第4話:因果の縫合針
第4話:因果の縫合針
王都の地下に広がる下層区。そこは、地上が吐き出した欲望と廃棄物が沈殿する、世界の「掃き溜め」だった。
シルスは、腐臭漂う路地裏の屋根に立ち、眼下を行き交う人々の「数値」を冷ややかに観測していた。
(……やはり、おかしい。この街の物流と魔力濃度は、経済規模に対して異常なほど高い。誰かが意図的に、この掃き溜めに『高純度の
シルスの目的は、自分を追放した勇者パーティへの復讐だけではない。彼らを生み出し、彼らを英雄として祭り上げる「世界の
だが、教会の守りは堅い。正面から挑めば、個人の魔力など「修正パッチ」ひとつで消去される。
必要なのは、システムの
「――逃がすな! 生け捕りにしろ! ガロウ様への献上品だ!」
怒号が響く。
路地裏を、一人の少女が駆けてくる。ボロボロの衣服、泥に塗れた銀髪。だが、シルスの目が捉えたのは、彼女が走る軌跡に残る「空間の歪み」だった。
(……ほう? あの少女、無意識に因果の糸を掴んでいるな)
少女――アリシアが、追っ手の男たちに向けて必死に手を振る。
彼女自身は魔法を使っているつもりなのだろうが、実際には違う。彼女の指先が、空間に張り巡らされた「因果の線」を偶然かき乱し、男たちの足元の石畳を「崩れる予定」に書き換えているのだ。
(空間干渉……いや、あれは『因果の知覚』か。断絶された事象を無理やり結びつける、天性のバグ体質……)
シルスの脳内で、数式が高速で走る。
教会のシステムは「完璧な調和」で守られている。だが、あの少女の資質を「導線」として磨き上げれば、その調和したプログラムの隙間に侵入し、内側から食い破る「ハッキング・ツール」になり得る。
(……採用だ。彼女なら、僕が設計する『銀糸』の出力に耐えられる)
シルスは、感情の一切ない計算だけで、屋根から飛び降りた。
---
路地裏に追い詰められたアリシアを救った後、シルスは彼女を廃屋へと運び込んだ。
怯えるアリシアの前に、シルスは見たこともないほど細く、そして鋭い輝きを放つ「銀色の糸」の束を取り出す。
「……何、それ……?」
「君という素材《ツール》を完成させるための、インターフェースだ。君には才能があるが、今のままでは出力が不安定すぎる。教会の脚本を貫くには、君の神経と因果を直結させる『導線』が必要なんだ」
シルスは、アリシアの手を無機質に引き寄せた。
「ガロウを殺したいか? 君の家族を奪ったあの男の加護を、内側から引き裂きたいか?」
「……殺したい。そのためなら、なんだってするわ」
「いい返事だ」
シルスは迷うことなく、アリシアの指先の皮膜を魔力で裂き、その神経の末端に一本ずつ「銀糸」を縫い付け始めた。
「あ、……ああぁぁぁぁっ!!」
アリシアの絶叫が廃屋に響く。
それは、ただの治療ではない。シルスが第四層の技術を応用して作り上げた「因果干渉用触媒」を、生身の人間に埋め込む禁忌の改造手術だった。
「……耐えろ。これが馴染めば、君の指先は世界を縫い変える『針』になる。君が呪う全ての事象を、僕が設計するこの銀糸が現実へと縫い止めるんだ」
手術を終えたシルスの服は、返り血で汚れていた。
だがその目は、苦痛に喘ぐ少女への同情ではなく、ようやく手に入れた「強力な武器」の仕上がりを確認する職人のそれだった。
「さあ、アリシア。……契約の時間だ。君の復讐を、僕の計算に組み込ませてもらうよ」
アリシアは涙を流しながらも、自分の指先に宿った「銀色の殺意」を、震える手で見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます