第8話 生きたくない
結城と電話で話した時から3時間は経っただろう。ようやく着いた。村田さんたちに会ってなかったらもっとかかってただろう。渋滞した車が邪魔をして通れないため、車は近くに止め、あとは徒歩で行くことになった。
「よし。みんな準備はいいか?車の中で話したとおり、俺が先頭で、冬也、結衣、田辺くんの順番で進む。場所はあの牛丼屋で間違いないかい?田辺くん」
「はい。あれで間違いないと思います。」
「ところでその結城って奴は何があって牛丼屋なんかに逃げ込んだんだ?俺ならその向かいにあるコンビニに逃げ込むけどなぁ」
同感だ。焦って判断を誤ったか、逃げる場所を選べないほどの状況だったか。分からないが、何が起こっても不思議じゃない。すぐに対応できるように警戒しておこう。
「彼はゾンビから逃げていたと言っていました。おそらく焦っていたんだと思います。」
「それでそいつはどこに隠れたって?」
店の前に着いた。昨日初めて話した知り合いだとしても、これはあまり言いたくなかった。
「トイレです。彼はトイレに隠れてると言ってました」
「なるほど・・・」
「ヒャッハッハッハー!トイレ?なるほどな、さっきお前が直ぐに言わなかったわけが分かったぜ」
「俺だって言いたくなかったですよ。自分ならもっとマシな場所に隠れますし」
そこまで笑うほどのことでもないと思ったが、冬也さんはツボにはまったらしい。
「笑い過ぎよ。冬也」
「ハッハッハー悪い悪い。あんまり面白いんでついな」
「話はもういい。中に入ろう。物音はたてないようにな」
俺たちは中に入った。1匹・・・3匹。店内には3匹いる。入ってすぐカウンターの陰に隠れた。
「手前は俺がやる。あれは冬也。あっちは田辺くんが頼む。結衣はここで隠れて待ってろ」
「うん」
「結衣さん。念のためこの包丁持っておいてください。2本持ってきてたので」
「うん、分かった・・ありがとう」
まず村田さんがすぐ近くのゾンビの頭部をレンチで潰した。するとそれに気付いた奥のゾンビ2匹がこちらに気づいて、ゆっくりと近づいてくる。
「よし。冬也!田辺くん!」
「任せとけ!」
「はい!」
声が響かないよう静かに合図をやり取りし、冬也さんがまず、近づいてくるゾンビの頭を包丁で刺した。それを確認した後その横を通り、俺はバットでゾンビの頭を殴り潰した。
――グシャッ!
「よし。――終わったな」
「このくらい楽勝だなぁ」
「念のため奥の厨房も確認してきます」
厨房はフロアからほとんど丸見えだが、念のため確認しておいた方がいい。俺はバットを構えながら、厨房に入った。
ゾンビもいないし、特に問題はない。
と、俺は裏口が開いていることに気づいた。店に入る前に周りを確認すべきだった。今回は良かったが、これが大惨事につながる場合もある。
俺は裏口をゆっくり開け、外を確認した。
(特に問題はないか・・・)
裏口を閉めようとした時、足元に携帯を見つけた。
その携帯にはなんとなく見覚えがあった。というよりこの場合は勘が働いたという方が正しいか。最近は携帯なんて皆同じだ。俺が言いたいのはそういうことじゃない。
「村田さん!こっちは大丈夫です。それと、おそらくそこのトイレに結城がいると思うんですけど、いますか?」
「分かった。確かめよう」
「そうだったそうだった!お~い結城いるか~田辺が助けにきたぞ~」
ヘラヘラしながら冬也さんはトイレに向かって叫んだ。が、応答がない。
3時間トイレにいただけで衰弱するはずもない。
「冬也さん。大丈夫です。開けてください、おそらく鍵は開いてます。」
俺の言葉を不思議そうに聞きながら、冬也さんがトイレのドアを開けた。
結城がいない。
「これは・・・どういうことだ?田辺くん」
「すいません。みなさん。この携帯が裏口の外に落ちてました。一足遅かったみたいです。」
それを聞いて、冬也さんは椅子に座りぐったりしている。
「んだよぉ~無駄足だったってことかよ~田辺。お前の友達はどうなってんだよ。こんな所まで呼んどいてよ~」
言葉もない。命がけでここまでこさせておいて、これはない。
