第9話 視聴者との絆
朝の光が宿の窓から差し込み、
アイラは小さく伸びをした。
昨日のダンジョンで、
ライバルのライラと協力し、
大型ゴブリンを倒したことが胸に残る。
「……楽しかった」
剣を背負い、
探索者カードを手に取る。
視聴者数も七十人に増え、
コメントも活発になった。
街を歩きながら、
アイラは端末を確認する。
配信を始めたばかりの自分にとって、
この数字は大きな励みだった。
ギルドに向かう道すがら、
街の喧騒が耳に入る。
車の音、人々の声、
空気に混じる匂い。
魔界にはない、
生活感のある世界。
「……やっぱり、
この世界、面白い」
ギルドに到着すると、
掲示板に新しい依頼が貼られていた。
中規模ダンジョン。
危険度は中。
報酬はやや高め。
アイラはカードを提出し、
許可を受ける。
地下への階段を降りると、
薄暗い通路が続く。
足元は湿っており、
踏むたびに水滴が跳ねる。
胸元の端末を確認し、
配信を開始する。
「こんにちは、探索者のアイラです」
視聴者は昨日より増え、
八十人を超えていた。
「見てくれてありがとうございます」
通路を進むと、
小型の魔物が現れる。
スライムとゴブリンの混合型。
素早く攻撃してくる。
「……焦らずに」
一歩下がり、距離を取りながら観察。
隙を見て斬撃を入れる。
――コメント:
「安定してる!」
――コメント:
「見てて安心」
胸の奥が温かくなる。
誰かが、確かに見守ってくれている。
進むにつれ、通路は分岐する。
右は狭く、暗い。
左は広く、明るい。
「……どっちに行こう」
配信画面に向かって説明する。
「右は少し危険ですが、
魔物は少なめです」
「左は戦いやすいですが、
数が多くなります」
――コメント:
「左行け!」
――コメント:
「右は避けろ」
「じゃあ、左にします」
剣を握り直し、慎重に一歩踏み出す。
広い通路には、ゴブリン二体。
一体は盾、もう一体は棍棒。
「……少し強い」
間合いを取りながら観察。
突進してくるゴブリンを受け流し、
横から斬りつける。
――コメント:
「落ち着いてる!」
――コメント:
「いい判断」
一体ずつ倒していくと、
奥から人影が見えた。
「……また、ライラ?」
短く切り揃えた髪、鋭い眼差し。
同じ視聴者に映る可能性がある。
「こんにちは、アイラ」
「やあ、ライラ」
互いにうなずき、無言の緊張が通路に流れる。
突然、ゴブリン三体が現れる。
二人は剣を抜き、連携して斬る。
魔物が倒れ、静寂が戻る。
視聴者のコメントが次々と流れる。
――「二人組、かっこいい!」
――「協力プレイ最高!」
胸が温かくなる。
誰かと一緒に戦う楽しさ。
伝わる興奮。
通路の奥で、空気がひんやり変わる。
大型の魔物。
鋭い牙と大きな爪。
攻撃は遅いが、一撃が重い。
「……やっぱり、強い」
剣を握り直し、距離を取る。
一撃を受け流し、次の隙を狙う。
二人で息を合わせ、斬撃を決める。
――コメント:
「見応えある!」
――コメント:
「二人のコンビ、いいね!」
大型魔物を倒すと、
視聴者は百人を超えていた。
街に戻る途中、
アイラは端末を見つめ、
深く息を吸った。
「……もっと、
頑張ろう」
一方、ギルド長室。
男はモニターに映る二人を見つめ、
低く呟く。
「……ライラか。
目立つ存在になるな」
警戒と期待が混ざる。
遠くで守る父、
近くで戦う娘。
その距離は短く、
しかし危険を孕む。
「……視聴者との絆も、
無視できない」
小さな剣士アイラは、
初めての協力戦で、
戦いの楽しさと伝わる喜びを知った。
こうして、
配信という窓の向こうに、
新たな波紋が広がり始めた。
そして、遠くで見守る父の目は、
これから迫る試練を、静かに予感していた。
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