うちの家電がうるさい(エピソード抜粋版)

遠藤 世羅須

第1話 朝のおせっかい

社会人二年目のミキには、朝のルーティンがある。

まずは——卵焼き。

……じゃなくて、目玉焼き。


昔、母が朝食に出してくれたそれを、私は何の疑いもなく「卵焼き」と呼び、人生でトップクラスに叱られた。

「それは“目玉焼き”。卵焼きは巻くの。巻かないのは目玉焼き。以上」

卵を焼いてるじゃん、とは言えなかった。


だから私は、今でも目玉焼きを焼くたびに、心の中で訂正する。

——目玉焼き。目玉焼き。目玉焼き。


油をひいたフライパンに卵を落とす。

じゅっ、という音のあと、白身が一気に白くなって広がっていく。

火加減が難しい。時間も重要だ。焼きすぎると黄身が固くなる。

私は断固として半熟派。

黄身の周りがうっすら白くなり始めた瞬間が、人生のベストタイミングだ。

「……よし。今日も合格」


そのとき、背後から声がした。

「おはようございます、ご主人様。本日も良い焼き色でございますね」

振り返らなくても分かる。電子レンジ君だ。

朝から声がでかい。存在感が家電のそれじゃない。

「牛乳と一緒にハートも温めましょうか?」

「けっこうです」

「ですよねー。分かってましたー」

分かってるなら言うな。


フライパン君も、湯気越しに得意げだ。

「白身の端、焦がし気味。いいですね。焦げは旨味ですから」

「うん、ありがとう。でもその言い方、料理評論家やめて」


私が皿に移すと、冷蔵庫君が、扉の隙間から口を挟んでくる。

「開けるときは“3秒ルール”でお願いします」

「3秒じゃ出せない時もあるでしょ」

「それ以上開けると庫内温度が——」

「はいはい、分かった分かった」


最後はトースター君。

「本日のパンの焼き加減はいかがでしたでしょうか。

極上の焼き目をご用意いたしました。

本日は——ミディアムレアでございます」

「パンにミディアムレアってあるの?」

「気分です」

気分で言うな。


そこへバター君が、ひょいっとパンの上から割り込む。

「結局さ、味の決め手は俺なんだよね。トースターの焼き目? 

いや大事だけどさ。最後に勝つのは“香り”なんだよ。香り」

「はいはい。みんな今日も優秀。じゃ、いただきます」


私は朝食をかき込み、コーヒーを一口。

時計を見る。やばい、時間がない。

食器を洗って、身支度をして、玄関を飛び出す直前——

ふと思い出す。


(そういえば、目玉焼きに何かけるか問題。会社で割れたな……)

ソース派が言った。「目玉焼きにはソース。これ常識」

醤油派が言った。「いや醤油。米に合うのはこっち」

塩派の私は、静かに思った。「どれでも良いけど、正義面するな」

マヨネーズ派は・・・少数野党。

国民投票でもしてくれないかな。

そんなことを考えながら、私は家を出た。


しかし、キッチンでは、これからが本番だった。


【朝食のメニューは?】

FNNオンライン調査 (https://www.fnn.jp/articles/-/891108)

      1位 パン+卵+コーヒー ----49%

      2位 ごはん+味噌汁+卵+魚、漬物他---- 44.7%

      3位 ヨーグルト、果物、栄養食、無し他---- 少数


※本作ノイメージ置いてあります。

https://kakuyomu.jp/users/Echoes711030/news/822139843428962111

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