静寂なる大口
ミミックが立ち上がりその巨体を揺すって、周囲の瓦礫をかき集めて、入り口に蓋をする。
男は、それを見ながらしゃがみ、ツァスタバ M93 ブラック・アローを構え、その引き金を引いた。
途端に銃口から、口径12.7mmのフルメタルジャケット弾が超速で射出され、変異ミミックの体をブチ抜く。
「チッ、鉄筋コンクリートのビルを乗っ取っただけあって硬い…!」
しかし、フルメタルジャケット弾だと言うのに、弾丸はミミックの外装を一枚破壊するだけに留まった。
男はニヤリと笑ってから、ツァスタバM93ブラック・アローをリュックに刺してしまい込むと同じ様にリュックに刺さっていたM16自動小銃を引き抜いて構える。
するとミミックは、体を地面に擦り付けながら、ゆっくりと回転を始めた。
「させねえよ」
男は言いながら、M16自動小銃で、フルメタルジャケット弾が開けた風穴に向けて弾丸を放つ。
鉄筋コンクリートと弾丸が衝突し、火花を散らしながら、少しずつコンクリートが吹き飛んでいく。
男はそれを見て、頬を裂いて笑う。
「てめえの定石は昔っから決まってるんだ。中に入っちまえば、お前らの核は丸見えだからな」
巨大なミミックは、もちろん強大な敵だ。
それゆえ人類は、変異ミミックの討伐法を既に確立させていた。まあ、その方法を実行できる人類は、既にこの男しかいないわけだが。
話を戻そう。
巨大ミミックを倒す定石。それは至極簡単だ。
中に入って、核となる物質を破壊する。それだけである。
巨大ミミックは、その大きすぎる体を維持し続けるために、他の通常にミミックとは違い、核という器官を持っている。
核と言うからには、その基本的な構造は人間の脳みそと同じ様なものだ。
変異ミミックが支配した建物の、最上層階。基本的に、核はそこにある。
そして、ミミックの核自体は、恐ろしく無力だ。移動もできず、攻撃手段も持たない。唯一持つ攻撃手段といえば、その気持ちの悪さで相手に物理的な吐き気を与えるくらいだろうか。
つまり男は今、ミミックに入るための穴を開けている最中。というわけだ。
「穴も随分デカくなったなあ。これで、俺も入れるぞ」
男は、リュックを置いて、M16自動小銃と二丁の3つのみを持って駆け出す。
と、その瞬間、男を巨大な衝撃が襲った。
「ぐっ、がっ!」
脇腹に、巨大な塊が吹っ飛んできていた。
男は、物体と衝突した衝撃を全身に伝え、ぶぉん、と音を立てながら吹っ飛ぶ。
見れば、瓦が脇腹に食い込んでいる。
さらにその奥を見れば、紺とも黒とも取れぬ色の触手が瓦礫にくっついている。
「てめえっ、ただの突然変異体じゃあないってのか…!?」
突然変異の突然変異個体。
ミミックが突然変異する確率は、100分の1。そのうえ、それが更に変異した事例など、語られていない。
しかし、このミミックは今までのミミックとは違っていた。
巨大ミミックは、基本的に体外にあるものに対して攻撃ができない生き物なのだ。
しかし、このミミックは恐らく触手を操っている。
触手というのは、核と同じくミミックの器官の一つだ。
変異ミミックが建物を乗っ取る際に建物の壁の中に大量に張り巡らせる、太い血管の様なもの。それが触手だ。
核と同じ様に、ミミックは触手を動かすことができない…はず、なのだが。
どうやらこのミミックは、動かせる様だ。
男は後で知ることなのだが、このミミックは突然変異し個体が進化した個体だ。
人間がいなくなったことで、その場に留まるだけでは獲物を捕らえられなくなった巨体ミミックは、建物内に張り巡らせている触手を動かせる様に進化した。それがこの個体にも採用されているのだ。
と、そう話しているうちにも、男はミミックから受けた攻撃から立ち直り、落としたM16自動小銃を拾っていた。
「…温存したかったんだが、そうも言ってられないな」
言いながら男は、着ていた防弾チョッキの中から手榴弾を3つ取り出した。
「イチかバチか…鬼が出るか蛇が出るか…やってやるよ」
男は、手榴弾のピンを3つとも右手の小指に引っ掛け、M16自動小銃をリュックに差し込むと、再び走り出した。
ミミックの体がのたうつ様にぶるる、と震えて、体内から膨大な量の触手を放出してきた。
ばごん、ばきん、と音を立てながら、体内から触手が次々と溢れ出る。
それを見た男は、、若干冷や汗を垂らしつつも不敵に笑った。
ふと横を見れば、先ほどの様に大きな瓦礫を抱えた触手が目に映る。
男は、その触手からの攻撃をガードするように身構えた。
瞬間、触手がものすごい速度で突っ込んでくると、男の体と瓦礫を衝突させた。
男は一瞬だけ呻き声を上げたが、すぐに立て直し、言った。
「馳走だ。たらふく食えよ」
男は右手の小指に引っかかっていた手榴弾を手に取ると、触手に叩きつけた。
ミミックの触手は、いわば人間の血管と同じだ。触手自体、柔らかく脆い。
男の右手は、触手の外装を突き破り、触手の内部に侵入した。
そこに男は、手榴弾のみを置き去りにして、手を引き抜く。
直後に、触手が苦しそうにのたうち回り始めた。
男はその衝撃で、ボクサーに殴られたかの様な綺麗な放物線を描いて吹っ飛ぶ。
男が、ごすっ、と痛そうな音を響かせて地面に落下する時には、手榴弾を打ち込まれた触手はミミック本体の内部に格納されていた。
「クッハハハ…馬鹿め」
男は、地面に横たわりながら、小指に引っかかっていた3つのピンを揺らした。
それが見えたのかは知らないが、ミミックが焦るように体を揺らした。
直後に、ミミックの体内からくぐもった爆発音が聞こえ出した。
ミミックの体が爆発に揺れ、爆破の衝撃で地面に横倒しに倒れ込んだ。
その絶好のチャンスを、男が逃すはずがない。
「いい位置だ。いい位置に倒れてくれた」
男は言いながら、ツァスタバM93ブラック・アローのスコープを覗いた。
スコープの中の男の目には、屋上に張り付くミミックの核が見えている。
人間の脳みそを何十倍にも巨大化させ、それを地面に叩きつけた。というのが一番似合っているであろう表現の核は、どくん、どくん、と脈打っている。
「チェックメイトだ」
男はそう言って、再びツァスタバM93ブラック・アローからフルメタルジャケットの徹甲弾を撃ち出した。
恐怖と混沌と君の死体 ヘビーなしっぽ @HEBISIPO
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