認識の限界

これが認識の限界か。私は暗闇に呟いた。手にはビニールの手袋を嵌めている。顔にめり込んだハンマーを抜こうとするがなかなか抜けない。まだ彷徨っている生き霊が引っ張り返しているような粘着度だ。もう既に判別できなくなった顔に長靴を当て引っ張る。ヌチャッと音を立てなんとか戻せた。ブシャーというスプラッター映画の流血を期待したのだが現実はチョロチョロと血溜まりを作るだけ。余りのしょぼさに酷く落胆した。ため息がほのかに白さを帯びて舞い散っていく。白と赤の対比が芸術的で綺麗だと思った。血は真紅の絵の具で白い息は白の絵の具を塗したものだ。本気でそう思うほどに綺麗だった。顔は陥没しチョロチョロとお風呂のお湯が溢れるように土に吸収され地面に赤いシミを作っている。肉片と骨らしきものがぐちゃぐちゃに混ざり合い最悪なビーフシチューだ。「次は、、、、」体全体に目を向ける。そこだけ見れば寝ているようだ。顔を見れば忽ち地獄絵図だが。肌は若く身長は171ぐらいでやや小さいくらいかそれぐらいだ。年齢は20代後半でまだまだこれからの時期だ。不意打ちだったので呆気なく倒れた。ハンマーで頭を何度も殴ると脈が遅くなっていくのを感じた。山の中ともくれば誰もいない。ましてや殺人など誰も思わないだろう。そんな幸福感に包まれながら作業に移る。まずは手からだ。膝の関節から切り込みを入れる。感覚はスーパーの肉より少し硬いくらいだ。これが生きた証なのだろう。刃渡二十五センチほどの刃物でスーと筋を断っていく。二、三回引くのを繰り返し皮が捲れる程の深さまで切り込めた。筋肉が露出する。よく見る画像よりも鮮やかで軽やかだった。しかし少しくすんでいたところもありて早く刃を筋肉に沿わせ擦っていく。その頃には既に脂肪で刃はギトギトとだったので用意してあるノコギリで肉を断っていく。溜め息を吐くように「この段階で使うとは思わなかった」と私はいった。だんだんと血の、鉄の匂いが香ってくる。幸い充満はしないが少々鼻が辛い。鼻にティッシュを詰め強行突破する。鋸の刃が硬いものに当たった。それが骨だと気づくには少し時間が掛かった。骨など火葬くらいでしか見ないからだ。実感など湧くはずがない。知識としては知っていても使えなければ意味はない。骨はスカスカだった。中々切断できず力任せに擦った。そうしてやっと一本が切断できたのだ。手に持って持ち上げてみるとその重量に感激する。三時半という時間が私を急かす。眠気と葛藤しながら夜が明ける前に終わらせないとなぁとぼんやりと思った。

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