第5話 初めての選択肢はどうなんだ?

 結局、どんな世界でも何もしなくても一日というものは終わるだろう。


 このゲームも同じで、今日は基本的に移動と少しの会話、スカートめくりからの隠されざるヒロインたちの性格がわかったところまでは、クリアすることができたものの、俺はこのゲームがエロティックタワーと同じに見える別物なのではないかと思うようになっていた。


「じゃないと、ヒロインたちの性格がおかしいのが説明できない」


 実は裏設定ではそうなっています。


 なんてことはあり得ないことではないとはいえ、だったら、俺がゲームをやっていたときには何もなかったのが説明できない。


「知ってたら対応も変わってたって……」


 思わずそう口にするのは仕方がなく、寮へ戻れば通常であれば勝手に次の日へと進んでいた世界も、まだ進んではいないことで、余計にゲーム世界に似た何かだと考えるようになっていた。


「どうなるんだろうな、ほんとに……」


 思わず口にしてしまうほどには、状況といえばいいのか、それは悪いと思った。

 そもそも、スカートめくりをしようとしたのが、間違いだったが……


 とはいうものの、そもそもこのゲームでは思い通りの展開でゲームが進んでいくようなことが起こっていないため、気にしなくてもいいかもしれないが……


 ゲームと違うことが起こることが、不安というよりも当たり前と考えないといけない。


 どうしてヒロインたちがあんなことを言ってきたのか……そこから考えられるのはたった一つで、ゲーム内でのヒロインたちの性格というのは、ゲーム仕様というだけで、実際には違うということだろう。


 確かに、ゲームと現実は違う。

 そんなことはわかっていたものの……


「ゲームの中にいるんだったら、夢くらい見させてくれよ……」


 そう考えてしまうのも仕方ない。


 得に、幼馴染であるメイドのナオに関しては、いつもは優しい天然少女なはずだった。

 エロゲーの中でも起こる多くの理不尽なイベントだって、なんとかナオによって癒されていたといいうのに、癒しというものがなくなるだろう。


 あー……嫌だ。

 エロゲーの世界に来たんだから、こう可愛い美少女たちともっとキャッキャウフフライフをさせてくれよ!


 俺はそう考えるものの、現実にそんなうまい話はないということなのか?


 妄想ではなく、本当にここがゲーム世界であるというのであれば、もう少し俺に都合がいい世界であってくれたらよかったのだが、どうやらそうはならないらしい。


 わかる。わかるよ。

 そんな都合のいいエロゲーの世界で主人公になっていたのであれば、確実にやりたい放題していたからな。


「明日からは、エロティックタワーに入ることになるのか……」


 そう言葉にした後に考えるのは、入るときに組むのが誰になるかだ。

 普通であれば、教室で声をかけた人とになるが、今回は誰にも声をかけていない。


「あー、考えても仕方ないよな。寝るか」


 俺は、違う世界へきたことへの疲れからなのか、気づけば眠っていた。


 ◇


「朝起きたら、元の世界に戻ってる。なんてこともなかったな」


 ほんの少し期待をしていたものの、結果は違う世界に来たことが事実だったというものだ。


 あー、これが現実なのか……


 そんなことを考えながらも、ゲームではなかった部分である、朝の用意だったり食事を終える。


 初日のように、高速で顎を動かすということをしなくてもよかったのについてだけは、よかったとはいえ、ゲームのように勝手にその場所へと向かっていく。

 オート機能的なことが起こらないため、食事をとる場所がどこなのかわからず、少し彷徨った。


 後はエロゲーであり、さらにいえば女性としか関わらないこのゲームでは、仲間の男がいないのも、今のよくない状況を作っていた。


「お助けキャラとか、そういうの欲しい……」


 呟いてみたものの、そんなものはこの世界にはない。


 二日目の今日からは、教室に入ると始まり、主にエロティックタワーへ入って、チュートリアルの戦闘だ。


「入るの躊躇するよな」


 ゲームの進行上、このタイミングで教室に入らないことには、次へ行くことはない。


 だったら、このタイミングで他のことをすればとは思うものの、悲しいかな……ゲームの世界だということがわかるように、教室の外には誰もいない。


「やっぱり、完全にチュートリアルを終わらせないと、勝手に動くことはないのか……」


 ここまでくれば、そのことくらいは理解できた。


「さっさとそのときまで進みますか……」


 俺は諦め……覚悟を決めて、教室の扉を開ける。


 すると体は勝手に動き出し、自分の席へと強制的に進み、着席した。


 あったらあったで、やっぱり慣れないな……


 思わず口にしてしまうほど、強制的に体が動くというのはいいものではないが、まだ何が起こるのかを予測できる分マシなのかもしれない。


 ほんの少し、そんなことを考えたタイミングで、教室の扉が開くと昨日も見た女性が入ってくるとテンション高く言う。


「さ……しゅ……ぞ……もて」(早速実習やるぞ。武器をもて!)


