円環捻れし蛇神域
Hurtmark
プリズヴァーチ
地球、ニホン、ナガノ県、■■郡■■町、国道FE線
西暦2039年9月18日18時45分 ニホン標準時
久しぶりに会う友達とは大抵、良くも悪くも変わっているものなのだろう。けれど二人は例を外れているみたいだ。成長しても根は変わってない。それに何となく安心しながら、俺の方はどう見えているだろうと言葉を待った。
「お前の勝手なところ、大学でも相変わらずか、タクヤ?」
「心外な。世渡り上手と褒めろよ。そう言うお前は」
「ユウジ君は昔から渋いよね。おじ様みたいだ」
カヨ先輩の言う印象に納得する。つまり俺もまた変わってないと言うことか。我ながら、中学の頃には既に精神が老けていた自覚はあるよ。
夜の山道をレンタカーで走り抜けながら、車内は高卒以来の思い出話で盛り上がった。運転は俺で助手席にタクヤ。先輩は占有する後部座席に軽食を並べている。マツモト市へ向かう道すがら、俺たちそれぞれの実家へ顔を出す予定だ。夜早い内に着くと連絡したが、途中で道に迷ったために不安になってきた。連絡を更新しておくべきだろう。
「悪いタクヤ、先輩、もうちょいかかるって伝えてくれ」
「無理だな。電波通じねえわ、ここ」
「はあ?空が見える環境だぞ。機内モード切れよ」
「妙だねえ」
『Черный мед капает с луны』
何だ、今のは?
聞き取れない音の羅列。それは耳ではなく、頭に直接
「なあ、聞こえたよな...?」
「ロシア語に近かったけれど、違ったよ。スラヴ語派の一種かしら?うーん...」
「もしかして先輩、あの意味が分かったり?」
タクヤが無茶な期待を露に問いかけると、先輩は瞑目して暫し集中した後、淡々と抑揚のない声で翻訳してみせる。
『黒き蜜や月より
「意味が分からない」
「あのね、二重に意味を問わないで。知る限り、発音上近い言葉に訳したのよ」
思わず困惑を呟く俺と、頬に手を添え格好付けた仕草でドヤ顔をかます先輩。タクヤは警戒と愉快の入り混じった笑みで辺りを見回している。見えるのはヘッドライトが照らす前方少しだけだというのに楽しそうだなあ。
「じゃあ何だよ、ニホンの山道にロシア語喋る幽霊でもいんの?」
「何であれ、冗談は村に着いてからだ。ちゃんと前見てろよ」
「霧が出て来たよ。車止めた方が良くなあい?」
そんな恐ろしいことを!拒否しようと思ったが、確かに霧中では事故りかねない。そも、俺は山道で奇怪な声を聞いたという怪談に有り触れた現象に遭遇しただけで、ビビり過ぎだろう。そう自分に言い聞かせ、俺は車を止めた。すると大変、二人は迷いなく外に出てしまった。
「あのなあ...幽霊ならいいが、熊でも出たらどうするんだ」
「ユウジ、車を降りろ。今直ぐ」
先とは打って変わって、タクヤの顔は真っ青だった。先輩でさえ言葉を失い立ち尽くしている。尋常ではない様子に、俺も慌てて車を降りた。霧が引き、
『地獄だ...』
俺たちは一言、そう形容せざるを得なかった。
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蛇ノ永劫紀3847兆6256億142万9503年15月417日189時2811分
紅染めのベルベットを爛々と跳ねる調子で歩き、
冥界の底を思わせる最も酷烈な神罰に身を晒した後、惨殺を司り荒ぶる邪神を愛で殺したところだった。被虐も嗜虐もこれといった感想はない。しかし無限の快楽が永劫の生涯に氾濫するのだから、不死や全能にありがちな命題とは無縁である。微生物の視座では想像不能だろうが。
誰かしらの宮殿を後にし、神々の落書きを流す合成液の小河に飛び降りる。鱗に貴石を
『
『その卑しさはカヴョール、貴方ね』
硬骨魚が発した低く震えた声に、ザドナストは一瞥もくれずに名を呼んだ。小物風情が自らに口を利くとは、無駄口ならば相応に罰するところだ。何であれ一興とせねばならない。
命乞いかのように声を震わせ、それは言葉を選ぶ。
『神隠しあり。地球より三匹の微生物を召喚と確認』
『
『それら生存は難極まれり。加護施すには
救いようなくか弱き者を護るというのは、成程悪くない気紛れだ。次の娯楽を決めたザドナストは爪先で硬骨魚の背を打ち、憐れな迷い者たちの元へと駆り立てた。
円環捻れし蛇神域 Hurtmark @25511E2
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