言ってるんだ? 俺たちが育てればいいさ!」アルンは声を荒げたが、リナは静かに続けた。

「いいえ、このスラム街じゃ無理よ。食べ物がない、病気が怖い。せめて、教会の前に置いて… 誰かが拾ってくれるかも。神父様が気づいて、養子として育ててくれるかもしれないわ」アルンは頭を抱え、「そんな… 俺たちの子だぞ! 捨てるなんて、できないよ!」


リナは夫の目を見つめ、「捨てるんじゃないわ。生きるチャンスをあげるのよ。私たちと一緒にいても、みんなで死ぬだけ。エルに、未来をあげたいの」

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