逃がすと思うか?【イタコ】でリベンジャー!!

渡貫とゐち

第1話

 ある日のこと。

 ひとつの訃報が、日本中に強い衝撃を与えた。


 レジェンドと呼ばれ続けてきた大物俳優が亡くなったのだ――

 彼を慕っていた若手俳優は涙を流し。

 長く共演してきた多くの芸能人が彼について言及した。


 一週間は、ネットニュースが彼一色だったと言ってもいいだろう。

 連日、芸能界から悲しみの声が上がり、SNSでは彼の逝去を悲しむ人たちで溢れかえっていた。これまで長年に渡り、数々の作品を残してきたことに称賛の声も積もっていった……。

 彼が主演を務めた作品のDVDが再販売されるなどの動きもあったし、サブスク解禁もされずテレビ放送もされていなかった作品が、初めて地上波で流れることが話題となった。

 日本中が彼の功績を称えたのだ――


 そんなお祭り騒ぎは約一ヵ月続き……、それから、あるひとつの事実が公になった。

 それは……、逝去した大物俳優がおこなっていたセクハラ行為である。


 長年、苦しめられていたのは女優の卵であった女性たちだ。

 当時は若かった女性も、今では立派な大人の女性になっている。……彼女たちが女優として活躍しているのか、と言えば、限られた人だけだろう。大多数は女優を辞めている。

 大物俳優からのセクハラから逃れるために、芸能界から身を引いたのだ……。


 夢を諦めることで安全を手に入れた。

 ……それって異常事態だろう?


 心に大きな傷を負った女性もいる。

 本人からではない強い圧力で、訴えることもできず、当時は週刊誌に告発するという手段も取れなかった。彼女たちは彼の前では無力だったのだ――しかし。


 元凶は死んだのだ。

 俳優として、大きな功績を残した偉大な人だろう……武勇伝も多い。

 だが、それがどうした?


 女性側からすれば、そんなことで『された』ことがなくなるわけではない。

 許せなかった。


 ――あいつを、このままレジェンド俳優として終わらせてたまるか!!





 とある会合があった。

 カフェテラスで待ち合わせた三人の女性たち――女優、だった者たちだ。


 いいや、デビューすらしていないのだから、女優とは呼べないか。

 かつて女優を志していた女性三人。彼女たちはSNSで知り合った。


 三人が『あいつ』と呼ぶ、あの大物俳優から受けたセクハラ行為を告白しあい、こうして顔を合わせることを決めた。

 きっかけは最悪だが、しかし同じ気持ちを持つ同志だ。ある種、これはオフ会だろう。


 搾取された側の……。

 人を騙し、搾取してきたあの男を、どうしたって許せないし、このまま世間に勘違いさせたまま幸せに生きていけるとは思えなかった。だから、これは作戦会議なのだ。



「――死んで、逃げて、終わりになんかさせないから」

「うん。どんな手を使ってでも、あいつに罪を償わせてやろうよ」


 三人の気持ちは決まっていたが、問題は、相手が死者であるということだ。

 本人はもうこの世にいない……なら、残された親族に責任を追及するか⁇


 仮に追及したところで、他人事でしかない親族に真摯な対応ができるとも思えない。

 言われたからやっただけの、杜撰な対応になるだろう……やはり本人にしか、罪を償うことはできないわけだ。


 週刊誌へ、追加で告発してみようか。

 考えたが、し終えた後が、今である。続報を出したところで売名行為だと疑われることは必然だった。今だってコメント欄には彼女たちを叩く言葉が並んでいる。

 ソートしていないのに……。

 つまり、今のところ死者への侮辱だ、という考えが主流なわけだ。


 相手が死んでから言うな。

 もちろん、その意見もちゃんと受け止める。


 ……晩節を汚すならまだしも、死後を汚しても本人はもう痛くも痒くもないだろう……週刊誌の続報に、果たして意味があるのか……。


 自分が気持ち良くなりたいだけなら、週刊誌を利用するのもありだけど……同時に厄介な問題も抱えてしまうかもしれない。リスクは大きかった。

 でも、どうすれば、この複雑なモヤモヤの感情を発散できる?


「ねえ、これ、どうかな?」


 と、ひとりの女性がスマホを見せてくる。

 SNSの個人ページだった。


 胡散臭いが、実績はあるらしい――



『イタコで、死んだあの人を呼び戻してみませんか?』



「「「…………」」」



 手詰まりな状況ならば、やってみる価値はあるだろう。





 それから連絡を取り、胡散臭い、『イタコ』と名乗る若い女性と待ち合わせた。

 ……思っていたよりも相当若い。え、成人はしてるよね⁇


「はいどーもー、イタコやってまっす、ハルちゃんです、はいシクヨロー」


「……イタコって、こんな感じなんだ……ノリが軽いのね……」


 まるで娘の授業参観にきた母親が、若い世代のノリをすぐ傍で見た、みたいな反応をしてしまった。いやまあ、中学生の娘がいてもおかしくはない年齢の三人だけれど。


 女優を目指していなければ、最速で結婚していれば今頃は……――って、ダメだ。そんなことを考え出したら深くハマってしまう。抜け出せなくなる……。

 闇は、自分次第で襲いかかってくるのだから。


「わたし、二代目なんですよー。イメージ通りのイタコはわたしのおばあちゃんでぇー……あ、実のおばあちゃんではないんですけどね。あとあと、おばあちゃんと言いましたけど、実はまだまだお若いおばあちゃんですーって、それはともかくです、ねっ」


