五月の影と見えない距離感
翌日の朝。
昇降口に差し込む五月の光が、床に細長い影を作っている。基本的には暖かいのだが風が吹くと少し寒い。周りの生徒の服装を見回してもほとんどはブレザーやカーディガンなどを羽織っている。
俺は下駄箱の前で靴を履き替えながら、昨日の昼休みのことを思い出していた。
祭の困った顔。
そして、たびたび見る作り物みたいな笑顔。
(……結局、何も分かってねえな)
そう思いながら廊下に出た瞬間。
「……あ」
視界の端に、見覚えのある短いポニーテールが入った。
佐々木祭の姿を発見。
朝練の後なのかただ単にこの時間に登校してきたのか、いつものバスケ部のジャージのまま。
スマホを弄りながら昇降口に入ってくるのが見えた。
(……また偶然かよ)
向こうも俺に気づいたらしく、ちらっとこちらを見て、すぐに視線を逸らした。
昨日の昼みたいに元気に手を振るでもなく、無視するでもない、微妙な距離感。
少し違和感を覚えるも俺は挨拶をしに行く。
「……おはよう」
「……あ、おはようございます」
祭はワンテンポ遅れて答えた。
目は合うけど、昨日ほど近寄ってこない。
「朝練?」
「今日はないよ。普通に今登校」
それだけ言って、スマホをポケットにしまう。
「悠真くん、早いね」
「そっちこそ朝練ない時くらいゆっくり来たらいいのに」
他愛ないやり取り。
でも、なんともいえない違和感が俺にでもわかった。
それを確かめる為に俺は会話を始める。
「……最近さ」
「え?」
一瞬だけ、祭の肩がぴくっと動いた。
「よく合うよな。俺たち」
「……そうだね」
祭は拍子抜けしたように笑いイタズラっぽく言う。
「もしかして運命?」
「そんなわけない」
「ひどーい」
わざと軽く流す。
ここで踏み込んでも、きっと話は逸らされる。そんな予感がして、俺はそれ以上追わなかった。
「今日は部活?」
「放課後ね。だから昼は暇」
その言い方が、ほんの少しだけ意味深に聞こえた。
「じゃ、今日の昼また一緒に食べれるか?」
「デートのお誘いですか?まあ仕方ないですから付き合ってあげますよ」
祭はそ言って、くるっと踵を返した。
「じゃあね、先輩」
元気な声。でも、やはりその背中は少しだけ小さく見えたた。
(……会話を続けるしかないか)
俺はまだ起ききっていない体で欠伸をしながら自分の教室へと向かった。
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