父は気まずそうに吾らから視線を移し、妖しに話しかけた。

「すまない、遅くなってしまった。鎌鼬、貴方達へのお代の話だが」

「衣食住って言ったね」

「ああ、ただ、もしこちらの条件に応じてもらえるのならば、だ。応じてもらえなくても、食料を望むだけ渡すよ」

「うん? 条件だあ? まだ何かあるのかい」

「ああ、正直飲んでくれれば、こちらはかなり助かる」

「あたしは器が広いからね、言ってみな。場合によっては切り刻むがね」

「分かった。単刀直入に言おう。君たちにはその戦闘力を貸して欲しい。これは君達の働き方と人柄……妖柄をみた上での判断だ。この子達だけは、どうしても守らなければならなくてね」

 そう聞いた途端、危うく声を出すところだった。実際、当の妖達も驚いている。聞き違いか。

「は、此処の警護をしろってことかい」

「ああ」

 聞き違いではないのか。しかし、人の子の守をわざわざ妖しに頼むのか。そうまでする必要があるのか。

 その疑問に到達したところで、さっき兄が語った、夢での出来事を思い出した。あれが本当なら、吾は儀を受けた子の一人だ。つまり、吾らが死ねば、災厄を防げない。……いや、だからといって、妖しを守りにつける必要があるのか。

「正気か、あんた。此処は神社だろ。あたしらみたいな妖しが棲みついていい場所ではない。現に今も、神域の結界のせいで無力化されてるんだ」

「それは解っている。ただ、私は神職じゃない、鬼術師だ。今君たちに施しているように、私達鬼術師には、神域結界の干渉を弱める符もある。それに、実はこの神社の近くに、社家とは別の、私達鬼術師の家があってね。そこに二人を住まわせようと思っているんだ。もし君たちが協力してくれるなら、部屋を貸そう。狭いなら増築すれば良い。勿論、食事も、その他に必要なものも、ある程度は用意できる」

「はあ。うーん……、ちょいと待ってな」

 そう言うと彼女は年下の二人を連れて、境内から出て行った。暫くして戻ってくると、初めて長男が口を開いた。優しそうなおものその口から発されたのは、温かみのある、しっかりとした声だった。

「質問があります」

「なんだろう」

「戦闘力、と貴方は言いましたが、それはどの範囲までのことを言っているのか。人との争い、妖の争い、またそれ以外の争いのどれなのか。先に言っておきますが、僕らは基本、戦うこと以外はできませんよ」

「なら、君達が得意なことを聞いておこうか」

 次は末っ子が口を開いた。愛嬌ある顔に似つかわしい、ハキハキした声だ。

「わたしたちには、それぞれに特徴があるの。姉はわたしたちの中で一番強いわ。多分、他の妖しと比べても、強い。兄は策謀家というか、頭を使うことのほうが得意で、戦闘力は一番ない。わたしは治療役。薬の知識があって、それを応用して毒を作ることもできる。戦闘力は普通。わたしたちは、日の属性を持つ妖しで……」

「おいおい、言い過ぎだ。まだ交渉成立してないんだから、余計なことは言わなくていいよ」

 最後に牽制した長姉の声は警戒と責任感に満ちていた。それぞれがそれぞれを思い合っている、仲の良い姉弟達だ。ところで、日の属性? 後で聞こう。

「成る程、君たちは三人揃うことで中道を保っているんだね。で、質問の応えとしては、基本は物怪もののけとの戦いだ。だけど、最後には恐らく――」

 三人の、いや、その場にいた全員の顔色が変わった。

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