昼休みは答えをくれない
昼休みの学食は、いつも戦場だ。
トレイを持った生徒が列を作り、席取りにもなかなか骨が折れる作業だ。
ご飯の香ばしい匂いと人混みがそこにはあった。
俺――青木悠真は、比較的リーズナブルな、きつねうどんをトレイに乗せ、空いている席を探していた。
(……佐々木の妹のこと、どうするかな)
昨日のあの顔が、妙に頭から離れない。
元気な後輩の皮をかぶったまま突っ走る危うさを感じていた。
「……あ」
購買前の自販機の横で、見覚えのあるポニーテールが揺れた。
部活の時間でもないのにぶかぶかのバスケ部ジャージ。
大きなエナメルバッグを足元に置き、ドリンクを選んでいる小さな背中。
佐々木祭だった。
(……またかよ)
偶然にしては出来すぎている。
でも、わざと避けるほどでもない距離。
「悠真くん!」
結局、向こうに見つかった。
「なにそれ、うどん?ずいぶん質素ですね」
「そういうお前もヘルシーなメニューだな」
祭のトレイには焼き野菜定食が乗っていた。
「まあ、これでも女子ですからね!栄養には気を配ってるんです!」
祭はいつもの調子で笑う。
昨日見た、あの張りつめた空気は今はきれいに消えていた。
「兄貴、また彼女の話してたでしょ?」
「……してたな」
「ほらー。あの人、幸せオーラだだ漏れなんだから」
軽口の裏に、ほんの一瞬だけ引っかかるような間があった。
「……昨日さ」
「え?」
俺が口を開いた瞬間、祭は視線を逸らしてキャップをいじる。
「……いや、なんでもない」
ここで踏み込むほど、俺たちは近くない。
その距離感だけは、はっきりわかっていた。
「変なのー」
そう言いながらも、祭はそれ以上聞いてこない。
「じゃ、そろそろ戻るね。昼休み終わっちゃうし」
「ああ」
小さく手を振って、人の流れに紛れていく背中。
明るくて、元気で、
でも昨日と同じで少しだけ遠い距離感。
(……もう何回か話さないと分からないか)
祭のことは、佐々木から聞く話じゃ足りない。
本人の言葉がない限り、どこまでいっても輪郭だけだ。
五月の昼休みは、にぎやかで、軽くて、
その中で俺は、ほんの少しだけ重たいものを抱えてしまったのかもしれない。
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