君の手

もりくぼの小隊

君の手


 駅の第二ホームの座席で居眠りをしている君を見つけて、私はそっと隣に座る。朝一番の人も疎らな駅のホーム、ここの座席に座っているのは君と私だけ、朝もまだまだ寒いのに君の手は手袋もしていない。ゴツゴツとしたその手は同学年なのにまるで違う。

 部活を頑張っているからかな?

 君が男子だからかな?

 私が女子だからかな?


(でも、とても暖かそうな手だね)


 私は素直に思った。頑張り屋な手はとても大きくて暖かい。私の勝手なイメージだけど、そう思える。


(触れて……しまおうか)


 震えた右手の指先でそっと触れたくなる衝動を抑えて、自分の左手を代わりに添えて揉むようにして触れたがりな指を隠した。冷たいな私の手というものは。


 まだ電車が来るまでは時間がある。よく眠っている君に悪いから、静かに隣から立ち去る事にした。


「じゃあね……バイバイ」


 私は囁くように言いながら片手を振った。


「……ぁ」


 バイバイと振る手を君の目が見つめていた。起こしてしまったと私は申し訳ないバツの悪い顔をしていたのだろう。君は長く小さな息を吐いて言った。


「今起きたんだよ、俺」


 知っているけど。何て、言ったら空気が読めないかな? 今の朝の空気よりも凍ってしまうかな?

 そんな、心配をしていたら彼はゴツゴツとした頑張り屋の指で私の手を指した。


「何かのおまじないてやつ?」


 私の手はまだバイバイの動きをしていたみたいで、ちょっと恥ずかしくて手を後ろに隠した。


「別に、何もない」


 私は君の顔をみないように席を立とうとした。それを君の大きな手は制した。私の手を握って、止めた。思ったとおりに暖かい手だった。


「悪い、何か、バイバイて言われたのがさ」


 君は何か言い訳をするようにその暖かい手を放して、空中でろくろでも回すような面白い動きをさせていた。


「その、まだ電車来てないし、嫌じゃなかったらもうちょい隣、座っとかん?」


 君のその言葉が、とても嬉しくて私。


「仕方ない、バイバイはやめよう」


 私は隣に座り直して片手を上げた。


「な、なに?」

「ん、ハイタッチ?」

「なんでなん?」

「なんでやろ? ハイタッチ、しよ」

「まぁ、ええけど」


 私は君の大きくて暖かな手に軽く触れた。それから電車が来るまでの間、くだらなくて楽しいお喋りをしてとても素敵な朝の一時を過ごせたんだ。

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