第7話 十字路の出逢い
夏休みに入ると俺はよく引き篭もった。
高校に入学して、最初は順調に、平凡なスクールライフを送っていた。新しい友達に、新しい先生、自分の人生はここからだと、そう言い聞かせた。すべてうまくいくはずだった。しかし、それまで上手くいっていなかった奴が、急に上手くいくことなんてない。
2年に上がった時、俺の周りに友人と呼べる奴はいなかった。
ある日恋をした。だがそれも上手くいかなかった。俺は逃げた。ゲームやアニメ、それからゲームに。
俺は不登校になり、引き篭もるようになった。
でも、それも中途半端だった。不登校になっても、引き篭もっても何も変わらないことは、分かっていたから。別にその状況を変えたかったわけじゃない。
学生だから学校に行った。行きたくないから休むこともした。休みに入ると引き篭もり、休みが終わるとまた学校に行く。そんな意志も何もない中途半端な毎日を送った。
俺は何者にもなれない。
――このファンタジーのない、世界では
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俺は結城が隠れている牛丼屋に歩いて向かっていた。今回は物資も武器も少ししか持ってきていない。徒歩である以上、「身動き」のできる分しか持っていけない。
普段なら車で20分程度で着く距離だが、この混乱した人込みの中、車でスムーズに行けるとは思えない、おそらく大通りも込み合っているに違いないだろう。
常に周りを警戒しながら、バットを握りしめ、俺はただ歩いた。
この公園ではよく遊んだ。小学生のころあの滑り台から落ちたことがある。このパン屋さんには中学生のころ通った。このラーメン屋さんには高校生の頃通った。
懐かしさは痛みと同じだ。俺にとっては・・・
大通りに差し掛かった時、俺は唖然とした。
道路には乗り捨てられた車が遠くの方まで続いていたからだ。
死体と臭い。あたりを見渡す限り、生きている人は一人もいない。ただ車のクラクションが鳴り響いているだけ。道路に並ぶ車の中に何か使えそうな物はないかと探索をしつつ、あたりを見ていると・・・遠くにゾンビの群れを見つけた。
ゾンビはすぐ近くに迫っていた。俺は陰に隠れながら車の間を通り抜け、ゾンビたちをやり過ごそうとした。息を殺し、少しずつ。
しかし、十字路に差し掛かった時、それを左右する状況に巻き込まれた。
十字路の真ん中で4方向から来た車が交差し、乗り捨てられている。
その上に・・・3人。あたりをゾンビに囲まれて、身動きがとれないのだろう。
一人で結城のところまで行くには、元々無理があった。車が使えない中、徒歩で向かうしかない時点で、この救出はおそらく無謀に近い。結城から事情を聞いた時点でそれに気付けなかったのは、俺がこの状況を理解できているようで、まったく理解できていなかったからだろう。
このアウトブレイクはいつから始まったのだろうか?
この数のゾンビに囲まれては、対処が難しい。道中、救出に手を貸してくれそうな人がいれば、助けを求めることも考えていた。
しかし・・・この出会い方は予想外だ
これは助けられない。
俺はゾンビに気づかれないよう、車の陰に隠れながら、再びやり過ごそうとした。
「おーい!そこの人!助けてくれないかあぁ!」
ゾンビ以外にも気を使うべきだった。あそこからだと俺は丸見えのようだった。
俺は車の陰に隠れた。
この状況をどうする?
別に助けなくてもいい。自分の身を危険に晒すことは間違いないのだから。
「何か持ってないか?なんでもいい」
何か?・・・
俺はリュックから包丁を取り出し、それを彼らに見せた。
「分かった!それでいい、頼む」
俺はゾンビに気づかれないように、車の屋根に上り、ゆっくりと隣の車へ、また隣の車へと乗り移りながら彼らに近づいた。
まだ少し距離はあるが、これ以上はゾンビに気づかれる。まずは彼らに武器を渡さなければ――
俺は彼らに再び包丁を見せ、それを彼らの2つ隣の車両に投げた。
ボンッ!
