第2話 天然女神、最初の事故
天界の朝は、
静けさから始まる。
……はずだった。
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「ユーファ!
大変です!」
静寂を切り裂いたのは、
聞き慣れた声だった。
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「どうしましたか、
レーシャ」
ユーファは手を止めず、
情報板を確認したまま応じる。
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「転生処理、
終わったはずの魂が
戻ってきてます!」
「……戻ってきている?」
その瞬間、
ユーファの指が止まった。
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受付所の中央に、
不安げに揺れる光。
確かに、
昨日処理したはずの魂だった。
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「転生ログを確認します」
ユーファは素早く
記録を展開する。
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異世界・グランディア層
能力補正・知識強化
記憶制限・解除
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「……解除?」
ユーファは、
ゆっくりとレーシャを見た。
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「レーシャ。
記憶制限は
誰が設定しましたか」
「えっと……
わたしです!」
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胸を張るレーシャ。
「だって、
現代知識があった方が
便利かなって!」
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次の瞬間。
「――レーシャァ!!」
怒号が、
受付所全体に響き渡った。
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現れたのは、
またしてもサフィーネだった。
昨日よりも、
明らかに機嫌が悪い。
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「記憶制限解除は
上司承認事項!」
「しかも、
異世界転生で
現代知識フル解放!?」
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レーシャは、
きょとんとした顔で首を傾げた。
「え?
ダメだったんですか?」
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「ダメに
決まってるでしょう!」
サフィーネは
頭を抱えた。
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「世界観崩壊、
技術進化暴走、
文明干渉……」
「最悪、
世界そのものが
歪むのよ!」
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レーシャの顔から、
ようやく笑みが消えた。
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「そんなに……
大変なことなんですか?」
小さく、
不安そうに尋ねる。
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ユーファは
深く息を吸い、
静かに説明した。
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「異世界には
その世界なりの
発展速度があります」
「現代知識は
毒にも薬にもなる」
「制御できなければ、
多くの命を
巻き込みます」
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レーシャは
魂を見つめた。
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魂は、
申し訳なさそうに
揺れている。
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「……ごめんなさい」
レーシャは、
魂に向かって
頭を下げた。
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サフィーネは、
その様子を見て
言葉を詰まらせた。
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「……戻ってきた理由は?」
ユーファが問う。
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魂は、
震える光で答えた。
異世界で、
知識を使いすぎた。
人々に恐れられ、
居場所を失った。
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「……失敗、
ですよね」
レーシャの声は、
震えていた。
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「いいえ」
不意に、
別の声が割り込んだ。
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最上位女神、
クレアティスだった。
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「これは
事故ではありますが、
失敗とは限りません」
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サフィーネとユーファは、
同時に頭を下げる。
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「レーシャ」
クレアティスは、
静かに続けた。
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「あなたは、
魂を見ている」
「しかし、
世界を見ていない」
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レーシャは、
唇を噛みしめた。
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「優しさだけでは、
世界は守れません」
「けれど――」
一拍、
間を置く。
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「優しさがなければ、
救えない魂もあります」
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その言葉に、
レーシャの瞳が揺れた。
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「今回の魂は、
再調整後、
異世界へ戻します」
「制限付きで」
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サフィーネは、
深く息を吐いた。
「……始末書は
十枚で済ませてあげる」
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「ええっ!?」
レーシャは
声を上げた。
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ユーファは、
小さく笑った。
「少ない方ですよ」
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魂は、
再びゲートへと向かう。
今度は、
静かで穏やかな光で。
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レーシャは、
その背を見送りながら
呟いた。
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「次は、
ちゃんと考えます」
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その言葉を、
天界は静かに
受け止めていた。
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女神の仕事は、
命を預かること。
その重さを、
レーシャは
少しだけ理解し始めていた。
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天界の一日は、
まだ終わらない。
魂は今日も、
戻ってくる。
試練の予感を残して。
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