傾国の魔女-3

 ミレリアは螺旋を描く水柱を掴むようにして、上空へと跳んでいく。ウロボロスもそれを追って高度を上げていく。ミレリアはそれから逃げるように、どんどん高度を上げていった。

(コイツ……いつまで上昇するつもりだ……)

 ウロボロスは羽ばたき続けるのが辛くなってきた。ドラゴンの飛翔能力は高いが、高高度に対応できるような体のつくりになっていない。何よりも空気が薄くなってきて、呼吸が辛い。ミレリアは纏った水から酸素を得ているのか、ほとんど気にする様子が無いようだ。ウロボロスが大きく息を吸おうと口を開けた、その瞬間だった。


 パシャン!


 息を吸おうとしたウロボロスの顔面に水隗が飛んできた。思いっきり吸ってしまったその水は、一瞬でウロボロスの肺胞を埋め尽くした。ウロボロスは一言も発せずに、突如として空中で溺れた。ウロボロスはその飛翔能力を失い、そのまま落下していった。


 ズドーン!


 巨大な地響きを立てて落ち、ウロボロスは死んだ。


 地響きが止んだ後、静寂が辺りを支配した。皆が信じられなかった。その、余りの、あっけなさに……

 決闘を見ていたオルドンは凄まじい悪寒に襲われて、鳥肌が立った。これは不味い。戦士としての直感が、ミレリア様は大きな失敗を犯した、と言っている。


「ふざけるなよ!!!」

 決闘を見ていたドラゴンのうちの一体が、それを証明するかの如く、大声で叫んだ。周りのドラゴン達も次々に騒ぎ出した。

「卑怯だぞ!」「あんなものは認められない!」「ありえないだろうが!」


 ミレリアの力の源泉はその細やかさにあった。宮廷陰謀の時代から、魔術を作り出してからも、彼女の真骨頂はそれらを細かく制御することで相手の力をいなし、刺すように力を行使してきたことにある。これは「力」というものに翻弄され、それに対峙してきた彼女の出した1つの解答であった。


 しかし、ドラゴン達のような力の信奉者たちにとって、この種の力は「小賢しい」というように映る。彼らのような者たちにとって、決闘とは神聖な儀式であった。それも「帝国最強」と「ドラゴン族最強」との決闘であれば、語り継がれるような神聖な儀式でなければならない。しかしその神聖な儀式を「小賢しい」戦いで汚されたのだ。


 心身ともにすり減らしたミレリアには、そのようなものを考慮する余裕は無かった。戦場に響くドラゴン達の怨嗟。ミレリアは息を切らせながら、その光景を呆然とした目で見つめる。

 その光景は、ミレリアの限界を表すかのようであった……


 この日を境に、ドラゴン達は帝国を「獲物」から「敵」として認識するようになり、ミレリアはその象徴として語られるようになる。ドラゴン達は侮蔑と怨嗟をもって、彼女のことをこう呼んだ。

「傾国の魔女」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る