第4話
「――異世界にいる」
そうでもなければ、ありえないだろ?!
なんだよ?! この化け物たちは?!
「裕、戻るぞ!」
すると背後で和康の声が聞こえた。
俺は辺りを警戒しつつ振り返り、和康の方へ駆けて行った。
「お、おう!」
だがその瞬間、俺たちを阻むように上空からドラゴンが舞い降りた。
「うわぁあああ!」
翼を携え首が長く、鱗を纏った生物。
直ぐにドラゴンと言う単語が頭を過った。
――俺は恐れおののいた。
「裕! こっちはもうダメだ! あっちへ逃げよう!」
体育館の地下にさえ逃げられれば、どうにかなるだろう。
だが目の前に翼の生えたトカゲがいて、邪魔をするのだ。
もし一歩でも近づけば、あの鋭い爪か牙で、俺たちの命などえぐり取られてしまうだろう。
「和康、あそこに入ろう!」
それはここから一番近い学部棟だ。
傍には2日前に行った、コンビニもある。
だがコンビニの中はここからでも分かるくらい、悲惨な様子だった。
いやそうに違いない。
何故なら外にはみ出すほどの、欠損した死体が転がっているからだ。
そして陰になっていて、はっきりとは見えないが、何かがそれらを食べている。
俺たちは走った。
そして広場の横を通り過ぎる。
「助けてくれぇえ! 頼むぅう! うわああああ!」
するとその時、こちらに生徒の一人が助けを求め走ってきた。
だが俺たちに声をかけた時、その身体(からだ)を上空の化け物に掴まれ、連れていかれてしまった。
「おい……あれは何だよ?……ハーピーか?」
ゲームに出てきたようなモンスターの名前を言ってみた。
だが得体など知れない。
「もうすぐだ! 急ぐぞ!」
だが和康は気にしない。
そんな余裕はないと、その目が語っていた。
目の前に学部棟の入口が見えてきた。
「よし!……。え?……」
だが和康が、その入り口の前で立ち止まった。
「どうしたんだ?!」
俺は和康に追いつき、問いかける。
だがそれと同時に、その学部棟の中が視界に入った。
「嘘……だろ?」
死体、血、死体、腕、首、肉片、死体、内臓……。
そこには奥の方まで死体の行列ができていた。
壁一面に赤いペンキでなぐり書きしたように滴る血痕。
2階へと続く階段にも、降りる直前に殺されたであろう、判別のつかない者の死体が転がっていた。
「ここもダメだ……」
「じゃあコンビニは?」
分かっているが念のため、遠目で確認しながら言ってみる。
「いや、悪い……あそこは無理だな」
俺は自分で聞いておきながら、直ぐに取り消した。
和康の意見を聞くまでもなかったのだ。
やはり見えていた通り、そこにはいくつもの死体しかなかった。
そして陰になった所に、何か小さな鬼のような生き物が、人の腕らしき物にむしゃぶりついている。
俺は寒気がした。
すると急にお腹の辺りから何かこみ上げるものを感じた。
「うぉおおええええ!」
俺は嘔吐したのだ。
とても吐かずにはいられなかった。
“我ながら細い神経だ”とでも、言えばいいのか?
