紛い物の鑑定書
第2話
港近く、潮風に錆びついた看板を掲げる自称・高級レストラン。
その最奥のテーブルで、工藤は似合わない派手なアロハシャツの襟をいじり、いかにも趣味の悪い「成金ブローカー」を演じていた。
「ほら真白、パパが誕生日プレゼントに『本物』の石を買ってやるからな。もっと嬉しそうに笑えよ」
隣に座る真白は、フリフリした安っぽいドレスの裾を気にしながら、小声で毒を吐く。
「……服のセンスが悪すぎて、笑いたくても笑えませんわ、パパ。それにこの店、さっきから靴の裏が床に張り付くんですの。清掃が行き届いていない店は嫌いですわ」
そこへ、下卑た笑みを浮かべた暴力団の男が近づき、二人の正面にドカリと腰を下ろした。
「お熱いねぇ、社長。……さて、お目通し願いたいのはこいつだ」
男がテーブルに置いたジュラルミンケースを開く。中には、照明を跳ね返すほど巨大なダイヤモンドが鎮座していた。
「時価一億は下らねえ。海を越えてやってきた最高級の『密輸品』だ」
男の自慢げな声を、真白の大きな欠伸が遮った。
彼女は退屈そうに石を指先で弾くと、皿のように目を丸くして、その輝きをじっと覗き込む。
「……ふぅん。ねえパパ、私、こんな『光りすぎるガラス』はいりませんわ」
「ああん?」
男の顔から笑みが消える。真白は優雅に首を傾げ、冷ややかに言い放った。
「本物のダイヤはね、もっと奥深くて、冷たい輝きをしているものよ。お母様がパーティでつけていた石の足元にも及びませんわね。――ねえ、偽物を売るなら、もう少しマシな細工をしたらどうかしら?」
「このガキ、営業妨害かッ!?」
男が激昂して立ち上がった瞬間、工藤がテーブルを蹴り飛ばした。静寂は一気に砕け散る。
「商談決裂だ。悪いな、うちの娘は目が高くてね」
工藤は派手なアロハシャツの内側に隠していた愛銃を引き抜き、迷いなく発砲した。乾いた音が響き、敵の持つ銃が火花を散らして弾き飛ばされる。
「きゃっ!? ちょっと、急に始めないでくださる!?」
真白は慣れない安物のドレスの裾を掴み、飛んできた弾丸を、優雅ささえ感じさせる身のこなしでかわした。その足元は、かつてのダンスレッスンで鍛えたステップのように軽やかだ。
「おい真白、遊んでる暇はねえぞ! 三時の方角、二人だ!」
工藤が怒鳴りながら、迫り来る大男を力任せに肩越しに投げ飛ばす。
「分かってますわよ、野蛮ですわねぇ……!」
真白は吐き気をもたらす「殺し」を避けるように、ナイフの刃を閉じたまま鞘ごと振り抜いた。襲いかかってきた男の側頭部に、正確無比な一撃が突き刺さる。白目を剥いて崩れ落ちる大男。
「おじさん、もっとスマートに戦えませんの? これじゃ私のドレスが汚れ……うっ、……汚れてしまいますわ」
ふいに、鼻を突く硝煙の匂いに少女の顔が青ざめる。胃の奥から込み上げる、あの日と同じ嫌悪感。
足が止まりかけたその時、工藤が背後から迫っていた別の男の顔面に肘を叩き込み、真白の肩を力強く掴んで引き寄せた。
「今はドレスより命を心配してろ! 吐くなら全部終わってからだ、ガキ!」
「ガキではありませんわ……っ、おじさんの給料じゃ買えないくらい高い女なんですのよ、私は!」
真白は恐怖と不快感を怒りに変え、近くのテーブルにあった陶器の皿を掴んだ。
「せめて、お皿(これ)くらいは使いこなして見せますわ!」
フリスビーのように放たれた皿が、工藤を狙っていた狙撃手の額に直撃し、粉々に砕ける。
「……ハッ、皿の使い方を間違ってるぜ、お嬢様」
「うるさいですわ! あーあ、もう最悪ですわ。終わったら一番高いドーナツ、箱いっぱいに買っていただきますからね!」
銃撃の嵐の中、背中を預け合う二人の呼吸は、本人たちの毒づき合いとは裏腹に、驚くほど重なり始めていた。
アウトロー・クレイドル ―パパと呼ぶには早すぎる― @MIku2
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