 するとどこから現れたのかはわからないが、いつの間にか出現していた武器を上に持ち上げる女性。


【うおー】


 全員が声を上げたところで、本日の実習が始まるはずなのだが……


 く、首が!


 急に教室から出たところで、立ち止まって、さらに首が呼び止められたほうへと向く。


「お……んた……たは……が……る」(おい、あんた。あんたは学園長が呼んでる)

「わかりました」


 勢いよく首を動かしたせいで、何かを言われたが、それがなんなのかわからない。


 本来であれば、この後にはエロティックタワーに向かって行き、そこでチュートリアルが行われるはずではあったが、どういうわけか俺の体はその場にとどまっている。

 そうしている間にも、女性や他の生徒たちは目的地であるエロティックタワーに向かっていく。

 取り残された俺は、人がいなくなるまでこの場で待機となった。


「わけがわからねえ」


 知っているものとは違うことが起こったせいで、思わずそう口にしながらも、女性が何を言ってきたのか考える。


 さっきは高速で何を言ってきたんだ?

 倍速のせいでわからねえ……


 こんなことになるのなら、設定を元のままにしておくべきだったと考えるのは何度目か……

 今は考えてもどうしようもないことだが、そのせいで余計な苦労をしているのだから、文句の一つも言いたくはなった。


「ま、ここに残されたのに意味があるなら、少し探ってみるか……」


 何もしなければ、ゲームであれば目的を達成しない限り時間は進むことはない。


 まあ、この世界がゲームと同じであればだが……

 試してみるというのもありなのだろうか?


 思わずそんなことを考えるが、すぐに頭を振って切り替える。

 ただでさえ、こんな世界に来てどんな状況なのかも、まだ理解できていないのに、そこから無駄な時間を使うなどというのは避けたいというのが本音だった。


 そして、俺は次へと向かうために歩き始める。


 ゲームでもなったことがない状況なので、なんとなくどこかに行けと言っていたような気がするので、しらみつぶしに探してみるというのがいいだろう。


「鍵がかかってるな」


 どうやら、入れる部屋というのは、ここでも決まっているのか、どの部屋も鍵がかかっている。


「残るは、ここか……」


 部屋の扉に手をかけていった結果。

 最後に残ったのは、学園長室だ。


 来たこともないぞ、こんな部屋。


 やってきたゲームでは、そもそも来ることがない場所だ。

 確かに、性約を果たせば、学園から卒業するので、そのときには少しだけ学園長なるものが卒業の言葉を口にはしてくるが、どんな人物なのかは全く知らない。


 あんなゲームでも、まだ知らない要素があるのかと考えながらも俺は学園長室の扉を開ける。


「ま……たぞ……ん」(待っていたぞ、少年)

「お待たせしました」


 座っていたのを見て、それが誰なのか見たことはあったが、思い出せない。


 どうしてかって?

 ヒロインたちのキャラが立ちすぎて何かがあったはずのことは、忘れた。


「どう……こ……たの……に……う」(どうしてここに呼ばれたのか、気になるだろう?)

「はい」

「で……えて……ど……うね……かを……なか……だ」(では、教えてやるが……どうして少年は誰かを選ばなかったんだ?)

「誰を選んでいいのかわからなくて」

「ふ……しろ……だ……だ……を……るく……いの……こと……う」(ふ、それは面白い冗談だ。誰かに声をかけるくらいのことはあるだろう?)

「そうですが」


 すでに俺が知っているゲームとは違う状況になっていることで、いつもとは違う会話になれば倍速のせいで本当に何を言ってるのかわからない。


 なんとなく、言ってることはわかるが……


「えら……で……く……はい……う」(選ばなかったせいで、エロティックタワーに入れないだろ?)

「はい」

「それ……んだ……る」(それだとまずいんだよ。わかる?)

「少しは」

「だ……さ……かけ……よ」(だったら、さっさと声かけてきてよ)

「急に言われても難しい」

「えら……ひ……と……ぞ」(選ばないと、一人で入ることになるぞ)

「本当ですか!」

「あ……ど……る」(ああ……どうする?)


 何かの会話を繰り広げた後に、お互いの動きが止まる。

 そして、目の前に浮かびあがってきたのは言葉だった。


▶もう一度考えます

 大丈夫だ、問題ない


 視線を動かすことで、上下に黒い矢印のようなものが移動する。

 すぐにこれが何かわかる。


 選択肢だよな、これって……


 どちらかを選ぶことによって、今後の物語に影響を与えるもので間違いないだろう。

 よって、どちらかを選ばないといけないのだが、悩むことになる。


 くそ……

 知らないストーリーに、さらには知らない選択肢。

 そもそも、選択肢ってヒロインたちとの会話以外で出るものなのか?


