魂の選択者――レーシャの天界日誌

塩塚 和人

第1話 魂の受付所は今日も満員


天界は、今日も騒がしかった。


白く澄んだ空間に、

無数の光が流れ込んでくる。


それは星ではない。

魂だ。


異世界から、

現代世界から、

あらゆる世界を終えた魂が、

毎日のようにここへ戻ってくる。


ここは

「魂転生管理局・第七受付所」。


女神たちの職場である。


---


「次の魂、番号四二三一」


淡々とした声で告げたのは、

女神ユーファだった。


銀色の髪をきっちりまとめ、

透き通るような青い瞳で

魂の情報板を確認している。


生前の記録、

精神の成熟度、

来世への適性。


すべてを素早く読み取り、

判断を下す。


それが彼女の日常だった。


---


「えっと……この人、

最後まで誰かのために

頑張ってたんですね」


隣で声を上げたのは、

女神レーシャ。


柔らかな金色の髪が、

少し寝癖のまま揺れている。


彼女は魂を覗き込み、

胸の前で手を組んだ。


「すごいです。

ちゃんと報われる

人生にしてあげたいです」


---


ユーファは一瞬だけ、

視線を横にやった。


「レーシャ。

感想は業務外です」


「えっ、

でも可哀そうじゃないですか?」


「可哀そうかどうかで

転生先は決まりません」


きっぱりと告げる。


---


レーシャは

「そうでした……」

と肩を落とした。


それでも、

魂を見つめる目だけは

真剣だった。


---


受付所の奥では、

書類の束が山のように積まれ、

空中を光の板が

忙しなく行き交っている。


今日も、

魂の数は多い。


---


「現代世界・制限付き転生。

記憶封印レベル三」


ユーファが判断を下す。


魂は静かに光を放ち、

転生ゲートへと吸い込まれた。


---


「次、番号四二三二」


淡々。

正確。

無駄がない。


---


しかし――


「ちょ、

ちょっと待ってください!」


レーシャが声を上げた。


---


「この魂、

異世界の方が

向いてる気がします!」


「根拠は?」


「勘です!」


---


ユーファのこめかみが、

わずかに引きつった。


「勘は、

業務資料に含まれません」


---


そのとき。


「――レーシャァァ!!」


雷鳴のような声が、

受付所に響き渡った。


---


現れたのは、

上司女神サフィーネだった。


燃えるような赤髪を揺らし、

怒りを隠そうともせずに

歩み寄ってくる。


---


「また勝手な判断を

しようとしているわね?」


「えへへ……」


レーシャは

誤魔化すように笑った。


---


「えへへ、じゃない!」


サフィーネは

机を叩いた。


光の板が震える。


---


「魂の配置は、

世界の均衡に直結するの!」


「一人の感情で

決めていいものじゃない!」


---


レーシャは、

しゅんと肩を落とした。


「……でも」


小さな声で、

それでも言う。


「この人、

また同じ後悔を

繰り返しそうで……」


---


サフィーネは、

言葉を詰まらせた。


一瞬だけ、

その表情が揺らぐ。


---


ユーファは

静かに口を開いた。


「サフィーネ様。

規定上は

現代転生が最適です」


---


「……わかっているわ」


サフィーネは

深く息を吐いた。


---


最終判断が下され、

魂はゲートへと導かれる。


消える直前。


魂は、

レーシャを振り返った。


感謝するように、

柔らかな光を放って。


---


レーシャは、

胸を押さえた。


「……ちゃんと、

幸せになってください」


---


その光景を、

高い場所から

静かに見つめる存在がいた。


---


最上位女神、

クレアティス。


感情の読めない瞳で、

すべてを見通している。


---


「また、

騒がしい一日になりそうね」


彼女は小さく、

そう呟いた。


---


魂は今日も天界へ戻る。


異世界へ。

現代へ。


女神たちの忙しい日常は、

まだ始まったばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る