追放された【万能錬金術師】、実はパーティの戦力の9割を支えていた ~「役立たず」と捨てられたが、【自動生産】で石ころをオリハルコンに変えて辺境でスローライフ。今さら泣きつかれても、もう遅い~

kuni

第1話

「おいアルト! テメェは今日でクビだ! 今すぐパーティから出て行け!」


 王都の酒場に、下卑た怒鳴り声が響き渡る。

 声の主は、黄金の鎧に身を包んだ男――勇者レオンだ。

 周囲の客たちが「またかよ」といった顔でこちらを見ているが、レオンは気にしない。彼は自分が世界の中心だと信じて疑わない男だからだ。


 俺、錬金術師のアルトは、飲みかけのエールを置いてため息をついた。


「……クビ、ですか。理由は?」

「理由だァ? そんなもん、テメェが『役立たず』だからに決まってんだろ!」


 レオンはテーブルをドン! と叩き、俺を指差す。


「いいか? 俺たちは魔王を倒す選ばれし勇者パーティだ。俺の聖剣、剣聖のクリス、賢者のミナ……全員が一騎当千の戦闘力を持ってる。だが、テメェはどうだ?」


 レオンは鼻で笑う。


「戦闘中、後ろの方でコソコソとポーション投げてるだけじゃねぇか! そんなもん、子供の雑用係でもできんだよ!」

「そうよぉ。アルト君がいると、経験値の分配も減っちゃうし」


 レオンの腕にべったりとしなだれかかっているのは、聖女マリアだ。

 かつては清楚ぶっていたが、最近は勇者の愛人ポジションを確保して増長している。


「それにぃ、回復なら私の『聖魔法』があるもの。アルト君の作る苦いポーションなんて、もう不要なの。不潔だし、生理的に無理って感じ?」

「だ、そうだ。ギャハハ! 聞いたかよ、『不潔』だってよ!」


 勇者と聖女が嘲笑う。

 俺は冷静な顔を崩さなかったが、内心では呆れ果てていた。


(……こいつら、本気で言ってるのか?)


 俺は単にポーションを投げているだけではない。

 戦闘中、絶え間なく変化する戦況に合わせて、筋力強化、反応速度上昇、魔力回復といった数十種類のバフ・ポーションを霧状にして散布している。

 それがなければ、レオンの剣は大岩ひとつ斬れないし、マリアの魔力など3分で枯渇する。


 さらに言えば、レオンが自慢げに腰に差している『聖剣』。

 あれは元々ただの『鉄の剣』だ。俺が毎晩、錬金術でメンテナンスと強化を繰り返し、オリハルコン並みの切れ味を維持させているに過ぎない。


 つまり、このパーティの戦力の9割は、俺のサポートで成り立っているのだ。


「レオン、一応言っておくが」

「あぁ? なんだよ往生際の悪い」

「俺が抜ければ、装備のメンテナンスは誰がやるんだ? それに、ポーションによる継続回復(リジェネ)がなくなれば、前衛は支えきれないぞ」


 俺の忠告に、レオンは顔を真っ赤にして激昂した。


「うるせぇぇぇッ! 黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって! 俺様は勇者だぞ!? テメェの安っぽいクスリなんぞ無くても、俺の実力があれば余裕なんだよ!」

「そうよ! アルト君なんてただの金食い虫じゃない! 私たちの稼ぎを掠め取る寄生虫よ!」


 寄生虫。

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが冷めた。

 あぁ、もういいか。ここまで馬鹿なら、つける薬もない。


「……わかった。パーティを抜けるよ」

「おう、やっと理解したか無能! ほら、さっさとパーティ証を置いて失せろ!」

「手切れ金とかは……」

「はぁ!? ふざけんな! 今まで俺たちのおかげで飯が食えてたんだ、むしろテメェが俺たちに金を払えってんだよ!」


 レオンは俺の手からパーティ証をひったくると、シッシッと犬を追い払うような仕草をした。

 俺は無言で席を立つ。

 背後から、「やっと清々したぜ」「あの貧乏臭いのがいなくなってスッキリしたわぁ」という声が聞こえてくる。


 俺は一度も振り返ることなく、酒場を出た。


 ◇


 王都の門をくぐり、人気のない街道まで歩いてきた。

 日は沈み、辺りは薄暗い闇に包まれている。


「ふゥ……」


 大きく息を吐き出す。

 不思議と、怒りは湧いてこなかった。

 むしろ感じているのは、翼が生えたような開放感だ。


「……体が軽いな」


 それも当然だ。

 これまで俺は、常時発動型のスキル【遠隔供給(リモート・サプライ)】によって、自分の魔力とスタミナの9割を、常時レオンたち4人に送り続けていたのだから。


 24時間365日、俺は自分の生命力を削って彼らを「英雄」に仕立て上げていた。

 だが、パーティ追放によってそのパスは切断された。

 

 今、俺の体には、かつてないほどの力が満ち溢れている。

 SSSランクの【万能錬金術師】としての本来の力が。


「さて、これからどうするか……」


 とりあえず、先立つものが必要だ。

 手切れ金も貰えなかったし、財布の中身は心許ない。


「ま、これがあれば問題ないか」


 俺は足元に転がっていた、拳大の「石ころ」を拾い上げた。

 ただの、どこにでもある汚れた石だ。


 俺は意識を集中させる。

 今までパーティメンバーの装備維持に使っていたリソースを、全てこのスキルに注ぎ込む。


 ――固有スキル【自動生産(オート・クラフト)】。


 カッ!!

 俺の手元から、夜の闇を切り裂くような黄金の光が溢れ出した。


 パキパキパキッ!

 硬質な音と共に、ただの石ころが分子レベルで再構築されていく。

 不純物は排除され、密度は極限まで高まり、神々しい輝きを帯びていく。


 光が収まった時。

 俺の手の中にあったのは、虹色の輝きを放つ金属の塊だった。


「……ははっ、マジかよ」


 鑑定眼を使わなくとも分かる。

 神話級の金属、オリハルコンだ。

 市場に出せば、これ一つで小さな城が買えるほどの国宝級アイテム。


 それが今、たった数秒で、しかも労力ゼロで完成してしまった。


「レオンたちは、俺を『ただのポーション係』だと思ってたみたいだけど……」


 俺はオリハルコンを放り投げ、片手でキャッチする。

 ずっしりとした重みが、これからの輝かしい未来を約束していた。


「素材さえあれば、エリクサーだろうが聖剣だろうが、量産し放題ってことだ」


 俺は王都の方角――勇者たちがいる酒場の方を振り返り、ニヤリと笑った。


「あいつらの装備、あと3日もすればガタが来るな。聖剣も錆びた鉄くず同然になる」


 泣きついてきても、もう知らない。

 俺は辺境で、可愛い女の子でも侍らせて、悠々自適なスローライフを送るんだ。


 俺は鼻歌交じりに、夜の街道を歩き出した。

 その背中は、希望と野望に満ちていた。



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