第3話

 俺がこの施設で目を覚ましてから一週間が過ぎた。この施設は一般の病院ではなく、軍学校の敷地内にある病棟だったのがわかった。


 最初の診断では全治一ヶ月だったのが、なぜかまだ一週間しか経っていないはずなのに明日退院といわれた。もっとゆっくりと状況の確認と現状を調べたかった。それでも一週間の間に様々な情報を手に入れることができた。


 一時的な記憶喪失と判断された俺は、記憶を取り戻すという建前で俺自身のことや軍学校についてなど医者から情報を得ることに成功した。それらの情報から改めて現状を考えてみることにする。


 剱崎トウヤ、十五歳。両親は共に健在。今年軍学校に入学したばかりの一年生だ。軍学校に入学した経緯には黒咲ヤチヨの存在が関わっている。


 黒咲ヤチヨ、十五歳。トウヤとの関係は幼馴染になる。両親はバグズの襲撃によって数年前に死去している。孤児となったヤチヨはほぼ強制的に軍学校へ入学する事になった。当たり前だが俺と同じ一年生だ。


 軍学校。正式名称は地球統合軍極東第三軍支部軍学校となっている。早い話がバグズと戦うための軍人を育成するための学校になる。だいたい入るものはバグズに恨みを持つものか、軍関連の家系を持つもの。そしてヤチヨのように孤児が入学することになる。


 最終的に軍に所属するかは別として、在学中は衣食住が保証される上に給料まで出る。そして様々な資格も得られるということで孤児にとっては悪くないのだろう。ただし俺やヤチヨがアームズフレームに乗っていたように、学生だとしても戦場へ駆り出されることもある。


 とはいえ、あの戦い自体は突発的なもので本来はバグズなど出るはずもなく、ただアームズフレームの操縦訓練をするだけのはずだった。単に運が悪かっただけともいえる。


 そして、それらの情報を集めるうちに俺は気がついた。本来ならあの戦闘で俺は死んでいたのではないかということに。いや実際に剱崎トウヤは死んだのだろう。そしてその死んだ剱崎トウヤの体の中で俺が目を覚ましたと考えられた。


 ただしこれも確定しているわけではないので油断はできない。俺が知っているゲームの知識だと、軍学校で行われた演習中に現れたバグズにより動けなくなったヤチヨを守って死んだことになっている。


 状況的に俺の意識がトウヤの体で目覚めなければそうなっていたのではないだろうか。あくまでこの推測は状況的に似ているというだけで、全く関係ないかもしれないので今後も油断はできないだろう。


 考えをまとめていると扉がノックされ白衣を着た女性が部屋に入ってきた。


「体調はどうかな?」

「問題ありません」

「そうかい? それなら軽く診察をして問題なければ退院だ。本来なら全治一ヶ月の怪我のはずだったのだがね? キミ変な薬でもやってたりしないかい?」

「していませんよ。それにそんな物を使っていればすぐにバレるんじゃないですか?」

「はっはっは、冗談だよ」


 この女性は軍医の伊那森いなもりレイカ。見た目は二十歳くらいに見えるが実際の年齢は不明だ。金色の髪と翡翠色の瞳をしている。体つきはかなりナイスバディだ。ちなみに本編には出てこない。


「ふむ、体は健康そのものだな。三日前にした精密検査でも不思議なことに問題は見受けられなかった。記憶喪失ということだったが、それに関してはどうかな?」

「まだあやふやなところはありますが、日常生活を送るには問題は無いかと」

「まあそれなら大丈夫だろう。退院の手続きや学校への連絡などはこちらでしておこう」

「助かります」

「何かあれば気軽に訪ねてくるといい。記憶のことでもその不思議な身体のことでもなんでもいい」


 すでに軍学校の制服に着替えを済ませている俺は、レイカ先生に続いて病室を出る。そのまま他愛もない会話をしながら入口まで案内される。


「レイカ先生お世話になりました」

「うむ、それではな」


 レイカ先生に見送られ、俺は軍学校の寮へ向かう。今はまだ昼前だが授業に出るのは明日からでいいといわれている。今日は寮の自室でトウヤについて改めて調べるつもりだ。日記の一つでも出てくればいいのだが。


 それはさておき、退院したことで今日からはゆっくりと寝ることができそうだ。どうもあの病室には何かが出るようで、夜に寝ているとお腹の辺りに重さを感じたり金縛りになることがあった。そこにいるはずのない人物の姿を何度も見かけた気がする。


 流石に夜中の病室でヤチヨを見たなどといったところで笑われるだけだろう。病院とはいえ軍の施設に変わりはない。そんな所にそれも夜中に侵入なんて出来るはずがない。


「ここか」


 部屋は二人部屋のようだ。どちらが自分の机とベッドなのかわからなかったが、とりあえず片付けができている机の物を漁ってみる。


(どうやらトウヤはマメな性格だったようだな)


 整理整頓ができている机がトウヤの机だったようだ。一通り調べてみたが日記のようなものはない。まあ今どきの十五歳の少年が日記を書いているほうがおかしいのかもしれない。