 ゆらゆら、と左右に揺れるヤジロベー(古い?)みたいなイタコの女の子。

 首、肩、腕に数珠をじゃらじゃらと付けた彼女――ハルちゃんが、


「そいで、誰を呼び戻したいんですかー?」

「――私たちにセクハラをして、罪を償うことなく死んだ、あの大物俳優を」


「わお、あの連日ニュースで特集されていたあの人ですか? ほうほう……、またですか。また、と言うのはですね、最近は結構あるんですよねー……過去の罪を裁くために、死者を連れてきてほしい、と依頼をしてくるお客さんが多いのです」


 みな、考えることは同じなのかもしれない。


「この前はそれで裁判所まで行きましたからね。でもでも、わたしが証言台に立ったところで――、ですけども。死人に口なしと言いますし。わたしの口でよければ死人にも口はありますけどね。しっかし、わたしの口であれば信用がないのでは?」


 結局、ハルちゃんの口なわけで。

 ……言葉の信用性は皆無だろう。


 いくらイタコとは言え、死者を呼び戻し憑依している? ……本人が言ったらそれが事実になるなら、彼女たちの大勝利なのだ。

 だけど被害者であると主張している三人は苦戦している……つまり、そういうことなのだ。


 大胆な依頼も過去にはあったようだ。

 先祖の恨みを晴らすために、大昔の将軍をイタコで連れてこい、と。……不良生徒が生意気な後輩を呼び出すみたいに、かつての将軍を呼ぶとは……、先輩はあっちだけれど。


 実際、依頼は達成したので、ハルちゃんは大昔の将軍を連れてきたのだ――が、昔の価値観のまま染まっている人を現代の価値観で文句を言ったところで、こっちの意見が伝わるわけもなく……無駄に喧嘩をして終わるだけだった。


「ところでぇー、イタコで呼んで、どうするおつもりですか? 罪を裁くー、と言っても、数分しか維持できませんよ? 相手から搾り取るお金がもうなければ、言いたいことを言うだけで終わっちまうんじゃないですかねえ?」


「それで充分よ。こっちは言いたいことを言いたいだけなの。文句のひとつでも言ってこれから死ねるなら、贅沢な人生だったと振り返られるわ」


 そうよねえ? と聞けば、他のふたりも頷いていた。

 ――イタコで連れ戻し、文句をぶつける。


 社会的に――それ以前に、既にもう死んでいる本人からすればもうどうでもいいことかもしれないが、きつい言葉を浴びせられるのも責任だ。


「これから先、被害者の分だけ呼び出されると思いなさい――この変態ッ!!」





 呼び出された大物俳優は、昔の価値観のままだった。


「……おお、そうだったんか。そりゃあすまんかったなあ」


 返ってきたのはその一言だけだった。

 はぁ?

 当然、ちゃんとした謝罪はなかった。すまんかった、の一言だけ。

 しかも、半笑いだったし!!


 ――だって、あの時、嫌だと言っていなかったのだろう? と。そんなの、言わせなかったのはどこの誰よ、と言いたかったが、なにを言っても彼は非を認めないのだろうと分かってしまった。変わっていなかった――あいつはクズのままだった。


 さらに、彼はもっと酷いことを言っていた――搾取されてこそ、女は輝くもんだ。

 なるほど……殺してやろうかと思った。もう死んでいるのだからできなかったけれど。

 ……今の時代には絶対に適応できない昔の人である……可哀そうな人だった。


 死んだから、ではなく。

 生きていたとしても、哀れだろう。


 こんな彼を咎める人はいなかった。もう彼を裁くことはできない……だが、被害者の分だけ、彼は天国……ではなく地獄から呼び出されるわけだ。


 そもそものイタコの力なのか、それともハルちゃんの実力なのか分からないが……呼び出しは強制らしい。つまり、呼び出されたら無視はできないようで、死後の世界でスローライフに浸っていても邪魔される。

 そして、現世へ呼び出されると、相当疲れるらしいのだ。



 声色に疲れが見えた大物俳優は、「……マジですまんかった」と絞り出した。

 力が入った謝罪だった。

 繁盛してウハウハのイタコのハルちゃんからは見られない表情と声だった。


「は、反省している、から……もう呼ぶのはやめ、」


「それはあなたの過去の罪によりますねえ。被害者がいれば、納得していなければ、イタコであなたを呼び出しますからね。……生前に楽しんだ分、そして女の子を傷つけた分――ちゃーんと、苦しんでもらいますから」


 あいつの絶望に染まった顔を、絶対に忘れない。

 そして、彼はまたまた、呼び出されるのだ。


 疲弊が溜まったところで罵詈雑言を浴びせられる。

 何度も何度も……もう嫌だと泣きついても、被害者がいる限りは終わらない。


 殺してくれと叫んでも。

 もう死ねない苦痛がずっと続く。


 被害者がこんなにいるわけないだろ! と言わないところ、相当な数の女性で遊んだ自覚があるらしい。自業自得だった。


「嫌だと言っても責め続けたでしょう? んふ……、今度はこっちが搾取してあげる」



 疲弊し切った、イタコで呼び出された大物俳優が雑誌のインタビューに答えた。


 彼がなにを言うのか、その記事はかなり話題となったのだった。





 ・・・おわり

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