第5話 血湧き肉躍る展開はありませんでした。


「はい、到着したよ!」


ブレーキをかけた瞬間、足元の地面がまた少し削れたけど、気にしない。

目的地、七色草の群生地。そこには……。


「……うう……ひっ……ふぐっ……」

「…………(無)」


ティアちゃんは鼻水と涎で顔がぐちょぐちょになり、完全に白目を剥いて気絶。ステラさんに至っては、魂が口から半分はみ出して、遠くの空を眺めたまま固まっている。

え、二人ともそんなに気持ちよかったんですか?


「もう一回、いっときます?」

「お願い、もうやめて、吐きそう」


ステラさんが何やら口を押さえています。

すると、足元の七色草がモゾモゾと動き出した。

いや、動いているのは、地面です。

「あれ?」


草の中から現れたのは、ツルや大きな花びらを持った、なんだか怒っている植物の魔物。

……あ、これティアちゃんが言ってた「アラウルネ」っていう魔物かな?

花の上に人が乗っているような形です。ちょっとキモいです。


「魔物ですね、相手になりますよ。えいっ! 胴ぉぉぉ!!」


私は鞘から抜いた竹刀を、横一閃に振り抜いた。

その瞬間。


ボシュ、あわわ、竹刀の先端に火がつきました。

「なして?」


火は竹刀全体に燃え広がります。

「あわわわ」

――パァァァァン!!!


「あちちちっ!?」


ものすごい衝撃音と一緒に、私の手が熱くな離ました。。

見ると、手に持っていた自慢の竹刀が、先端から真っ赤に燃え上がり、そのまま炭になって崩れ落ちていく。


「あああ! この間お母さんに買ってもらったばかりなのに! また怒られるぅぅ……」


魔物が強かったのかな? 摩擦? よくわかんないけど、私の竹刀が、一本ダメになっちゃった。

私が半べそをかいていると、ようやく正気に戻ったステラさんが、震える手で何かを差し出してきた。


「リ、リン……これ使って……。あなたの力に、普通の木は耐えられないわ……」


手渡されたのは、ずっしりと重い一本の鉄の棒。剣の形もしていない、ただの無骨なインゴットみたいな棒だ。


「わぁ、ありがとうございます! これなら燃えなさそう」


私はその鉄の棒を構えて、目の前のアラウルネに向き直った。

……って、あれ?


「…………?」


目の前のアラウルネさん、動かない。

それどころか、私が「胴」を打った軌道に沿って、ススッ……と体が左右にズレて。


――ドシャァァッ!!


綺麗な断面を見せて、真っ二つになって倒れていた。


「はて? まだ鉄の棒、振ってないですよ?」

「……さっきの……さっきの竹刀が燃え尽きる直前の『胴』で、もう斬ってたのよ……。というか、音速を超えた衝撃波で消し飛ばしたというか……」


ステラさんが力なく笑っている。

へぇー、弱い魔物だったんですね。もっと手応えがあるかと思ったのに。


「とりあえず、目的の草を全部摘んじゃいますね!」

「待ちなさいリン! 花は全部摘んだらダメよ、少し残しておきなさい。また生えてくるから」


ステラさんに注意されて、私は「はーい」と素直に手を止める。

人の話を聞かない私だけど、綺麗なものを独り占めしちゃダメっていうのは、道徳の時間に習ったから知ってる。


「よし、じゃあこのくらいで! ティアちゃんも起きたみたいだし、帰りましょうか」


私は、ようやく目を覚まして「ここはどこじゃ……わしは死んだのか……」と呟いているティアちゃんを、ひょいと小脇に抱えた。


「帰りも、お急ぎ便で行きますね!」

「ミギャあああああああ! お急ぎじゃないやつにしてぇぇぇ!!」


ステラさんの叫びがこだまする中、私は再び地平線の彼方を目指して、軽く(本人気分)地面を蹴り飛ばした。


「あのう〜、二人とも気絶されると、私どこに行ったらいいのやらなんですが」

教訓、生身で音速を越えるのはやめましょう

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