 続いて同居人の机も調べてみる。名前は紅凪くれなぎユウヤ。ユウヤという名前には聞き覚えはないが紅凪は知っている。一作目のヒロインの一人に紅凪クレハというキャラクターがいる。


 彼女のシナリオには死んだ兄についての話が出てくる。つまりユウヤはクレハの兄ということになのだろう。そして俺同様に本編が始まる前に死んでしまうということになる。


 調べられる場所は一通り調べ終わった。あとは寮の中を回ってみるか。部屋の中にはシャワー室がないことから、寮内に浴室があるはずなのでまずはそこを確認しておこうか。


 寮母には俺が記憶喪失だという話は伝わっているようで、わからないことがあれば気軽に聞いてほしいといわれている。ついでに寮内のルールなどあったら聞いておくのもいいだろう。


 寮として使われている施設は三階建てになっている。一階は食堂があり朝と晩に寮生全員同じメニューが出されるようだ。昼に関してはABCの日替わり定食を選べる用になっているが早いもの勝ちのようだ。


 そしてなんとこの寮は男女共用になっている。さすが元はエロゲーといったところだろうか。ちなみに学生は一学年あたり男十人女十人の二十人が三学年。最大で六十人にる。


 今は一年生は二十人、二年生は十九人、三年生は一四人となっている。怪我や病気、そして事故で退学もしくは死亡などの理由で上の学年になれば人数が減ることもある。補充などはない。


 寮母から色々と話を聞いて今は寮内を散策している。ただし三階は女子階になっているので立ち入りは禁止された。もし仮に三界に上がった場合は命の保証はされないといわれた。実際二年生の減った一人は……。


「ここが風呂か。結構広いな」


 風呂は男女共用で、曜日で男子が先か女子が先かは決まっている。これが本編な混浴時間というものがあるのだが、この寮には存在しない。なぜかって? それは俺がまだ十五歳、つまり成人していないからだ。ちなみに本編開始時の主人公やヒロインの年齢は全員十八歳以上となっている。


「さて久しぶりに風呂に入らせてもらうか」


 寮母にも許可をもらって着替えも手に持っている。入院生活中は包帯が取れてからはシャワーを浴びていたが風呂には入れていない。まだ病み上がりなのであまり人の多い時間に入りたくないといった所、今の時間なら入ってもいいと許可をもらった。


 脱衣所で着ているものを全て脱ぐ。このトウヤの体は結構鍛えられているようで、胸筋はそれほどでもないが腹筋は割れていて細マッチョといえる体型をしている。常備されている手ぬぐいを手にとり浴場にはいる。


 浴場は大きめの温泉施設のようにかなり広い。大きんは浴槽の他にサウナ室や水風呂もある。最大三十人が一斉に入ると考えるとちょうどいい大きさなのかもしれない。


 かけ湯をして体と頭を洗い湯船に浸かる。久しぶりの風呂というよりはこの世界に来てから初めての風呂は体によく染みる。改めて自分の体を見てみる。あれほどの怪我をしていたというのに傷一つない。


 確か額も切っていたはずなのだが、その後すら見られない。何がどうなっているのかはわからないが、これがトウヤに備わっているなにかなら多少の無理はできると追うことだろう。


「ん?」


 脱衣所と浴場に続くスライドドアが開く音が聞こえた気がした。俺は一番奥の風呂に浸かっているので入口までは湯気で見えないが、人影は見えないので気のせいだろう。まあいい、体もほぐれたし十分温まったので上がるとしようか。


 湯船から上がり脱衣所へ向かう。手ぬぐいで体についていた水を拭い浴室へと続くすりガラスになっているスライド扉を開く。


「……」

「……」


 目の前にタオルで体の前を隠しただけの少女がいた。緑色の髪にエメラルド色の瞳。元がエロゲの世界なので今更髪や瞳の色にツッコミを入れるつもりはない。そういうものだ。


 体の前をタオルで隠しているが、色々と大きい。ヤチヨよりも大きいのではないだろうか。小さなタオルで隠しきれない大きさだ。何がとはいわないが大きい。


「え? あれ? え?」

「通ってもいいかな?」

「あ、はい」


 俺は少女の横を何ごともなかったかのように通り過ぎる。備え付けのタオルで体を拭いて手早く着替えを済ませる。ドライヤーで髪を乾かしたいところだが今はやめておいたほうがいいだろう。なぜかって? それは。


「キャーーーーーー」


 そういうことだ。俺は少女の悲鳴を背にしながら一目散に脱衣所から逃げ出した。

この後俺は寮生に捕まり記憶喪失であることを納得してもらった。だがなぜか寮生全員一致でヤチヨの彼氏という役割を押し付けられたのはよくわからなかった。


 このときの俺はまだ、最推しのヤチヨヤンデレの恋人になるという意味をよくわかっていなかった。


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クロスバディ・クライシス ~本編開始前の鬱エロゲで、オレは最推しヤンデレヒロインに溺愛される~ 三毛猫みゃー @R-ruka

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