だがそんな余裕はない。
「大丈夫か? しっかりしろ! 奴らに気づかれる前に行くぞ?」
「どこに……行くんだ?」
俺はどこに行けばいいのか? 何も考えられなかった。
だから和康に任せるしかなかった。
「駐車場だ。とりあえずそこに行こう」
「でも……分かってるよな? もうここは違うんだぞ? 車を手に入れて……それからどこに行くっていうんだよ?!」
「それは……俺にも分からない。だがここにいても死ぬだけだ」
ここはもう日本じゃない。
俺たちの知る世界じゃないんだ。
だが、まだ疑っていた。
いや違うな……少しでも可能性があるのならと、すがっているんだ。
あの時みた光景が、俺たちのただの気の迷いであればと、そう思っているんだ。
「とにかく行くぞ!」
「ああ……分かった」
俺は和康の後ろについていった。
移動している間もどこからか聞こえてくる悲鳴。
そしてそれがあちこちで急に途切れるのだ。
すると不思議なことに、見てもいない状況が頭に浮かぶ。
そして理解する。
今、どこかで誰かが死んだと……。
階段を上り倒壊した建物の横を通り過ぎていく。
そしてキャンパスの奥へと続く長い階段が一瞬見えた。
だがもはやそこには登れる場所などなかった。
いくつもの千切れた肉片とバケツ一杯に入った赤い液体を何度もこぼしたように、真っ赤に染まった階段。
そこにはもう足場などなかった。
「裕、出来るだけ見ないようにしろ」
「ああ、分かってる」
そうは言っても見えるんだから仕方がない。
どこに目を向けても肉と血しかないのだ。
もはやここが何の大学だったかも分からなくなってくるような状況だ。
「見えてきたぞ!」
目線の先に駐車場が見えてきた。
だがその時、俺たちにはもう、“それ”が見えていた。
そしてもう少し走ったところで確信する。
「どうやら遅かったようだな……」
――見事だ。
すべての車両が全焼していた。
すると今になって何かが焼けるような臭いがした。
そしてバチバチと燃える音も聞こえる。
「どうやら俺たちは冷静じゃなかったようだな」
和康がそう言った。
「……ああ」
もし冷静だったなら、この臭いに気づいていただろう。
だが別の臭いも混じり、もはや何の臭いか分からないのだ。
精神面の問題だけではない。
嗅いだことのない臭いが常に漂っていて、もう判断がつかなかったのだ。
するとそこで、もう一つ倒壊をまぬがれたらしい建物を見つけた。
「おい、和康。教務課は無事だぞ!」
すると和康も気づいた。
「分かった。あそこに行こう。他に行ける場所もない」
和康はうなずき、即答した。
俺たちは段々と口数が少なくなっていた。
この状況の打開策が見えなくなっていたからだ。
逃げ場所も隠れる場所も見つからず、ただ無駄に体力だけを消費していく。
いつ襲われるかもしれない恐怖に怯えながら。
そして教務課の入口が見え始めた。
すると和康が急に速度を上げる。
「おい! ちょっと待ってくれ! 俺たちも入れてくれ!」
和康はそう言いながら走っていった。
俺は後を追う。
どうやら生存者を見つけたらい。
そして玄関口の前に来てみると、そこにバリケードをこしらえている2人組がいた。
するとこちらに気づいたように、その2人が俺たちの方へ向いた。
「ん?! どうした? お前も入るか?」
「え?」
「そこは危ない。この中なら安全だ。丁度いい、ついでに手伝ってくれ?」
「はっ、はい! 分かりました!」
心優しいその2人組は、俺たちを招いてくれた。
そして中に入り、玄関口を長椅子やテーブルを使って、外からモンスターが入って来れないようにする。
俺たちは言葉もなく、ただ黙々と作業に取り組んだ。
「どこから来たんだ?」
すると内1人が俺にそう尋ねた。
「体育館の方です」
「体育館? そんな所にいたのか? 安全なのか?」
「最初はそうでしたけど、今は……」
「……そうか」
皆まで言わずとも伝わった。
もはや安全な場所などあるのだろうか?
