第2話 キッチンのマウント合戦
ご主人様が去ったあとのキッチンは、静か……ではなかった。
「さて、始めようか」
誰かが言った。フライパンだ。
妙に低い声。朝の“評論家モード”とは別人格である。
「まず言っとく。俺がいなきゃ朝食は成立しない。主食級だぞ」
電子レンジがすかさず噛みつく。
「は? 主食級? 僕が温めた牛乳が、ご主人様の健康を
支えてるんですけど?」
冷蔵庫が冷たく言う。
「その牛乳、どこで保管してると思ってるんです?
私がいなければ食料は乾物だらけです」
トースターが気品ぶって、焼き網を揺らす。
「私は“合わせ”ができる。パンは単体でも成立し、
なおかつ他の料理とも調和する。万能性で言えば私でしょう」
バターが、ふん、と鼻で笑った。
「結局さ、全部“俺が乗る前提”じゃん。俺がいなきゃ味が締まらない。
味の王。以上」
「味の王だって」
遠くで調味料たちがヤジを飛ばした。
醤油がすっと前に出る。
「はいはい、味の王(笑)。
じゃあ目玉焼きに何かけるか、今日こそ決着つけようか?」
ソースも負けていない。
「全国的支持率で言えば私だよね。酸味と甘みとコク。三拍子」
塩が短く言った。
「素材を生かす。最高!以上」
胡椒も応援
「そうだそうだ。俺は塩とセットで黄金比」
マヨネーズがぬるっと割り込む。
「争わないで。みんな私で丸くなるよ?」
「ならない」
四者が同時に言った。
「あのー、僕も混ぜてください」
と隅にいたケチャップ君が名乗る。
「場外!」
と、また四者の声が揃う。
その後、キッチンは戦場になった。
“かける派閥”ができ、派閥が派閥を煽り、無関係の皿がなぜか巻き込まれた。
「俺をわすれちゃあ困る。朝の出番は無かったが、
主役の座はいつだって俺だ」
と炊飯器君。
「いや、そもそも“目玉焼き”の定義からだ!」
と炊飯器君を無視してフライパンが言い出す。
「それ、卵焼きって呼ばれたら怒るやつ!」
電子レンジが指摘する。
「呼び方はどうでもいい。保存温度が大事」
冷蔵庫がマウントをずらす。
「だから俺を」
と炊飯器君が言うが、誰も気に留めない。
「論点が違う!味付けが命だ!」
ソースがキレる。
「論点? 私は“品格”で勝っている」
トースターがミディアムレア顔で言う。
「パンに品格言うなら、まず焦げを認めろ!」
塩が切る。
「みんな落ち着いて。私で——」
マヨが言いかけた瞬間、
「いや君、全部マヨに寄せるのは雑でしょ」
醤油が冷静に刺した。
「だから俺を・・・」と炊飯器君。
そのとき。
壁の片隅で、ずっと無言だった黒い箱が、低い声で言った。
「……全員、言い争う前に“電気代”の話をしようか」
配電盤だった。
いや、存在感が完全に“インフラ”の声だ。
「君たちは、僕が機嫌を損ねたら、全員ただの置物になる。理解してる?」
全員が震えた。
特に電子レンジ君はトースターの影に隠れた。
・・・隠れきれないが・・・
調味料たちだけが小声で言う。
「……あれ、誰?」
「初登場、強すぎない?」
配電盤は静かに告げた。
「明日の朝も、この家は回る。だから君たちも回れ。以上」
キッチンのマウント合戦は、今日も引き分けだった。
そして彼らはまだ知らない。
この家には、さらに“上”がいることを。
——配電盤の言う「回る」洗濯機である。
【目玉焼きに何をかけるか?】
※ キッコーマン調査(複数回答)
(https://www.kikkoman.com/jp/news/2024/24041.html)
1位 醤油 61%
2位 塩 43%
3位 胡椒 35%
4位 ソース 22%
5位 マヨネーズ 12%
6位 ケチャップ 12%
※ キューピー調査(複数回答)(https://otonanswer.jp/photo/140900/)
1位 醤油 59.4%
2位 塩 28.5%
3位 胡椒 21.4%
4位 ソース 15.7%
5位 マヨネーズ 8.8%
6位 ケチャップ 8.4%
※ ママスタ調査(https://select.mamastar.jp/1428919)
1位 醤油 52.3%
2位 塩 21.9%
3位 ソース 7.6%
4位 胡椒 4.7%
5位 マヨネーズ 3.5%
うちの家電がうるさい(エピソード抜粋版) 遠藤 世羅須 @Echoes711030
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