ざわめき

 吾が白湯を持って部屋に戻ると、あの男の子は何処か身構えた様子で吠え立てていた。父がそれをなだめ、吾が白湯を渡すと少し表情が和らいだ。その子は一口飲んでから、ありがとう、と微笑んでくれた。その動作はぎこちなかった。

「まずは、君から話をしてもらおうか。軽くで良いよ。特に、あちらの三人組についてだ」

 そう言って父は静かな目を、人の形をした三人に向けた。彼は筆を辿々しく操った。

『とてもこわいゆめをみた――』

 彼が書いた字を父が読み上げて、吾らに聞かせた。吾が予想だにしなかった、酷い話。彼は端的に記したようだが、それでも時間はかかった。

『――これが、ゆめでみたこと。われだけでは、なにもできないとわかつた。だから、ひとよりつよいものをさがした――』

 耳で音を聞いている間、目では白い光を眺めていた。

 吾と同じ歳。ほぼ同じ背丈。似た色の肌と髪。姿はほとんど変わらないのに、中身が、吾と全然違う。この子、どうしてこんなにも平然としているのだろう。吾が同じ立場だったら、とても耐えられないのに。

『――そのさんにんをみつけた。やくそくをして、きょうりょくしてもらつた。さんにんは、かまいたちという、あやし』

「なるほど。君が見た夢は恐らく『虫の知らせ』だろうね」

 そう言う父の顔は、何処か暗かった。

「ところでその約束はどうなったのかな」

「まだお代をもらってないよ」

 音を発したのは、今まで大人しくしていた妖し、かまいたちの三人の内、年長者らしき女の人。気の強そうな声だった。目を男の子に戻すと、俯いた顔がこわばっている。

「ふむ。元々どのような約束だったのかな」

 例の子が身体まで強張らせた。ふるふると震えるその様が、貧相な身体のせいか、生まれたての犬を思わせる。

 いや、死にかけの狼と例えるべきだな。

 よく観察すると、顔は俯いたまま、白髪の奥の暗い瞳で、じっとりと妖しの方を睨めつけている。彼の顔色も相まって、妖しよりも恐ろしい何かに見えた。

「あたしらはその子の要件で、あんたらを窮地から救うこと。その代わり、その子はあたしらに食料を提供する」

 今度は、ぎゅっと握ったその手が震えている。警戒と、怒りと、衝動か。一体何を恐れているんだろう。

「なるほど。では、それは私の方で提供しよう。衣食住の全てをね。それから、星の」

 びくっと身体が動いて、父の方を見ている。それを見ると此方が苦しくなるほど、その子は父を、吾らのことを恐れているらしい。

「もう二度と、そのような約束をしないように。いいね」

 こくりと頷いてもなお、彼の目には痛々しいほどの恐怖と疑念があった。名前も、どんな人かも知らないのに、何故か、彼を守りたいと思った。

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