第22話 手がかり



 喫茶店カフェで。レイラとネクリの2人。


 「入ってみてびっくりした。モデルの世界って、やっぱりいろいろあるよね。出入りも激しいみたいだし。新人の子でも、馴染めなくて、すぐ辞めちゃったりする子もいるんでしょ?」


 レイラは、そろそろ、探りを入れていく。


 何食わぬ顔で。


 警察手帳を見せての聞き込みではなく、潜入しての、一般人を装った聞き出し。これをやるのは、レイラ、実は初めてであった。


 「そうよ」


 ネクリは、無邪気。


 「みんな憧れて入ってくるんだけどね。ここには宇宙中から飛び切りキラキラした子が集まってきてるから。自信をなくしちゃったり、ついていけなかったり。自分の思ってたのと違ったり。うまくいかなかったり。最初からうまくいくなんて、もちろんなかなかないんだけどね。ちょっとしたことで自信をなくして、落ち込んで、逃げ出しちゃう子、それはいるのよ。ま、何があってもびくともしない。とにかく自分を信じる。それがこの世界でやっていく基本よ。レイラもがんばってね」


 「ふうん、ネクリは強いんだね」


 「ふふ、鈍感なだけよ。悪口とか言われても、全然気にしないんだから」


 「あ、それいいね。私もそうしよう」


 「レイラ、私の悪口言いたかったら、いくらでも言っていいよ。そんなの、全然気にしないんだから」


 2人の少女は、見つめあって、アハハっと笑う。



 「でも、私、ネクリみたいに強くなれないな」


 レイラ、じりじりと核心へ迫っていく。


 「やっぱり何かあったら、こたえちゃうかも。今日の事件もあったし。心配だよね。最近辞めた子って、どんなことがあったの? 事件とかあった?」


  ネクリ、考え込む。


 「うーん、最近辞めた子ねえ。誰だったかな。そういえば、消えた子。いたね。新人の子よ。入ってきた時、すごく綺麗で、清楚な感じで、ちょっとみんなに注目されてたわね。でも、デビューして割とすぐに、ドンの新作コレクション出演も決まってたんだけどね、消えるように辞めちゃったの」


 おお。


 ついに掛かったか? レイラ、さりげなく、ホットケーキを食べながら、


 「へえ、新人の子が、ドンの新作コレクションモデルに抜擢されたのに、消えちゃったんだ。せっかくチャンスを掴んだのに? そんなことあるんだ。事情があるんだろうね。どんな感じの子なの?」


 「うーん、あまり話とかする前に、辞めちゃったから」


 ネクリ、必死に思い出そうとしている。


 「えーと、緑の髪の子だったんだけどな」


 レイラの、フォークを持つ手が止まる。


 ナミエだ。


 間違いない。


 ナミエがオーディション合格してからの、ドン・ハルキサワ事務所在籍モデルの顔とプロフィールは、レイラはしっかり頭に叩き込んである。


 緑の髪のモデル。


 それは、ナミエただ1人。


 「緑の髪の子? 清楚で綺麗? でも、辞めちゃったんだあ」


 レイラ、無邪気さを装いながら、踏み込んでいく。


 「なんでかな? 新人モデルの目の前の壁。やっぱりあったんだね。それってどんなのだったんだろう? ほら、私もこれからいろいろ気をつけなきゃいけないし」


 「確か……そうだ。どっかに引っ張られたとか。あ」


 ネクリ、何かを思い出したように。


 「ごめん、この話、しちゃいけないの。するなって言われてて。うっかりしてた。辞めた理由、あれこれ、無責任に詮索しちゃダメだって」


 「そう。そうだよね」


 何もわからない女の子を演じながら、レイラは忙しく頭を動かす。


 よし。


 一歩進んだ。


 ナミエ。


 この事務所のオーディションに合格し、モデルデビュー、そしてドンの新作コレクションに出場が決まった。しかし、どこかへ引っ張られて消えた。その事は秘密。話すなと言われている。


 潜入しての聞き込み。


 まずはこんなものだろう。こちらを疑ってないから、つい、いろいろ話してくれるんだ。


 もちろん、ネクリが失踪の闇に関係しているとは思えないけど。


 収穫。


 ナミエは消えたのではなく、他所に引っ張られた。ここからどこかへ繋げられたんだ。


 そしてその事は秘密。隠している。隠すという事は、隠さねばならない理由があるからだ。


 やはり、このファッションモデル事務所自体が、ナミエ失踪の闇に関わっているんだ。


 やっと。


 ナミエの影を踏めた。


 もう、離さない。つながり、手がかりを、しっかりと手繰っていく。必ずたどり着けるはずだ。


 「あっ!」


 目の前のネクリが叫ぶ。


 「今、気づいた!」


 「えっ!」


 なんだ? まだ重要情報が出てくるのか?


 固唾を呑むレイラ。


 ネクリは、さっとレイラのホットケーキのシロップの瓶を取り上げ、自分の指に一滴らしすると、口に含み、うふっと笑う。


 「このメイプルシロップ、私のお気に入りの銘柄なの。知ってた? メイプルシロップも、銘柄によって、全然違うのよ!」


 レイラは、がっくりと。


 ネクリ。無邪気なその顔に、嘘は無いように見える。


 今日の潜入捜査は、これまでかな。



 ◇



 華やかな下着モデルの世界に身を置いて。


 レイラの潜入捜査は続く。

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下着モデル潜入捜査官レイラの事件簿 茜見零 @111122ssssstoroitoroi

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