「はぁ~。いや、謝る必要はない。君を手伝うことに意味があったんだ。それよりも、その携帯が君の言う結城君の物だとすると、彼はどこにいったんだ?」
結城が言った場所には心当たりがあった。あいつは避難所に向かうと最初行っていた。
おそらくそこだろう。
「多分、避難所だと思います。彼はそこに行くつもりでした」
「なるほど・・・俺たちはこれからショッピングセンターに行くつもりだが、田辺くん、君はどうする?俺たちと来るか?」
「まさかそいつを追って避難所に行くとか言い出さねえよなぁ?」
今は午後3時。まだ時間はある。
近くに高校がある。俺の母校だ。携帯で調べると、このあたりの避難場所はそこになっているらしい。ここから徒歩で30分程度の距離だ。
この人たちといれば安全だろう。俺がいくつか予想しているこの先の問題もこの人たちと一緒にいれば乗り越えられるかもしれない。
ただ・・・
「この近くに高校があるんですが、そこが避難場所になってるらしいです。歩いて行ける距離なので、俺はこれからそこに向かうつもりです。みなさんの助けがなければこんなに早くここまで来られませんでした。感謝してます。それから無駄なことにつき合わせてしまって、すいませんでした」
「お人好しな野郎だなぁ、まあいい勝手にしろ。助けてくれたことには感謝する。ありがとな」
「ありがとう。あ、それとこれ、返しとくね」
それは俺がさっき結衣さんに渡した包丁だった。
「それは結衣さんが持っておいてください。この先何があるか分かりませんから。冬也さんもそれはあげますので」
「そういえば借りてたんだったな。おう、そう言うなら貰っとくぞ。ありがとな」
「言いたいことはあるが・・・気をつけてな。俺の連絡先を教えとく何かあったら連絡してくれ」
「はい。ありがとうございます」
俺たちは店を出た。
遠くでは煙と火の手が上がっている。あそこのコンビニは高校生のころよく寄ったなぁ。そんなことを思い出しながら、俺は見送りのため3人が車に乗るのを待っていた。2人が車に乗った後、結衣さんが俺のところに来た。
「これ、私の連絡先。それと同い年なんだから敬語じゃなくていいよ」
結衣さんは連絡先の書かれたメモを俺に渡し。
一瞬、橋本さんの顔を思い出した。彼女が俺の名前を呼んだ。あの時の顔が・・・
「うん、ありがとう。また」
「――気をつけてね」
俺は車を見送った後、避難所へと歩き出した。
車が出る時、冬也さんが窓を開けて「結衣に会いたくなったら、いつでも連絡しろよ」と、ニヤニヤしながら言ってきた時はハッとした。色々あったがいい人たちだったなぁ。
結衣さんは村田さんの妹とは思えないほど、かわいらしい、優しい人だった。
別に会いたくないわけじゃない・・・
橋本さんは死んだ。俺が殺した。俺のせいだ。
前に目を向けなければ前に進むことはできない。しかし後ろを振り返ることも必要だ。忘れないために。でなければ俺はまた誰かを殺してしまう。
俺は今何のために生きているんだろうか?
この状況は俺が望んだとおりのものだ。でも、世界がこれまでどおりでも、今のようでも、何も変わらない。俺自身は。
俺は生きたくなかった。
生まれたことも後悔した。
今もそうだ。今も生きたくない。後ろは見えても、先は見えない。
その見えない「先」をファンタジーに求めた。ファンタジーが教えてくれる気がしたから。
そして何も分からなかった。
俺は何故、結城を探しているのか?何故助けようとしているのか?
それは彼が助けを求めたからだ。
――また助けられなかった
頭の中で誰かが俺に言う。お前はまた助けられないと。
橋本さんの時のように・・・
俺はまた、意志のない道を歩いてる。
――もう生きたくない
避難所に着いた時、俺はここに来たことが間違いだったと知った。
校門の周りに、広がる血と死体。それは道路にまで溢れている。門の傍からグラウンドに、遠目でも分かるほど赤い血の付いたテントが見えた。そして、グラウンドの土を踏みしめた時、ここはもう避難場所ではないことを知った。
見渡す限り、食い荒らされた死体とゾンビで溢れている。
ここは墓場だ。
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