ここは見たところマシだが、安全とは言い切れない。
そしてしばらくするとバリケードを張り終えた。
「よし!」
「次はどこですか?」
俺は積極的に尋ねた。
少しでも出来ることをしていたかったのだ。
「ここが最後だ。他はもう全部やった。後は部屋にこもって奴らが去るのをしばらく待とう」
俺は額の汗を拭った。
見ると和康も息を切らしていた。
「分かりました」
「こっちだ。とりあえず皆に紹介するよ」
俺たちはその2人について行った。
階段を上り、右に曲がった突き当りの部屋だ。
部屋の前まで来ると、中に、3人ほど女性の姿が見えた。
俺は軽く会釈し、中にいる。
「バリケードを張り終えた。当分はここにいよう」
だが返事はなかった。
皆、座ったまま俯き、元気がない状態だった。
そしてその中の一人が、そっと顔を上げた。
そして俺は気づく。
「……あ」
俺は自然と思わず声が出てしまった。
聞こえなかったか周りの顔を確認する。
大丈夫だ……誰も気づいてない。
すると彼女と目があった。
――片平 詩織。
彼女の姿がそこにあった。
「そう言えば自己紹介がまだだったな? 俺は小平。小平博史だ」
小平さんは短い黒髪のさわやかな人だった。
「さっきはありがとうございました。中に入れてくれて。俺は――」
「瀬川くんだね?」
すると何故か小平さんは、俺の名前を知っていた。
「俺は浅木龍也だ。よろしくな」
するとその隣にいた金髪の強面な人が俺にそういった。
だがこの人も先ほど俺たちを中に入れてくれた人だ。
見た目は怖いが中身はそうではないのかもしれない。
「橘 和康と言います。よろしくお願いします」
「それにしても危ないところだったね?」
小平さんがそう言った。
確かにそうだ。
あの状況でもし中に入れてもらえてなかった、どうなっていたことか。
「3人とも自己紹介してくれないか?」
すると小平さんは床にうずくまっている3人にそう言った。
「た……田所 あずさです。よろしくお願いします」
すると茶髪にショートヘアーの女性がそう言った。
「中島みどりです……」
黒髪短髪にメガネをかけた女性は名乗った。
どうやら元気がないらしい。
そして――
「片平 詩織です」
すると片平さんは俺の顔をちらっと見た。
そして、それからまた直ぐに俯いた。
俺はこぼれそうになった笑みを堪える。
「良かったな?」
和康が耳元でそう言った。
「……ああ」
俺は少し安心した。
ずっと気になっていたから……。
死んだと思っていたんだ。
あの時、俺が手を引いていれば助けられたかもしれないと、そう思っていた。
だから俺がそれを考える度に、和康は「考えるな」と忘れるように、促した。
するとそこで小平さんが座りながらこちらを見た。
「瀬川くん、まあ見ての通りここには物資が一つもなくてね。その……もし何か持っているなら」
ああそういうことか。
「だったらありますよ。少しですけど」
まあ何の理由もなし、俺たちを中へ入れたりはしないだろう。
生存者が増える分、食いぶちが増えるんだ。
「本当かい?! 助かるよ」
俺はリュックを開け、中から3本のペットボトルと保存食を出した。
「和康がまだ持ってるので、気にしないでください」
「ん?……ああ、それはいいんだ……それは」
小平さんは苦笑いで誤魔化した。
俺たちに気を遣っているのだろうか?
保存食が全員に行き渡った所で、俺たちは食事をとりながら少し休んだ。
とてもじゃないが、話す余裕もなかった。
俺はこの際だし片平さんと少し話してみたい気持ちもあったが、風呂に入っていないせいか? 女性3人は髪が乱れていて、臭いを気にしているようだった。
だからこちらにはあまり近づいてこないのだ。
「ああそうだ。水は出ないが、トイレは廊下に出て突き当りにある。そこを使うといい」
小平さんが念のため、教えてくれた。
「ありがとうございます」
ここにいる5人は皆、疲れ切った顔をしていた。
それより化け物が入ってこないように入口を塞いだのは正解だ。
だがこの状況は、いつまで続くのだろうか?
どのくらい閉じこもっている気なのだろうか?
「……これじゃあ足りない」
すると浅木さんがそう言った。
「博史? これからどうするんだ? いつまでもこれじゃあ……」
「ああ、分かっている。考えているがどうすればいいのか……」
「考えてるって? 何をだ? それじゃあ分からねえだろ?!」
浅木さんはイライラしながら声を張り上げた。
俺は少しビクついた。
「……悪い」
すると浅木さんは直ぐに落ち着き、謝った。
「仕方ないさ。状況が状況だからな」
小平さんには分かっているのだろう。
浅木さんが怒る気持ちも。
そしてそれが当然、本心ではないことも。
「だが何とかして、せめて食糧だけでも手に入れないと……」
水と食糧。
生きるにはそれが必要だ。
俺は和康にアイコンタクトを送った。
すると和康は、片方の口角を上げ、”お前の好きにしろ“と、そう言った。
そして俺は提案する。
「物資なら、まだありますよ」
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