第2話
王都を出て隣町に到着した俺は、さっそく商業ギルドの門を叩いた。
目的はもちろん、昨日作った『オリハルコン』の換金だ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
受付カウンターに座っていたのは、少し気だるげな太った男だった。
俺の身なり――冒険者風の簡素な服を見て、露骨に「金にならなそうな客だ」と判断したらしい。
「素材の買取をお願いしたい」
「はいはい、素材ですね。ゴブリンの牙とか、薬草ですか? 小銭ならあっちのトレイに置いて……」
「いや、これだ」
俺はカウンターの上に、拳大の虹色の塊をゴトッ、と置いた。
「は……?」
男が目を点にする。
「なんですかこれ。ただの……いや、綺麗な石ですけど。ガラス細工か何かですか? うちはアクセサリー屋じゃないんですよ」
「鑑定してみればわかる」
「はぁ……面倒だなぁ。もしガラクタだったら鑑定料いただきますからね」
男はぶつぶつ文句を言いながら、片目に鑑定用のモノクルを装着した。
そして、面倒くさそうに俺の石を見た、その瞬間。
「ひっ……!?」
男の喉から、変な音が漏れた。
ガタガタガタッ! と椅子が激しく音を立て、男が尻餅をつく。
「お、お、お……オ、オリ……ッ!?」
「どうした? ガラクタか?」
「ば、馬鹿なこと言わないでくださいッ!! こ、こここ、これは『オリハルコン』じゃないですかァァァッ!!?」
男の絶叫がギルド中に響き渡った。
周囲の職員や客たちが一斉に振り返る。
「しかも、なんだこの純度は!? 不純物が一切ない……!? こ、こんな品質、王家の宝物庫にだってありゃしませんよ!? ど、どどど、どこでこれを!?」
「拾った」
「拾えるわけないでしょうがァァァッ!!」
男が泡を吹いてパニックになっていると、騒ぎを聞きつけたギルドマスターが奥から飛び出してきた。
事態を把握したマスターは、即座に俺に向かって直角に腰を折り、額をカウンターに擦り付けんばかりに頭を下げた。
「も、申し訳ございませんッ! 国宝級の御方に対し、非礼な態度を! ど、どうか当ギルドにお売りください! 言い値で買います! いや、買わせてください!!」
結局、交渉は一瞬で終わった。
提示された金額は、金貨1億枚。
小国の国家予算に匹敵する額だ。
「ま、当面の路銀にはなるか」
俺は商業ギルドが総出でかき集めてきた金貨の袋(魔法鞄入り)を受け取り、涼しい顔でギルドを後にした。
背後でマスターたちが涙を流しながら拝んでいるのが見えた。
◇
懐が温かくなった俺は、その足で馬車屋に向かった。
これから向かうのは、人の手が及んでいない『辺境の森』だ。野宿続きの過酷な旅になる……はずだったが、金があるなら話は別だ。
「一番いい馬車をくれ」
「へい! こちらなどいかがでしょう! 王侯貴族も御用達の最高級品でして!」
俺は迷わず最高級の箱馬車を購入した。
内装はふかふかのソファに、広々としたベッド付き。キッチンまで完備されている。
だが、俺の準備はここからが本番だ。
誰もいない路地裏に馬車を止め、俺は【万能錬金術】を発動する。
「さて、魔改造といくか」
俺は馬車の車体に手を触れる。
「まずは揺れ対策。【衝撃吸収(ショック・アブソーブ)】と【重力制御(グラビティ・コントロール)】を付与。これでどんな悪路でも振動ゼロだ」
「次は動力。【自動駆動(オート・ドライブ)】の魔法陣を刻印。馬がいなくても、魔力だけで勝手に走るようにする」
「最後に空調。【快適空間(コンフォート・ゾーン)】を常時展開。夏は涼しく、冬は暖かく」
ものの数分で、外見は貴族の馬車だが、中身は現代の高級キャンピングカーをも凌駕するスーパー馬車が完成した。
「完璧だ」
俺はふかふかのソファに身を沈め、ギルドの帰りに買った最高級のワインを開ける。
快適すぎる。
昨日の今頃は、泥だらけになってレオンの装備を磨いていたのが嘘のようだ。
「さて、行くか。目指すは辺境の森」
馬車が音もなく滑るように走り出す。
俺の新しい、自由な旅の始まりだ。
◇
一方その頃。
王都近くの『初心者の洞窟』にて。
「くそっ! なんだこの硬さは!」
勇者レオンが、顔を真っ赤にして剣を振るっていた。
相手は、最下級モンスターのスライムだ。
今までなら一撃で霧散していたはずの雑魚敵が、今日はなぜか弾力ゴムのように剣を弾き返す。
「はぁ、はぁ……! おいマリア! 援護魔法はどうした!」
「やってるわよ! もう3回も『筋力強化』をかけたわ!」
聖女マリアもまた、肩で息をしていた。
額には脂汗が滲み、自慢の金髪も乱れている。
「おかしいわ……たった数回魔法を使っただけなのに、もう魔力が空っぽよ……。こんなこと今までなかったのに」
「チッ! 昨日の酒が残ってんじゃねぇのか!?」
レオンはイライラと剣を地面に叩きつけた。
ガキンッ! と嫌な音がして、聖剣の刃が少し欠ける。
「あーもう! 剣の切れ味も最悪だ! 今日は湿気が多いから調子が出ねぇんだよ!」
彼らは気づいていない。
レオンの剣がスライムすら斬れないのは、俺が毎日かけていた【鋭利化】のエンチャントが切れたからであり。
マリアがすぐにガス欠になるのは、俺が散布していた【魔力回復率上昇】のポーションがないからだということに。
彼らの強さは、文字通り「メッキ」だったのだ。
そしてそのメッキは、俺がいなくなった今、急速に剥がれ落ちようとしていた。
「おい、ポーション出せ! 魔力回復薬だ!」
「えっと……あれ? 鞄に入ってないわ」
「はぁ!? なんでだよ!」
「いつもなら、アルトが勝手に補充してくれてたから……」
マリアが口にした名前に、レオンの顔が歪む。
「あんなクズの名前を出すな! あーくそっ、わかったよ! 今日はもう撤収だ! 体調さえ戻れば、こんなダンジョン一瞬で踏破できるんだからな!」
捨て台詞を吐いて、スライム1匹倒すのに苦労した勇者パーティは、逃げるようにダンジョンを後にした。
彼らが本当の地獄を見るのは、もう少し先の話。
装備が完全に錆びつき、俺の遺産(バフの残り香)が完全に消え失せた時のことである。
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