包丁は車の窓ガラスに当たり、車の横に落ちた。
「ありがとう」
しかしあれではゾンビが邪魔で取れないだろう。どうすればいい・・・
せめて何かガラス瓶か石でもあれば・・・俺はあたりを探した。
花壇が見える。俺は車の上から降りた。そして静かに花壇に近づき、石がないか探すが・・・・ここには土しかない。
彼らの方を見ると、落ちた包丁をどうにか取ろうとしている。俺はバットを掲げ、彼らに振った。少し待つように伝えたかったが、おそらく伝わっていないだろう。早く何か見つけなければ。
すると車の中に、お酒の入ったビニール袋を見つけた。おそらくこの車の持ち主は、酒を買いに行った帰りに、この事件に巻き込まれたのだろう。ビニール袋の中にはビール、それからワインが見える。
(これなら使える)
早くしないと彼らがあぶない。
仕方ない・・・
――ガンッ!ガンッ!
俺はバットで車の窓ガラスを叩いた。しかし映画のようにはいかないものだ。なかなか割れない。
――バリンッ!
どうやらコツがあるらしい。
――ゾンビが音に気づいた。俺は割れた窓から手を伸ばし、カギを開けドアを開けた。
そしてワインを取り出した。
(これならいける)
俺は再び車の屋根に上り、ワインを彼らに見えるように掲げた。
「・・・分かった。頼む。おい!冬也。彼が何かするみたいだ。少し待ってくれ。」
俺はさっきいた場所まで近づき、包丁から少し離れた別方向にワインを投げた。
――パリンッ!
何匹か包丁から気がそれた。
「今だ!包丁を取って!」
俺の合図と共に、先ほど冬也と呼ばれた男性が包丁に手を伸ばし取った。
俺は音につられてきた足元のゾンビをバットで薙ぎ払いつつ、彼らのいる車両へと近づいた。
「君!助けてくれるのはありがたいが、この状況どうする?」
「ゾンビは4方向から来てます。とりあえずそっち側のゾンビを一掃して、逃げ道を作りましょう」
「分かった!冬也!こっち側のゾンビをやるぞ」
彼らのいる車両にたどり着いた。3人の内一人は女性で、怯えている。あとの2人は男性で、どちらも俺より年上に見えるが、年はそう離れていないだろう。
「こっちは俺がやるんで、お二人はそっちをお願いします」
「分かった!」
――バシュッ!ドシュッ!
1匹・・・2匹・・3匹・・この距離なら下手をしたい限り、噛まれることも爪でひっかかれることもない。なんとかなりそうだ。一人は包丁、もう一人はレンチ。2人は大丈夫そうだ。というより彼らは少し慣れているように見える。
ただ女性の方は怯えて身動き一つできないみたいだ。
俺も正直、興奮しているのか、怖いのか分からない。
「おい村田こっち頼む!」
やはりこの世界で1人は厳しい。映画でもそうだ。1人で行動する奴は大抵最後に孤独に死んでいく。複数なら役割分担が出来る。
「みなさん!そこのゾンビを仕留めたら、そこから降りて真っ直ぐ走ってください」
「君はどうするんだ?」
「すぐ後を追います!俺はやることがあるので、皆さんは振り向かずに真っ直ぐ走ってください」
いつか言ってみたかった。3人は目の前のゾンビを仕留めると、「あの建物を通り過ぎた所で待ってる」と言い残し、先に行った。
――バシュッ!ドシュッ!
(よし 終わった)
俺は逃げ道のゾンビを一掃し、カバンの中から爆竹を取り出した。ゾンビに囲まれた時のために持ってきておいたものだ。高校生の頃、若気の至りで買ったものだが、まだ使えるだろうか。
――ボシュッ!
火はついた。俺は後ろのゾンビが群がる方へと爆竹を投げた。そして車から降り、彼らの待つ場所へと向かった。
――バンッ!バンッ!バンッバンッバンッ!
