第2話 銀嶺山荘殺人事件②
「……実は――」
ナナが、覚悟を決めたように息を吸った。
そこで語られたのは、
煌びやかなスポットライトの裏側に潜む、
湿り気を帯びた悪意だった。
人気絶頂のアイドルグループ《Colors》。
そのセンターである美鳥姫華に向けられた、執拗なストーカーの影。
無言電話、意味深な贈り物。
そして――徐々にエスカレートしていく視線。
今回の銀嶺山行きも、表向きは静養と新曲のプロモーションビデオ撮影。
だが実際は、騒ぎから距離を置くための“隔離”に近い判断だった。
問題は、それだけではなかった。
「……これが、事務所に届いた予告状よ」
ナナが差し出した封筒。
中から現れたのは、新聞を切り貼りした、歪な文字の羅列だった。
『汚れた鳥たちに、白銀の罰を。
次の舞台は、雪に閉ざされた墓標だ』
「……古典的だな」
俺はそう呟き、
懐から取り出したピンセットで紙片を挟み上げた。街灯の光に透かす。
裏面に残る、僅かな広告の断片。
紙質の偏り。
インクの染み方。
「テル……何かわかったの?」
ユイの不安そうな声に、
俺は視線を上げずに答えた。
「この切り抜きは、この地区でしか発行されていない地方紙の先週号だ」
「え……」
「つまり、犯人は遠方の熱狂的ファンじゃない。
」
ピンセットを戻し、言葉を続ける。
「……もしくは、もうスタッフの中に紛れ込んでる」
空気が、はっきりと冷えた。
「それにもう一つ」
俺は紙片を指で軽く叩く。
「切り抜きを使う理由は、雰囲気作りだけじゃない。本当の狙いは――自分の筆跡を隠すためだ」
「……!」
「自分の字を見られたら、すぐ正体が割れる。
つまり犯人は、サインやメモを頻繁に見られる立場の人間。 ――かなり“身近”だ」
沈黙が落ちる。
姫華が、息を詰めたように俺を見つめていた。
「……テル様……」
その瞳は、心酔と依存が混ざり合った、
危うい熱を帯びている。
「やっぱり……間違っていませんでした。
私が選んだ方は……」
ナナが苦々しく付け足す。
「……確かに。アタシら、お互いの筆跡なんて見慣れているしな」
姫華は一歩踏み出し、俺の手に縋ろうとした。
「お願いです、テル様。
この撮影に、警護として同行してください。
あなたがいれば……私たちは、救われます」
俺は、静かにその手を制する。
「引き受ける」
一拍。
「……ただし条件がある」
ユイの方を見た。
「彼女も一緒だ。
ユイを一人にするくらいなら、俺は動かない」
「テル……ありがとう……」
ユイが俺の腕に指を絡める。
その震えが、はっきりと伝わってきた。
一瞬だけ――
姫華の表情が、氷のように冷えた気がした。
だが次の瞬間、
完璧な“アイドルの笑顔”が貼り付く。
「……もちろんですわ。マネージャーに掛け合います。 ふふ……ますます、燃えてきましたわ」
その闘志が、
何に向けられているのか――
この時の俺は、深く考える余裕がなかった。
* * *
数日後。
俺たちは、銀嶺山のスキー場に立っていた。
白銀に覆われた世界。
空は高く、澄み切っている。
「ほら、テル! こっちこっち!」
ユイは軽やかなシュプールを描き、滑り降りていく。
対する俺は――
三十路の魂が、高校生の身体を制御しきれず、
派手に転倒して雪に埋もれていた。
「……くそ。平衡感覚が追いつかん……」
「相変わらずね」
笑いながら手を差し出すユイ。
その笑顔に、ほんの少しだけ救われた――その時。
「――だから言ったじゃないですか!」
「うるさい! 現場の責任者は俺だ!」
冷たい風に乗って、怒声が響く。
レストハウス裏。
撮影機材の影で、スタッフとマネージャーが激しく言い争っていた。
平和な雪景色の裏側で、
確実に何かが軋み始めている。
(……始まったな)
絶対に事件を防ぎたい、俺のその決意も虚しく
事件は動き始めていた。
転生したら名探偵でした。事件を呼ぶ死神アイドルが俺を好きだって迫ってくるんだが!? きいろい なつ @hykyu2120
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