君を探して
男は、元住宅街の上を歩いていた。
一歩進むたびに、倒壊した建物の破片が靴底にグサグサと突き刺さる。男は、今初めてこの瞬間、靴底に鉄板を仕込んでおいて良かったと思った。
右肩に掛けてあった
弾丸をしっかりと込め、いつでも撃てるよう、構えは忘れない。
男が用心しながら進んでいると、大きなビルが見えてきた。
本当に大きなビルで、先の巨大地震や、ハリケーン・カトリーナ超えの暴風なんてなかったかの様に、ほぼ無傷でそこにいた。
「…このあたりは、少なからず被害が出ているはずだが…?」
男は疑問顔でそう言った。
男の足元には、先ほども言った様に建物だったものが大量に転がっている。それを見るに、ここらで被害が出たのは明確だ。
では何故このビルだけ何の被害もないのか。
「…行く価値は。ある」
ハイリスクハイリターンである。
この建物が本当に頑丈なだけかもしれない。もしかしたら、バリア的なものを貼る能力の異形がいる可能性もある。
しかし、男は行かざるを得なかった。
アサルトライフルを真正面に構えて、男がビルの内部の侵入する。
外見とは違って、ビル内部はボロボロだった。
おそらく、このビルは元々病院だったのだろう。担架やワゴン、受付らしきものが見受けられる。しかし、それ以外にも異形の爪痕と思しき巨大な爪痕があちらこちらに見える。
血液と見られる赤い液体が、まるで弾けた水風船から飛び出た水の様になって、壁に付着している。
男は、分厚い真っ黒な手袋越しに、壁の液体に触れてみた。
液体は、男が少し擦るだけで、ガリ、と音を立てながら剥がれ落ちた。どうやら、付着してからだいぶ時間が経っているらしい。
しかし、男にとってこれは大きな発見だった。
剥がれ落ちた元液体を鼻に近づけて嗅いでみると、ツンとした鉄分の匂いがしたのだ。
この液体は、血液で確定で、ここには人がいたのだ。
もしかしたら、この奥にはまだ生き残りがいるかもしれない。生き残りでなくても、死体を見つけられれば、歓喜どころの騒ぎではない。
男は、弾けた血があった場所から、更に奥に進んだ。
室内のため、アサルトライフルから、スミス&ウェッソンM&Pと、SIG SAUER P220の二丁持ちに切り替える。
アサルトライフルが、ツァスタバ M93 ブラック・アローと共にリュックの中で揺れる。
男の二丁拳銃時の戦闘方法は、ガン=カタである。
ガン=カタというのは、二丁拳銃と近接格闘技を融合させた戦闘スタイルのことを言う。
異形相手に近接格闘をするというのは、少し危険ではあるが、男は昔から、このスタイルが板についていた。
二丁拳銃を持った男は、コンクリートの様な材質の建物を歩く。
「しかし、驚くほど何もいないな」
男の言う通りである。
生き物のいた形跡は爪痕のみで、それ以外には気配すら感じられない。
しかし、男はやはり歩みを止めない。
やがて、ビルの最奥に辿り着いた。
ビルの最奥とは何か…自分でも思ったため、説明を入れよう。地下である。
男は、一階から入り、5階あったビルを、登ってから降り、地下に入ったのだ。
1階から5階に行き、もう一度帰ってくるまでの間にも、やはり生物はいなかった。
地下3階の、強固な鉄扉を蹴り破る様に開け、男は中に入る。
「この作り…軍の基地か? これは」
鉄扉の中は、まるで軍の基地の様な作りをしていた。
壁際に小さな棚が配置されていて、その中に弾薬や、ハンドガンと思われるものが置いてあった。
食料も少なからずあるようで、缶詰などの保存が効くものが多い。
「基地…いや、避難所…? なんにせよ、食料と弾薬はありがたい」
男のメインウェポンは銃だ。
銃は、誰もが知る通り弾薬がなくてはただの重いだけの鉄クズなので、男にとって弾薬とは命そのものでもあった。
置いてあった弾薬も、男の持っている銃に合うものが幾らかあったし、食料も数ヶ月分は確保することができた。
男が、念のため自身の銃に合わない弾を持ち出そうと、リュックを下ろした時だった。
ゴゴゴゴゴ…。
と、地の揺れる様な音が響きだした。
「む、地震か?」
男が周囲を警戒する。
…と、その時だ。
ゴゴゴゴゴ、ゴバッ!
と、何かが持ち上がる様な音がした。
直後に、ビルがぐらりと傾いた。
「な…! ここは地下だぞ…?! ビル自体が傾くなど…!」
男は、弾薬を一掴み分だけリュックに入れると、背中に背負って全速力で駆け出した。
地下3階と2階とを繋ぐ階段に男が訪れた時、男はその異様さに息を呑んだ。
「バカな…階段が狭まっている…?!」
行きは、横幅4mほどあった階段の壁が、今は2.5mくらいに減っていた。
それを見て、男は目を見開きながら叫んだ。
「なるほど…! こいつはしてやられた!」
男は、階段を全速力で駆け上がり、地下2階の廊下を走って駆け抜ける。
そうして、男が息を切らせながら地下1階への階段に着いた時には、階段の幅は2m程になっていた。
男は、押し通るように体を滑り込ませ、必死に進んでいく。
そうして地下1階に辿り着くと同時に、荒れた息を整えもせずに再び走り出した。
何かに邪魔されることもなく、最後の階段に辿り着いた男は、戦慄した。
階段の幅は、約1m程に縮んでいた。
「くそ…!」
男はリュックを一階に向かって投げてから、自らの体を横にして、階段を登る。
横歩きで階段を登った経験なんてなかった男は、先ほどまでよりも一層息を荒くしながら、階段を登ってみせた。
リュックを即座に拾うと、男はやはり止まることなく走り、飛び出す様にビルから脱出した。
途端に、揺れはぴたりと止まった。
地震が止まったわけではない。実際、今も病院だったビルは揺れている。
とは言うものの、地震が起こっていたわけでは、ないのだ。
「はあ…ぐっ、は、してやられた…くそっ」
男は、荒い息ながらに悪態をつきながら、体を引きずってビルから遠ざかる。
と、男がそうしているうちに、ビルは揺れを止めた。
…かと思いきや、ビルがいきなり横倒しに傾き、びょん、と凄まじい跳躍をしてみせた。
「くっ、はは…! ミミックか…しかもビル型の…!」
そう。あのビルは、異形の一種だったのだ。
異世界の生物の代名詞の一匹とも言える、ミミック。それは、この世界でも健在だ。
普通は、私たちのよく知るミミックのように宝箱に化けているのだが、稀に突然変異したミミックが現れることがある。
突然変異ミミックは、元々あった建造物を乗っ取り、自らの手中に納める。という恐るべき能力を持っている。
飛び上がったビル型ミミックの口がガバリと開いた。
はたから見るとビルが空中に飛び上がって、いきなり真っ二つに割れた様にしか見えない。
そして、地下で見たあの弾薬や武器の数からして、相当な人数を喰っているようだ。
「相当喰ってるってことはお前…武器も弾薬もたんまり溜め込んでる…そうだろ?」
ミミックは、口を閉じて、何かを味わう様に口をもにゅもにゅとさせたが、何も感触が感じられなかったのか、怒った様にキョロキョロと周囲を見回してから、男を見つけた。
ミミックは、明らかに激昂している。
「容赦しねえぞ。トラップ風情が」
男はそう言いながら、背中に仕舞い込まれていたツァスタバ M93 ブラック・アローを取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます