第3話 最強賢者、試験を受ける
魔法師団長の悪口を言ってから1週間ほどが経った頃。
俺は招待状を持って、王都の魔法師団訓練場へと来ていた。
とりあえず、ここに行けとだけ言われているのだが……後はどうすればいいのだろうか。
などと考えていると、背後から巨大な魔力が近付いてきた。
常人の100人……いや、1000人分はあるだろうか。
その気になれば、王都一帯を丸ごと焼け野原にできてしまうほどの魔力だ。
「ネイトン=マギウスだな」
俺が振り向くと、魔力の主――魔法師団の制服を着た男が、そう俺に尋ねた。
初めて見る顔の男だ。
だが、服装から予想はつく。
階級章の見分け方は、魔法師団出身の祖父に教わったからだ。
魔法師団の制服につけられた、金色の階級章。
それは彼が、魔法師団長であることを示していた。
ラジウス=レオニール。
この国に知らぬ者のいない、現代最強の魔法使いだ。
「……いえ、合っておりますが……どうして分かったのですか?」
「その魔力だ。間違えようもない」
「魔力?」
俺の魔力は、いつから有名になったのだろう。
魔力、ないのに。
「ああ。……魔法を極めると、ここまで完璧に魔力を隠せるものなのだな……!」
……なるほど。
どうやら彼は俺に魔力がないのではなく、魔力を隠していると勘違いしているようだ。
どうするべきだろう。
ここで彼の話を訂正するのは簡単だが、それでは魔法師団長に恥をかかせることになる。
立場の差を考えると、彼の間違いを指摘するよりは、それとなく気付いてもらうべきだ。
しかし、彼に向かって『魔力を隠すのは得意なんです』などと嘘をつくわけにもいかない。
今すべきは……話題をそらすことだ。
「こ、このたびは魔法師団へのご招待、ありがとうございます! 身に余る光栄をいただき……」
「ああ、そういうのはいらないぞ。……むしろあの素晴らしい魔導具の設計者に会えたのだから、こちらが感謝すべきところだ」
……あんな簡単な魔導具を、褒められてしまった。
本当に偉い人は腰も低いなどといった話を聞くが、彼がまさにその例のようだ。
「本来であれば、無条件での入団とすべきところだが……君の父からの要望があってね。特別に試験を行いたいと思うのだが……」
「師団長、やはり私は反対です」
魔法師団長の言葉を、彼の後ろにいた女性が遮った。
階級章を見る限り……副師団長だな。
魔力量は魔法師団の中では平均的なようだが……外から見ても分かるほど、魔力の流れが綺麗だ。
体内魔力の流れ方は、魔力制御の習熟度合いを表すと言われている。
彼女の体内魔力は、魔法師団長と同等……いや、それ以上に洗練されているように見える。
父に比べるとやや制御が甘い感じもするが、かなりの鍛錬を積まなければ、ここまでの制御力は身につかないことだろう。
魔力と階級を見ただけで、彼女が誰かは分かる。
魔法師団のナンバー2、副団長ミア――通称、炎獄のミア。
名字がないのを見れば分かる通り、平民出身の魔法使い。
魔法の才能は人並み以下と言われたにも関わらず、努力のみで魔法能力を磨き上げ、今では次期魔法師団長とも目される存在だ。
彼女の立場を考えれば、俺の入団に反対するのは当然といったところだろう。
何の地位もないところから実力一本でここまで上り詰めた彼女が、コネだけで魔法師団に押し込まれる人間のことを好きな訳もない。
「ふむ……なぜだね?」
「魔法師団への入団は、倍率1000倍を超える難関です。入団したいのであれば、正規の試験を受けるべきでしょう」
彼女の言っていることはもっともだな。
こんな裏口入団みたいな方法は、たとえ団長が納得するとしても、他のメンバーが納得しないだろう。
「それに……彼はどう見ても、ただ魔力がないだけです」
ああ、言ってしまった。
魔法師団長に恥をかかせることになるから、言わなかったのに。
「……そうなのか?」
「はい。実はそうです……」
「ふむ……」
師団長は俺を、しげしげと観察する。
よく観察すれば、俺が魔力を隠している訳ではないということは、簡単にわかるだろう。
「まあいいか。とりあえず試験をしよう」
「話、聞いてました……?」
「でもほら、ルインズ様が『あいつならどんな試験でも大丈夫だ』って言ってたから」
魔力がない者に、魔法師団員が務まるわけもない。
当然、他の団員達だってそう思うだろう。
そう思っていないのは、団長だけのようだ。
どうやら、父に何か嘘を吹き込まれたらしい。
などと考えていると、団長がミアのほうを向いた。
「君、ネイトン君の入団には反対なんだよね?」
「はい」
「じゃあ君、ネイトン君と戦ってみて。君が勝ったら、入団の話はナシにしよう」
……どうやら、俺が試験に受かる確率はゼロになったようだ。
魔法師団の主力……炎獄のミアと、魔力すら持っていない、戦闘経験もロクにない一般人。
勝負になるわけもない。
「魔力すら持たない一般人を相手に、魔法を使えと……?」
「そうだ。……言っておくけど、本気で殺すつもりでやってね。これは命令だ」
団長はフランクな口調で、俺に死刑を宣告した。
魔法師団長に逆らうつもりはなかったが……流石に命まで取られるとなれば話は別だ。
炎獄のミアの魔法をモロに喰らえば、俺に待つ未来は、死以外にないだろう。
「あの……試験を辞退させていただいても……? まだ死にたくはないので……」
「大丈夫だ。最悪の場合でも命は助かるようにするから」
……それ、命以外は助からないって言ってない……?
そう疑問を覚えつつも、魔法師団長にこれ以上言い返すような度胸もなく、俺は訓練場の真ん中へと引っ張られていった。
次の更新予定
魔力ゼロの最強賢者 進行諸島 @shinkoshoto
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