「お待たせしました」
「大丈夫だったか?何をしてたんだ?すごい音がしたが」
「大丈夫です。残りの3方向にいるゾンビの気を引くために爆竹を仕掛けてきました。あれで、しばらくは大丈夫だと思います。距離もありますし」
「そうか――それより、ありがとう。助かったよ、囲まれた時は自分の命を諦めかけた。もうここまでかと・・ああ、そういえばまだ名前を言ってなかったな、俺は村田だ。よろしく」
「俺は冬也だ。さっきは助かった。ああ、この包丁は返しとくぞ。ありがとな」
「私も・・・ありがとう。まだ少し・・・怖いけど・・・あ、私は結衣」
正直、あの道具もない中でこれだけの結果を出せたことは、運が良かったとしか言いようがない。車の壁がゾンビを分けてくれて助かった。2人は大丈夫そうだが、この・・・結衣さん?は大丈夫だろうか。
「俺は田辺です。さっきはなんであんな所にいたんですか?」
「結衣は俺の妹で、この冬也はまぁ腐れ縁だ。俺たちはこうなる前から異常に気づいてた。まぁそれは俺たちだけじゃなかったみたいだけど」
村田さんは俺を意味ありげに見てそういった。
「俺が奴らにあったのは2日前の夜です。」
「俺たちは昨日だ。だけど気づくのが遅すぎた。今日は色々と食べ物やなんやらを買いに行くつもりだった。3人でな。それがこのありさまだ。武器は持ってたが、俺は逃げる時に落としちまって、こいつは嫌がって持たねぇ。村田だけが武器を持ってたが、1人だけじゃ、あの数は相手できねぇ。そこにお前が現れたってわけだ。まったく・・助かったぜ」
なるほど。この人たちが何故あんなところにいたのか分かった。
俺以外に気づいている人がいてもおかしくない。俺が知らないだけで何日も何か月も前から事件は起きていたのだから。
「田辺くんは何であんな所にいたんだ?みんな避難所に向かったはずだと思っていたが」
「俺は・・・その話をする前にみなさんはこれからどうされるのか聞いてもいいですか?」
「俺たちか?俺たちはこれから、この先のショッピングセンターに行って食いもんやら武器やらを漁りに行くんだよ。この先に備えてな、ついでによさそうな車を盗む。こんな世の中じゃ捕まることなんてないだろうしな」
「それで、田辺くんは?――もし行き先が決まってないなら、君も来るかい?」
「そうしなよ・・・一緒にいた方が・・・心強いし」
こんなかわいい子に言われると、断りにくいが・・・
「実は、この先にある駅前の牛丼屋に友人がいて、俺はそいつを助けるためにここまで来たんです。おそらく店内にはゾンビが入り込んでて、その友人もいつまで持つか分かりません」
「なるほど・・・」
村田さんは顎を触りながら何か考えているようだ。
「つまり、俺たちにもそれを手伝ってほしいわけかー?」
「無理にとは言いません。人助けは自分を守るより危険ですから・・」
「言うね~俺たちを助けておいて、断ったら俺たちは人としてどうなのかね?なぁ村田?」
冬也さんは少しニヤニヤしながら村田さんの方を向いた。
「仕方ない――助けられておいて、何もしないわけにはいかない。だがその前に車を調達しよう」
「だな。予定じゃあショッピングセンターの駐車場で探すつもりだったが、とりあえずそのあたりの車でいいだろう。あれでどうだ?」
そういいながら冬也さんは道路の隅に止めてあった車を指差した。
結城の待つ場所へと向かう車の中で色々な話をした。冬也さんは車の整備士をしていて、カギがなくても車を動かせるらしい。冬也さんは外見からなんとなく分かってたが、村田さんまで元ヤンだとは思わなかった。
結衣さんは乗り気ではないように見えた。それもそうだ、自分から危険だと分かっている場所に普通は行かない。話の流れで彼女が俺と同い年であることを知った時は少し驚いたが、うれしくもあった。
もうすぐ目的地に着く――結城がまだ生きていればいいが。
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