 このゲームはエロゲーということもあって、主に会話相手はヒロインたちである女性だ。

 そんな女性たちと会話することで選択肢が出てくることはあるが、逆にいえば、そういうときでしか選択肢というものにあうことはなかった。


 そもそも、ここまでの会話内容がよくわかってないからな……どっちが正解なんだ?

 いや、どっちも正解じゃないという可能性もあるのか?

 さすがにないか……


 考えれば考えるほど、こういうもののドツボにはまっているような気がするが、選択肢で世界が変わっていくのだから仕方ない。


 では、選択肢がどっちがいいかわからない場合、どうするのがいいか?ということに関しては、自分の中で一つだけルールがあった。


 迷ったら、なんとなくいい感じのほうを選択する。


 だったら、こっちだ!


 もう一度考える

▶大丈夫だ、問題ない


 俺は下の選択肢である、大丈夫だ、問題ないを選ぶ。


 理由は、そう……

 こういうゲームではないとは思うが、一度は言ってみたい言葉だからだ。


「大丈夫だ、問題ない」

「そ……ま……れよ……あい……で……もし……んな」(そうか……ま、頑張れよ。いい相手も、後で見つかるかもしれないもんな)

「はい」


 選択肢はどうやら、間違っていなかった?のか、話は進んでいくのがわかる。


 そして、体は動くようになる。


「オロロロ……」


 それと同時に聞こえてきたのは、吐き声だ……


 聞きたくもないような音声に、さっさと学園長室から出ればいいものの、思わず立ち止まってしまう。


 誰がゲロを吐いているのかといえば、一人しかいないわけだが……

 ゲロを吐いているところで、学園長がどのタイミングで見た人物なのか思い出す。


 ああ、この人ってあれだ……

 初日に馬車酔いしたときにトイレから出たときに出会った、ゲロを吐いていた女性だ。

 ってか、今日も吐いてるのか?


「おう、少年。久しぶりだな」

「は、はい……」


 吐いて落ち着いたというのだろうか、学園長は普通に話しかけてくる。


 かなり気さくに話しかけてくれるのはいいものの、口に少しついたゲロをちゃんと処理してからにしてほしい。


 だが、学園長はそんなことを気にした様子もなく、左手にわっかを作ると、そこに右手の指を突っ込みながら言ってくる。


「どうだ。女とはやれそうか?」


 動きから言葉まで、何もかもダメだろという行為をしてる学園長に思わず言葉にする。


「学園長が、そんなことを口にしていいのかよ」

「あー、いいのいいの、んなことは気にすんな。どうなんだ?」

「簡単にできたら苦労しませんよ」

「なんだよつまんねーな」


 あははと、学園長は豪快に笑う。


 こういうことを言っていいのかはわからないが、本気で殴ってもいいだろうか?


 そもそもだ。

 学園長にそんなことは言われたくない。


「でもさ、少年はさっき言っただろ?一人でやれるって」

「どういう意味だ?」

「どういう意味だって、まんまの意味だぞ。さっきの話で少年は選択しただろ?」

「大丈夫だ、問題ないってやつか」

「そうだ。そのときの会話をわかっているか?」

「いや、何を話していたのか、わからなかったからな」

「ぷぷぷ……だったら教えなくていいな!」

「はあ?気になるだろうが」


 俺はそう言うが、学園長は笑うだけで何も教えてくれない。

 まるで、この状況を楽しむかのようにニヤニヤと笑うだけだ。


 なんかイラッとくるな。

 それに、言い方を考えると、こいつは何かを知ってるってのか?


 笑う姿を見て、そう考えるが、確証がない以上は余計なことを言って頭のおかしいやつだとは思われたくない。


 いや、エロゲーの世界にいるやつなど、頭のおかしいやつしかいないかもしれないが……


「さあ、やることあるだろ?」

「まあな……」

「だったら、頑張れよしょうねオロロロ」

「最後が台無しなんだよ!」


 学園長はそう言って、ゲロを吐く。


 ゲームが進むたびに、俺はこのエロゲーを嫌いになりそうだが、確かにここで足踏みはできない。


 わからないけど、やるしかないのかよ。


 俺は覚悟を決めると、学園長室から出て行く。


 ※


 少年を見送った後に、手で口を拭う。


「う……毎回飲みすぎるんだよな。どうしてゲーム世界の酒はこんなにも美味いんだ?すぐ酔うけど」


 そんなことを言うのは、学園長だ。


「いや、それにしても、疑問に思いながらもやろうとするとは、さすがは二年の前に発売されたゲームを未だにやっているだけはあるな。必要なルートにはちゃんと入ったみたいだからな。あとは、あの少年の選択次第。楽しみだ」


 あははと笑いながらも、棚に閉まっていた酒を口に含むのだった。

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