第9話
悪い予感ほど当たるものはない。
鈴の髪飾りが、鈴本人の意思とは無関係に鳴り響く。まるでそれは、御主人様を必死で守ろうとする愛犬のような音だった。
「きひひひひひひ!じゃあ、契約完了!」
凪と名乗るその男は、いきなり鈴の右手首を掴み、ぐいっと引っ張り上げた。
その顔は、本当に楽しそうだった。そう、悪魔のような笑顔だった。
「やめろ!」栞が叫び、凪の手を掴み鈴を守ろうとする。
「んー、聞いてましたか?これは縁結びの契約だって、そうだなあ・・・。
“栞くん、ちょっと待ってなさい”」
「!!」
凪の声が、何重にも響いたように聴こえる。
栞の体は、見えないなにかで縛り付けられた!絶対的な神の強制力。全身が逆らえないでいる。
自分はなにをされたのか、理解しようと考えはじめた瞬間、頭が締め付けられ脳が理解を拒む。
「きひひ、いい子ですね。さて、鈴ちゃん?契約の印、ちょっと熱いですよ?我慢して・・・」
男は、アイロンを押し当てるように鈴の右腕をなぞるように、手を滑らせた。
凪の指先が鈴の腕に触れた瞬間、
世界が一拍だけ静かになった。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!」
その熱さに、鈴は思わず悲鳴を上げた。
しかし、凪は丁寧にアイロンがけをするように、鼻歌混じりでなお滑らせる。
自分を好いてくれる人の悲鳴に、すぐさま栞は叫んだ。
「鈴ちゃん!!」
「おや、やはり喋れますか・・・すごい子ですね、褒めて差し上げましょう。栞くん?」
さほど気にも止めず、丁寧になぞりおわらせる凪。
「ふう・・・。うん!綺麗に書けました!鈴ちゃん!我慢できてえらいえらい!!きひ、きひひひひひひ!」
こんな縁結びのおまじないなど聞いたことがない。呪いのたぐいに違いないと栞は凪を睨みつけた。
「・・・う、うわああああああああああああああああああああああ!!!」
「おや、待てと言ったのに、その術も解けそうとはすごい子だ。
ふむ・・・、契約も終わりましたし、解放してあげましょう!」
パン!と凪は手を叩いた。
その瞬間。栞は地面にへたりこむ。立ち上がろうとするが、膝が、いや、全身がまだ縛られた感覚に襲われた。
凪は言った。
「まだ立てないうちに、お伝えしましょう。安心してください、凪くんが行ったのは間違いなく縁結びの契約です。ですが違うのは、そこら辺の低級神とは比べ物にない超協力な契約でしてね・・・。立ち上がったら印を冷やしてあげなさい。ほら、あそこに水道の蛇口があるでしょう。早くしないと、本当に死んでしまうかも・・・?きひ、きひひひひひひひ!!!」
くっ!
栞は凪を睨みつけるも、鈴のもとに駆け寄り水道まで運び、蛇口のバルブを開いた。
「鈴ちゃん!鈴ちゃん!!しっかりして!!鈴ちゃん!!!」
「きひ、きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」
意識が遠のく中、鈴は契約の印を見て、呟いた。
これは・・・数字?
視界が波打つ。
数字だけが、やけに鮮明だった。
神さまの婿 まにくま @manikuma
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