第5話 今起きている異変 ~肆~

 三班は、対異世界人用の戦闘機乗りたちだ。

戦闘のみならず、

数多のセンサーを搭載した特殊な飛行機を乗りこなす。

 一組三人、三チームの合計九人が在籍している。

全員エリートパイロットだ。


「こちら、ブラボー。

異常なし」

「こちら、チャーリー。

同じく異常なし」

「こちら、アルファ。

同じく。

 頼むぞ、ヒロセ。

お前の真骨頂だ」


 上空の三機の戦闘機が、

パフォーマーの目撃証言がない、

例の山の近くの町を探索する。

 そして、地上では一班が私服を着て潜入捜査を始めていた。

いつもの小豆色の戦闘服では目立つため、

一班の皆は各々の私物と私服姿なのだが。


「シマザキ、

もっとおとなしい色味の服はないのか?」

「リーダー。

人の私服にケチつけるなら、

経費で服を用意してくださいよ」

「そうだけどさぁ……」


 パッションピンクとエメラルドグリーンの迷彩柄のパーカーを着たシマザキが、

リーダーに食って掛かる。

彼の小太りの体型もあいまって、

縁日の水風船のようだ。


「そもそも潜入『捜査』なんだから、

それ用に衣装とか用意すべきだと思いますね」

「俺もそれに同意します。

コイツの隣は、辛い……」


 サワダが死んだ魚のような目で同意した。

シマザキのペアはいつもサワダだからだ。


「リーダー。

キャップも聞いてますよね。

小劇場の劇団程数は必要ではないにせよ、

それなりに衣装とか用意すべきだと思いますよ」

「はいはい。

考えとくから、

今は捜査に集中してね。

 ヒロセ君とセキグチ君は、

どうですか?」


 キャップは苦笑いしながら、

話題を他の二人にふる。


「こちら、ヒロセ。

異常なし。

パフォーマーの姿も見当たりません」

「こちら、セキグチ。

同じく。

なんなら、週末の午後とは思えないくらい、

出歩く人が少ない気がしますね」


 セキグチはヒロセと向かい合ってカフェのテーブルについている。


「これがデートなら良かったんだけど」

「お仕事、お仕事。

まぁ、マコトくんが病院に行かなかったら、

先月はこうしてられたんだよ?」

「すまない……。

怪我の経過観察だって、

急に呼び出されてさ」

「それについては、

呼び出した僕からも謝罪します」


 キャップがすまなさそうに無線越しに謝罪した。


「お詫びといいますか。

なにも起きなければ、

そのままデートしてくれても良いですよ」

「無線越しにみんな見てるじゃないですか。

却下します」


 セキグチは苦笑しながらキャップに返した。

無線越しにみんなが笑う。


「……!

おい。

あれ見てくれ」


 ヒロセが顎で指す方を自然に見るセキグチ。

そこにはピエロの集団が現れた。

人数は五人。

本当に唐突に現れた。

 周囲がざわつく中、

パフォーマンスが始まる。

簡単なボールのお手玉。

二本の棒の間に張られた縄で、

大きなコマのようなものを回すディアブロ。

シガーボックスや、玉乗りが繰り広げられる。

どれもかなりの技術で、

あっという間に人だかりができた。

 ヒロセたちは自然に一番前に陣取って、

そのパフォーマンスを観る。

シマザキたちは少し離れたところの人だかりの真ん中付近。

 無線でそれを聞いた戦闘機たちは、

現場の上空に向かって舵を切った。


「あれか」


 五人のピエロのうち、

シルクハットとマントをつけたのが前に出た。

そして、周囲に日本の手品といえばこれ、と言う曲が流れ出す。


「なんとかの首飾り、だったっけ」


 セキグチが苦笑いしながら呟いた。

その曲はどこからか流れてきている。

周囲にスピーカーのような音源になるものは見当たらない。


「三班、上空に到着」

「了解。

みんな、うまくヒロセが手品の標的になるようにしてくれ。

もし、無関係な観客が選ばれたとしても、

選ばれた人に発信器を付けてくれ」


 作戦は、単純。

発信器を身体中に仕込んだヒロセが消失トリックの手品に呼ばれ、

他の行方不明者と同じルートで姿を消す。

ヒロセの発信器の信号をたどって三班が戦闘機で現場に急行し、

居場所を大まかに絞る。

二班と一班で協力して絞った範囲を重点的に調べて、

場所を特定。

 併せて、潜入したヒロセが内部から他の被害者を保護し、

可能なら脱出。


「行方不明者の共通点はない。

どういう基準で選ばれたのか分からないが、

健康であることは前提だと思われる」


 ミズノの言う通り、

行方不明者たちは年齢も性別も、

出身も何も共通点がない。

健康だったと言うのも、証言のわずかな情報でしかない。

だが、彼らはそれに賭ける。


「セキグチは手首に包帯を巻いている。

サワダは手の甲。

シマザキは、まぁ、そのままで」

「リーダー、失礼な。

この体型は俺のベストです。

俺の体脂肪率は十五パーセントですよ?」

「適正体重よりはオーバーしてるんじゃないか?」

「あんなの目安です」


 とにかく、ヒロセが健康であることを強調できるよう、

他の隊員は包帯を巻いたり絆創膏を付けたりと工夫をしていた。

周囲の観客はざっと四十人くらい。

 手品は続く。

その手際は見事の一言だ。

観客は大盛り上がりを見せる。


「そろそろか?

総員、油断するな」


 無線越しにミズノが指示を出す。

すると、マントのピエロがヒロセのことを指差した。


「俺か?」


 見事にヒロセはピエロに選ばれた。

ヒロセは二人のピエロに手をひかれて、

マントのピエロの元へ歩いていく。

 マントのピエロは大きくお辞儀をして、

手にもった大きな布をピエロ二人に手渡した。

ピエロ二人はそれの両端を持ち、

広げて観客に裏も表も何もないことを見せる。

 前列のお客には、

布を触らせて普通の布であることを確認させた。

セキグチもそれに紛れて布に触る。


「何の変哲もない布……、かな」


 セキグチは無線の向こうにも聞こえるように、

大きめの独り言を言う。

 そして、ピエロ二人はヒロセの周りを囲むようにして、

布で彼の姿を覆った。

あの曲が止まって、ドラムロールに変わる。

いよいよ始まるらしい。

 ヒロセは背が高いため、

ピエロ二人は背伸びして両手を目一杯伸ばしている。

マントのピエロは大袈裟に両手を振って、

指を三本立ててカウントを始めた。


「スリー!」


 盛り上がっている観客はその指の数、

声を出してカウントを始める。


「ツー!」


 一班は揺れる布を注視しながらも、

周りに何か変化がないか確認した。

三班はその上空に円を描くように飛び、

各種センサーをフル稼働させる。

二班は事前に協力を仰いだ周囲の店の監視カメラなどを手分けして見つめる。


「ワン!」


 そして、ピエロは布を手放し地面に落ちた。

布の向こうにヒロセはいなかった。

 観客は拍手喝采。

無数のおひねりが飛ぶ。

それらを拾ったピエロたちは、

大きくお辞儀をして姿を消した。

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昭和のヒーローは、誰にも知られず引退する 桃野産毛 @peachfuzz

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